表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
激動編
169/359

裏道化師



 市内某所に“九舘(くだち)地下街”という場所が存在する。日々地上を駆け抜ける大量の車をスムーズに走らせるべく、歩行者を地下に移すのを目的として造られた空間だ。面積は約五万平方メートル。一番街から四番街まで、やや大雑把に四つの商業区分に分けられており、北側が一、二番街。南側が三、四番街となっている。その中間には広場が設けられていた。


 九舘地下街は、地元の人間からはしばしば“|九街”の略称で呼ばれており、読み方は「くがい」とも「きゅうがい」とも、人によってどちらかに分かれる。正式な略称は無く、公式ホームページには「“くがい”でも“きゅうがい”でも好きなほうで呼んで下さい」と記載されていた。


 根の国をあとにした樹流徒は、丁度今、その九街に降り立ったところだった。

 彼がここに来た理由は、当然ながら決戦の地・号刀城へ向かうためである。九街から別の地下街を経由して駅にたどり着くことができ、その地下鉄の路線をなぞって歩けば、六駅目で号城城の近くに到着する。そちらのルートを進んだ方が普通に地上を歩いてゆくよりも敵と遭遇する危険性が減りそうだ、と考えた結果だった。


 床には白いタイルが敷き詰められている。道幅は目算で三十メートル前後。当然ながら明かりはついていない。しかし闇を見通す能力を持つ樹流徒にとっては何も問題では無かった。


 むしろ問題なのは彼の視覚機能よりも、精神のほうである。今、樹流徒の瞳には周りの様子が全く見えていなかった。左右や背後だけでなく、真正面の状況にさえ最低限の注意しか払っていない。いつになく無用心だった。

 その原因は、夜子から指摘された通り、樹流徒の気負い過ぎに他ならない。メイジとの再会と、悪魔が現世で行なう最後の儀式が目前に迫っているのである。そのことで頭がいっぱいで、樹流徒は周りの状況に注意を払っていられなかった。


 決戦への意気込み。敵への憎しみや、親友をどうやって説得すればいいのか分からないことへの焦り。それらが脳内で激しい化学反応を起こして今にも爆発しそうだ。平常心を保つのが難しかった。無理矢理にでも己の士気を鼓舞しなければ、見えない何かに精神が押し潰さてしまう。


 少しでも油断すれば目の前にメイジやフルーレティ、それから想像上のベルゼブブの姿が浮かんでくる。瞼を閉じてそれらを掻き消しても、次々と新しい映像がちらついた。中でも特に樹流徒が目を逸らしたかったのは、メイジに殺されて大地に横たわる自分の姿だった。決して負けられない戦いなのは分かっているが、樹流徒にはメイジの説得を成功させるイメージも、メイジと戦って勝利する自分のイメージも、どうしても思い浮かべることができない。逆に悪い結末ばかりが頭を過ぎる。それををかき消すためにも、樹流徒は余計気負っているのも知れなかった。


 九街の一番街には美容と健康に関する店が集中している。美容院、ドラッグストア、エステなどの店が通路の両側に並んでいた。また、ここには地下駐車場も存在している。

 その中を素早く通り抜けて、樹流徒は二番街に入った。ここにはファッション関係の店が固まっている。企業ビルが地下で運営している店と直結している部分もあった。樹流徒はこの場所もさっさと通り過ぎる。


 市民の遺体はどこにも見当たらない。地上のみならず、このような地の底までお目こぼし無しのようだ。人々は皆ベルゼブブの仲間か別の悪魔に連れ去られたと見て間違いないだろう。


 二番街を抜けると、床が円形状に広がった中央広場に出た。

 そこで樹流徒が遭遇したのは、壁際に佇む謎の異形。ほぼ全身から棘を生やし、顔の側面には大きな目玉がくっついている。白目は血走り、瞳孔は左右で見ている方向が違った。


 悪魔じみた姿をしているが、悪魔ではない。それどころか生物ですらなかった。

 壁際に立っていたのは、“ハリせん太”の像だった。ハリせん太というのは、九街のマスコットキャラクターである。ハリセンボンを、俗に言う擬人化したキャラクターだ。人を小馬鹿にしたような顔をしており、見たものを苛立たせることで定評がある。可愛さと気持ち悪さを兼ね備えた不思議なマスコットだ。デザインは市民を対象とした公募の中から選ばれたものだが、一体何故これが採用されたのかは謎である。


 ハリせん太の像は待ち合わせ場所の目印として、よく市民に利用されていた。

 樹流徒はその前も素通りして中央広場を後にする。そして三番外へ。


 三番街には飲食店が並んでいた。和洋中の店から、ベーカリー、甘いものを出す店まで何でも揃っているが、それ故にテーマ性や統一感といったものは感じられない。ただ、どの店も清潔感があって食べ物がおいしいため市民のみならず他所(よそ)から訪れる人たちからもおおむね好評だ。また、ここ三番街は大手デパートの地下と繋がっている。


 その先へ進むとFM放送を行っているサテライトスタジオがあり、それが三番街と四番街の境界線になっていた。


 最後に四番街。ここにはその他さまざまな店が混在している。書店、占いの店、金券ショップ、楽器店等々……。また、一番街と同じく地下駐車場があった。

 この四番街から、九街と隣接する別の地下街へ移ることが出来る。更にその地下街に設置されているエスカレーターを下れば、地下鉄のホームに到着だ。


 ところが、ここまで全く歩調を変えず順調に進んできた樹流徒が、足を止めた。

 目の前に人影が現れたからである。それも一つではなく、三つ。今度はマスコットキャラクターの像などではない。本物の悪魔だった。


 三体の悪魔は占いの店の前で、どこかから運び出した四角いテーブルを囲って座っている。


 彼らの内一体は老騎士の姿をしていた。背中に槍を背負い、ボロボロになった灰色の布を頭から膝下まですっぽりと被っていた。足には銀色のすね当てを装備している。また、頭を覆う布から長い白髪が飛び出して真っ直ぐに垂れ下がっていた。顔は見えないが、それでも老人だと分かるのは、手の甲に刻まれた深いシワの数々と、口元に茂った真白な髭が見えるからだ。ついでに大きく曲がった背中も老人らしさを表している。


 一方、老騎士の両斜めには大きな悪魔が向かい合って座っていた。両者とも猫の頭部と人間の体を持っている。片方は青い目をぱっちりと開いた白猫で、もう片方は眠たそうに半分まぶたを閉じた赤目の黒猫だ。彼らは頭に王冠を載せ、中世ヨーロッパの貴族を連想させる衣装に身を包んでいる。

 少し前に樹流徒はアフとヘマーという兄弟天使と出会ったが、こちらは兄弟の悪魔だろうか。


 老騎士の悪魔と、猫の頭部を持った兄弟(?)悪魔。彼ら三体の悪魔が囲うテーブルを見ると、その上には麻雀の牌が散らばっていた。老騎士の足元には彼の腕から外されたと思われる左右のガントレットがきちんと揃えて置かれている。一方、白猫悪魔の足元には既に使用した後らしき花札が置かれていた。談笑を交わしながらギャンブルでもしていたのだろうか。


 樹流徒は前方の悪魔たちを注意深く観察した。重要な戦いを目前に控えていつもより注意力が散漫になっていたとはいえ、悪魔が目の前に現れれば若干慎重にはなった。


 が、悪魔たちから殺気を感じなかったため、樹流徒は先ほどと変わらぬ足取りで歩き始める。

 悪魔たちのそばを横切り、何事もなく通りすぎた……


 かに思われた、その時。


「おぬし…………死相が見えるな」

 老騎士が声を発した。かすれているが、深みのある穏やかな声色をしている。それは間違いなく樹流徒の背中に向かって投じられたものだった。

「死相?」

 樹流徒は老騎士のほうを見返り、鸚鵡(おうむ)返しに尋ねる。


「いかにも。おぬしには死相が浮かんでいる。その原因は、おぬしの胸中に渦巻いている強烈な感情。憤怒、緊張、悲哀、迷い、そして焦燥……」

 老騎士はテーブルのほうを向いたまま語る。


 樹流徒は顔をしかめた。相手の言葉に少なからず心当たりがあったため、思わず表情を曇らせずにはいられなかった。

 が、これ以上無関係な悪魔に構っている気分ではない。彼は再び歩き出す。


「アレ、ニンゲンだったのか。悪魔かと思った」

「ボクも。同族かと思ってフツーに見送っちゃったよ」

「というか、まだ生きてるニンゲンがいるなんて思わなかったな」

 白猫と黒猫の悪魔がそのような言葉を交わしている。

 その声もほとんど意に介さず樹流徒は先を急ごうとした。


 突如、眼前が暗転する。漆黒の壁が樹流徒の行く手を塞いだ。

「これは、魔空間か」

 すぐに気付いて樹流徒は黒い壁を叩く。壁がびくともしないことを確認すると、踵を返して、この空間の発生源と思われる老騎士を睨んだ。

「ほう。魔空間のことを知っているのか」

 老騎士の悪魔は二本の指先を使って顎髭をつまみ、伸ばす。


「急いでいるんだ。この壁を消してもらえないか?」

「まあ待て。さっきも言ったとおり、おぬしの顔に死相が出ているのだ」

「だとしたら、どうだというんだ?」

 樹流徒は苛立ちを隠さない。


「おぬしは戦いの場へ向かうつもりなのだろう? 今の乱れた心を抱えたまま戦地に赴けば、おぬしの命は危ういかも知れんぞ」

「もとより覚悟の上だ。いいから早く通してくれ」

「断る、と言ったらどうする?」

「え」

「このまま私がおぬしを閉じ込めると言ったらどうする? と聞いたのだ」

「不本意だが、僕はお前を倒してこの空間を消す」

 樹流徒の爪が長く鋭利に伸びた。


 それを見て、ボロを纏った白髭の悪魔は「ほう」と、驚きとも笑いともつかぬ声を上げる。

「私を倒す? だが果たしておぬしにそれができるかな? 私には、おぬしが無抵抗の者を平気で殺したりできるような者には見えないぞ」

 などと知った風な口を利いた。


 樹流徒は爪を元に戻した。老人が何を根拠にそのようなことを言うのかは分からない。が、彼の言葉は間違っていなかった。いかに樹流徒が平常心ではなかったにせよ、無抵抗の者を手にかけることはできない。ベルゼブブの手先が相手ならばまだしも、それ以外の悪魔に対しては何の恨みもなかった。


 すると老人は初めて顔を上げた。フードのように頭を覆う布切れの奥で、細長い瞳が輝く。赤紫色の虹彩には幾重にも広がる同心円の線が刻まれていた。

 吸い込まれそうなその瞳に樹流徒が意識を奪われていると、老人は髭の下に隠れた口を微動させる。

 それが優しく柔和な笑みに見えて、樹流徒の心が幾分和んだ。

「それでいい。今、おぬしの死相が少し薄れた」

 老人の悪魔はふぉふぉと声を出して笑った。


「お前が僕の行く手を遮る理由はなんだ? 僕に死相が見えるからといって、何故止める?」

 樹流徒は問う。

「理由か? そうだな……」

 老人は少し考える素振りを見せて

「ニンゲンの世界にも“縁”や“運命”と呼ばれる言葉があろう? 強いて理由を挙げるならばそれだ。おぬしと我々がこうして出会ったのも何かの縁。運命だ。故に、折角だからおぬしの死相を消し去ってやろうと思ったのだ。いわば親切心から生まれた行為だと思ってくれればいい」

 と、答えた。


「そんな話を信じろというのか?」

「信じるか否かはおぬしの自由だ。ただ、心乱れた者は信じることよりも疑うことをつい先んじてしまう。おぬしもそうは思わぬか?」

 老人はまた声を出して笑う。


「仮にお前の話が本当だとして、僕にどうしろと言うんだ?」

「うむ……。それなのだが、ひとつ我々と遊びをしようではないか」

「遊び?」

 いきなりの提案に、樹流徒は思わず聞き返す。

「実は、現世を散歩しているあいだにこんなものを見つけたのでな」

 老騎士はそう言って、袖の中に手を突っ込んだ。

 そしてプラスチック製の小さな箱を取り出す。


 樹流徒の見間違いでなければ、それはトランプのケースだった。裏がチェック柄のシンプルなデザインをしたトランプだ。一見したところ、確かに現世の商品だった。

「ニンゲンのおぬしならば知っているだろうが、これはトランプと呼ばれる遊具だ。今からこれを使った“ゲェム”をしよう。それで我々に勝つことができたら、魔空間を消してやる」

「……」

 樹流徒は眉根を寄せた。気分的にも、時間的にも、今はトランプなどで遊んでいる場合ではない。そんなことをして本当に死相とやらが消えるのかという点も甚だ疑問だった。もっと言うならば、そもそも死相というものが実在するのかも不明である。


 別の疑惑もあった。この三体の悪魔が敵じゃないとは限らない。もしかするとベルゼブブの仲間かも知れない。あたかもベルゼブブとは無関係であるように装って、戦闘以外の方法で樹流徒を足止めしようとしているのかも知れなかった。


「悪いが、そんな遊びに付き合っている暇は無いんだ」

 樹流徒が断ると

「ならば、しばらくのあいだ我々と一緒にいるがいい。心配せずともあとニ、三日もすれば我々は魔界へ帰る」

 老騎士は手に持ったトランプをテーブルの上に置いた。


 冗談じゃない。樹流徒は心の中で反論した。もしかすると実際口にしたかも知れない。ともかく、本当に冗談ではなかった。こんな場所でニ、三日も待ってたら全てが終わってしまう。


「あんまりイジワルしちゃ駄目だろ、“フルカス”」

 そのとき、白猫の頭部を持った悪魔が口を開いた。穏やかな語調で老騎士を注意する。

「意地悪などではない。むしろ逆。この後死ぬかも知れぬ運命のニンゲンを救おうとしているだけだ」

 フルカスと呼ばれた老騎士は即答した。


「もしお前の言う通りゲームをして、僕が勝てなかった場合はどうなるんだ?」

「その場合、いつまで経ってもゲェムは終わらん。おぬしが勝つまで勝負は続く」

「……」

 樹流徒は軽いため息が出そうになって、それをぐっと堪えて飲み込んだ。


 こうなったら、やるしかない。ゲームに付き合うしかない。

 彼はそう決めた。他にどんな選択肢があるというのだろうか。まさか、老騎士を手にかけるわけにもいかない。万が一実行するにしても、それは最後にして最低の選択だ。


 悪魔たちが囲っているテーブルには、偶然か否か、椅子が一つ余っていた。樹流徒は急いでそこに座る。そして真正面に腰掛けるフルカスに言った。

「時間が勿体無い。早くルールを説明してくれ」

「よかろう」

 老騎士は髭の下に隠れた口の両端を持ち上げた。


 ここで、黒猫の悪魔が思い出したようにのそりと立ち上がる。

「じゃあ、フルカスがルール説明してるあいだに飲み物でも取ってくるよ」

 そう言って、眠たそうな眼をすぐ近くにある自動販売機に向けた。


 フルカスは黒猫の悪魔の大きな背中を数秒見送ってから、樹流徒の方を向いて口を開く。

「さて、今からやるゲェムは、現世の遊戯を元に私が考案したものだ。その名も“裏道化師”という」

「裏道化師?」

「うむ。なんだか仰々しい名前だが、ルールはいたって簡単。トランプのワイルドポーカーとほぼ同じだ。おぬし、ポーカーは知っているか?」

「簡単なルールなら知っているけど、チップを賭けたポーカーは知らない」

「問題ない。では、これからやるゲェムから駆け引きの要素は排除しよう」

「あと、ワイルドポーカーという言葉は初めて聞いた」

「ワイルドポーカーというのは、ジョーカー(ワイルドカード)を使用するポーカーのことだ。通常のポーカーではジョーカーは使用しないのでな」

「そうなのか。ジョーカーを使うのが普通だと思っていた」

「ふむ……。ならば却って都合が良い。おぬしはワイルドポーカーにおけるジョーカーの役割を知っているということだな?」

「ああ」

 ワイルドポーカーにおいて、ジョーカーはあらゆるカードの代わりとして使うことができる。ジョーカーをスペードのエースとして扱ってもいいし、ハートの2として扱ってもいい。言わばジョーカーは万能カードなのだ。


「それが分かっているならば裏道化師のルール説明も容易になる」

「というと?」

「それを話す前にもう一つだけ質問する。おぬし、麻雀はするか?」

「麻雀? いや、そっちは未経験だ。ルールも余り詳しくない」

「うむ。では麻雀の裏ドラという専門用語については?」

「それなら知っている」

 麻雀では、リーチをかけて和了(アガ)った時に表ドラ表示牌の下段にある牌をめくることができる。それを裏ドラ表示牌といい、その下の牌を持ってればボーナス点が貰える(厳密に言えば裏ドラ一枚ごとに一翻(イーハン)上がる)。これが裏ドラだ。

 大雑把に言ってしまうと、つまり裏ドラとは「自分が持っている牌の中に偶然当たりが含まれていたら沢山点を貰える」システムなのである。


「そうか、そうか。裏ドラについて知っているのならば問題ない。実は、裏道化師というゲェムは、麻雀独自の要素である裏ドラをポーカーに応用したものなのだ」

「詳しく聞かせてくれ」

「通常のポーカーでは最後の手札公開が終了した時点で勝負が決まるだろう? しかし、これから我々がするゲェムの場合、裏ドラの要素を組み込むことで最後に逆転のチャンスが残されているのだ」

「具体的にどうするんだ?」

「全員の手札が公開されたその後、さらにカードの山札から一番上のカードをめくる。そして“めくったカードの次の数字のカードをジョーカーとして扱う”」

「じゃあ……例えば、山札の一番上のカードがAだったら、2のカードをジョーカーとして扱うのか」

「そういうことだ。余談だが、最後にめくるそのカードを“裏ジョーカー表示カード”と呼ぶ。単に“表示カード”と呼んでもいい」

「分かった。表示カードよりも数字が一つ大きいカードがジョーカーになる、と覚えておけばいいんだな?」

「うむ。そうやってジョーカーに変化したカードを“裏ジョーカー”と呼ぶ。麻雀で裏ドラが乗れば点数が上がるように、裏道化師では裏ジョーカーによって手札が強くなるわけだ。ただし、和了(アガ)った者のみが恩恵を受けられる裏ドラとは違い、裏ジョーカーは誰に影響を及ぼすか分からない。結果次第では勝者が入れ替わるのだ」

「ああ、言っていることは理解できる」

 樹流徒は軽く頷いた。


「裏ドラと裏ジョーカー、両者の違いはもう一つある。裏ドラが表示牌の下の牌のみを対象とするのに対し、裏ジョーカーはスート(スペード、ダイヤ、ハート、クラブの四つのマークのこと)に関係なく、特定の数字のカード全てをジョーカーとして扱う。例えば裏ジョーカー表示カードがハートのAだとしたら、ハートの2だけでなくスペードの2やダイヤの2もジョーカーとして扱うのだ。その場合、2のワンペアを所持していれば、ジョーカーニ枚を所持している状態になる」

「ただのワンペアが最低でもスリーカードに化けるのか……」

「山札の一番上に道化師ジョーカーを決定するカードが置かれている。裏になっているその一枚をめくるまで勝負の行方は分からない。だから裏道化師(・・・・)。このゲェムで三連勝したらおぬしの勝ちとしよう」

 老騎士は布の奥に隠れた瞳を再び樹流徒へ向ける。その瞳は、改めて近くで見ると人の顔を射抜くような鋭さを持っていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ