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悪魔倶楽部  作者: ぴらみっど
激動編
160/359

令司の選択



 儀式の成否を賭けた戦いは時を追うごとに激しさを増してゆく。絶叫と咆哮が絶えず飛び交い、炎に焼かれた芝草はあちこちで小さな煙を上げていた。ネビトの体を貫いた剣が尖った頭を赤い血で滴らせ、大地に横たわっている。別の場所では天使の背からもがれた羽根が純白の体を風に揺らしていた。両軍とも既に相当な数の死傷者を出している。


 ただ、それにもかかわらず、この戦場にはどこか悲惨さや生々しさが欠けているようだった。その理由はきっと、死者の骸が存在しないせいだろう。ネビトにしても天使にしても死体が残らないのだ。命を失ったネビトは肉体が燃え泥のような物体になって大地に染み込む。魔女やカラスも同じだ。天使の場合は白銀に輝く光の粒となって宙を漂い、最後は完全に消滅する。

 死んだ者たちは皆、元々どこにも存在しなかった者のように忽然と消えてしまう。まるでこの戦いの(むご)たらしさや醜さを隠そうとしているかのようだった。


 しかし、どこか淡白さが漂うこの戦場で、命は刻々と失われていた。それも大量に。

 今また一体の天使が聖魂となってこの世から消える。樹流徒が連射した炎の球体をまともに浴びたのが最後だった。これで魔人が葬った天使の数は丁度五十体目になる。

 樹流徒と柝雷(さくいかずち)は敵陣の中で猛威を振るい続けていた。その勢いを止める者の存在は今のところ皆無である。彼らの活躍を目の当たりにして意気が揚がったのか、ネビトや魔女の攻撃も激しさを増し、根の国は本来の劣勢を押し返そうとしつつあった。


 しかし樹流徒の目には、天使の数が一向に減っていないように映った。実際には相当な数の天使を撃破しているのだが、根の国ばかりが兵を失っているように感じられた。このままのペースで戦い続けても、儀式の阻止はおろか魔法陣に近付くことすらできない。最悪ネビトや魔女の全滅ひいては敗走もあり得えるのではないか。そんな予感が頭を()ぎった。


 焦りは段々と強くなる。思えばそこには一種の苦手意識が働いていたのかも知れなかった。樹流徒は今までに何度か敵の儀式を阻止しようとして、全て失敗している。当時の苦い記憶が彼の脳裏にこびり付いているのだけは間違いなかった。

 そんな樹流徒とは対照的に、渚は不安や恐怖といった感情とおよそ無縁そうな普段通りの表情で戦っている。彼女は地上の最前線で絶えず走り回り、宙を舞う。そして手に持った炎の刀で辻斬りの如く手当たり次第に天使の体を切り裂き、焼き尽くしていた。まるで踊っているような動きだった。


 渚の遥か頭上で、樹流徒は死に物狂いで戦っている。

 天使ドミニオンが剣を振りかざして樹流徒に斬りかかった。樹流徒はドミニオンの攻撃を敢えて紙一重でかわして素早い反撃に移る。凶刃が前髪を掠めた瞬間に腕を引いて力を溜め、ドミニオンの手が完全に振り下ろされた頃にはもう爪の一撃を放っていた。それは天使の胸を正確に貫く。力なく垂れ下がったドミニオンの手から剣がこぼれ落ちた。


 樹流徒は敵の体から爪を引き抜く。と、彼の背後から新たな天使が襲いかかった。白い衣に身を包んだ金髪の男である。両手首には黄金のアンクレットを重ねていた。恐らくこの天使は、仁万やベルと共に樹流徒を襲ったあの天使と同じタイプだろう。前回は少女の姿をしていたが、今度は凛々しい青年の姿をしている。


 その青年天使は武器を所持していない。樹流徒の背中に向かって蹴りを繰り出した。樹流徒は振り向きざま両腕を交差して敵の攻撃をブロックする。衝撃で少し後方へ下がった。手に軽い痺れが走る。


 この展開を好機と見たか、更に別の天使が樹流徒を襲った。四つの目を持った巨人の天使パワーである。パワーは樹流徒の真上から槍を投擲(とうてき)した。放たれた槍は常人の目に追えない速度で落下し、標的の頭頂部を確実に狙う。

 が、樹流徒は頭上からの攻撃に反応し、更にはそれを利用した。降ってきた槍を素早く掴むと、そのまま流れるような動作で正面の敵めがけて投じる。この攻撃に青年天使は殆ど反応できなかった。彼は味方が投げた槍に喉を射抜かれて墜落する。


 樹流徒は素早く全方位を見渡した。天使たちが勝負を避けるように自分との間合いを少しずつ広げている。誰も積極的に攻撃を仕掛けてこようとはしなかった。防戦に転じる構えを見る。


 ところが、後退する天使の群れに紛れて、たった一つだけ樹流徒に接近する影があった。その人影は翼を持っていない。代わりに刀を携えていた。


「八坂か!」

 高速で接近してくる影に向かって樹流徒は叫ぶ。

 令司は飛行速度を緩めず、突進の勢いを利用して刀の強烈な突きを繰り出した。樹流徒は相手の殺気を感じて即座に魔法壁を張る。虹色の防壁が出現して刀の切っ先を弾いた。

 令司は軽く舌打ちをする。一部の天使から囁きに近い小さなどよめきが起こった。


「相馬。俺と一対一の勝負をしろ」

 令司は刀の先端を樹流徒の顔に突きつけながら一方的にそう言うと、さっと身を翻し、どこかへ向かって飛んでゆく。樹流徒が返事をする間は無かった。

 時間がないとはいえ、彼の後を追わないわけにはいかない。樹流徒はすぐに令司の後を追う。それを妨害する天使はいなかった。戦場から離れようとする敵をわざわざ引きとめる必要は無い、と考えたのだろう。


 水色の空を飛翔する二つの影はあっという間に戦域を離脱して、更に遠くへ進む。


 一体どこまで行く気だ? 樹流徒がそう思いかけた時、前を飛ぶ令司の体が止まった。

 令司は全身に殺気を(みなぎ)らせ、静かに振り返る。両者は空中で向かい合った。


「お前を見た時は少し驚いた。少し見ない間にすっかり化物に成り下がったな」

 令司は、化物じみた樹流徒の姿を、憎しみのこもった瞳で見つめる。樹流徒個人に対する嫌悪ではなく、樹流徒の体内を巡る悪魔の力への憎悪がそうさせたのだろう。


「八坂……。天使の命令で参戦したのか?」

「そうだ。儀式を邪魔する者は全員消すように言われている。そのために俺はより強力な天使から洗礼を受けた。お陰で飛行能力を手に入れ、こうしてお前を戦場の外へ連れ出すこともできたというわけだ」

 令司は表情も口調も冷淡だった。


「早雪さんもこの戦場に来ているのか?」

「お前には関係ないだろう……。と言いたいところだが、以前共闘したよしみで教えてやる。早雪は今、俺たちが住んでいる家にいる。幸い、家は今のところ軽い被害で済んでいるからな」

「じゃあ早雪さんは一人で家にいるのか」

「仕方がない。アイツは今、とても動ける状態じゃないからな」

「なに? 彼女に何かあったのか? まさか呪いが……?」

「そうだ。悪魔の呪いによる発熱が起こった。それもかなりの高熱だ」

「大丈夫なのか?」

「今までにも何度か起きている症状だから、今回も大丈夫だと信じるしかない。ただ、伊佐木が隊長に連れて行かれ、それを阻止しようとした南方が天使に処刑された。それらのショックが早雪の心身に悪影響を及ぼしたのかも知れん。アイツにかけられた呪いはそういう時に特別効果を発揮する」

 厄介な呪いだった。心身が弱った人間に牙を向くなど、まるで抵抗力が弱った者を侵す感染症のようだ。樹流徒は早雪の身を案じた。


「渡会が目を覚ましたのは幸いだったが、アイツは伊佐木を助けるために組織を裏切った。恐らく早雪のためにそうしたんだろう。だが、正直なところ俺にはアイツの考えていることが良く分からない。以前から少し疑問に思っていた。渡会は俺たち兄妹に対してどこか無理に気を遣っているような気がする。それは単にアイツが俺たちの境遇に同情して優しくしているのか、あるいは……」

 そこまで言って、令司は唇を結ぶ。直後、はたと気付いたように「余分な話をしたな」と少し苦い顔をした。


 やはり八坂兄妹は知らないのだ。渡会が兄妹の悲劇に深く関わっていることを、聞かされていない。

 樹流徒がその気になればこの場で全ての事実を白日の下に晒すのは可能だが、それはしなかった。八坂兄妹に真実を伝えるのは渡会の役目である。


 それよりも、樹流徒はもっと別のことを令司に伝えなければいけなかった。

「聞いてくれ八坂。今は僕たちが争っている場合じゃない。天使たちは市内にメギドの火を降らせようとしている」

 しかし令司は微塵も表情を変えない。

「そんなことは知っている。厳密にはメギドの火が着弾する座標を龍城寺市に合わせようとしているんだ。今回の儀式が成功すれば、天使は好きなタイミングで確実にこの土地を滅ぼせる」

「それが分かっていて天使の味方をするのか?」

「決して本意じゃない。龍城寺は死んだ市民たちの形見とも言える場所だ。俺だってこの土地にはそれなりに思い出がある。だが、それを焼き払う代わりに悪魔を一網打尽にできるならば、俺はそちらを選ぶ」

「メギドの火が降ればお前や早雪さんの命も無いかも知れないのに?」

「それなら心配には及ばん。俺たちは天使の洗礼を受けている。洗礼を受けた者はメギドの火を浴びても生き延びられると、先程天使から教えてもらった。まあ、お前たちは死ぬだろうがな」

「その話は真実なのか?」

「確証は無い。もしかすると天使の虚言かも知れんな。だが信じるしかないだろう」

「しかし……」

「どの道、俺には天使を裏切れない。そんなことをすれば結局俺たち兄妹に未来は無いからな」

 令司はそう言って、僅かに視線を下げた。

 このとき樹流徒は気付く。令司は今後も悪魔と戦い続けるためにも、妹の呪いを解く儀式を行うためにも、組織に身を置き続ける必要がある。そのためには天使の命令に従わなければいけない。例え天使の言葉が疑わしくとも、彼は組織を裏切るわけにはいかないのだ。


 ならば、樹流徒がやるべきことはもう一つしか無かった。令司を殺さないように倒し、そのあとで天使の儀式を止める。最早その道しか残されていなかった。

 察した樹流徒は即座に悪魔の爪を発動する。

「それでいい」

 令司は刺す様な目付きをしながらも、口元を微かに緩めた。


 両者はどちらからともなく下降して、真下にある狭い道路に降り立つ。両脇は民家の塀に囲まれていた。普段から人通りが少ない場所だ。地面に落ちている荷物も無いし、道路に止まっている車も無かった。


 両者は身構える。睨み合いの時間はほとんど続かなかった。

 樹流徒が飛び出す。やや前のめりになるような格好で体勢を低くして駆けた。令司の真正面から突っ込む。


 いかにフラウロスの爪が長いとはいえ、刀のリーチには及ばない。先手を打ったのは令司だった。彼は樹流徒が攻撃範囲に入ったと見るや、脇の前で構えた刀を突き出す。それは低い姿勢を保つ樹流徒の額めがけ真っ直ぐ伸びた。

 これに対して、樹流徒は左手の爪で刀を受け流す。令司の攻撃を上手くいなしつつ、相手の懐に入り込むことに成功した。残った右手の爪を解除して、握り拳で令司の脇腹を狙う。


 が、不意に背筋がぞわりとした。樹流徒はほぼ無意識の内に攻撃を中断し、上半身を仰け反る。以前、図書館の前でビフロンスという褐色ネズミの姿をした悪魔と戦った時、ボディーブローに合わせて膝蹴りのカウンターを顎に食らったことがある。今の状況はそれと良く似ていた。当時の記憶を鮮明に記憶していた樹流徒の体が自然に回避行動を取ったのである。


 結果として過去の実戦経験が役立った。樹流徒が上体を反らした直後、令司の膝が彼の眼前を通り過ぎてゆく。樹流徒は上半身に引っ張られるように、そのまま数歩後退した。


 今度は令司が仕掛ける。彼もまた地面を駆け樹流徒の正面から突進していった。

 樹流徒はその場で足を止めて迎撃の態勢に入る。飛び道具なしの真っ向勝負を受けることにした。

 示し合わせたように令司もように小細工を使わない。彼は上段の構えから真っ直ぐ刀を振り下ろした。刃が緑色の光を纏う。単純な軌道だが威力と気迫のこもった一撃が繰り出された。


 樹流徒は両手の爪十本全てを重ねて刀を受け止める。振り下ろされた刃は爪を五本切断して停止した。

 そこから鍔迫(つばぜ)り合いへ移行する。腕力でも足腰の力でも勝っている樹流徒は、上から押さえ込むような形で力を加えてくる刀を徐々に押し返してゆく。苦もなく五分の体勢に持ち込んだ。それにより樹流徒と令司の顔の高さがほぼ水平になる。両者の視線がぶつかった。


 ここで、樹流徒は初めてあることに気づく。先刻まで憎悪のみを宿していた令司の暗い瞳が、どこか迷いを生じさせているように見えた。

 その瞳に樹流徒が気を取られた寸隙を突いて、令司は腕に凄まじい力を込め前方に押し出す。意外な勢いを受けて樹流徒は前足を一歩後退させた。そこに僅かな隙が生じる。


 令司はすかさず刀の柄の裏を樹流徒の横っ面に叩き込んだ。更に左の拳を唸らせ、樹流徒の顔面を弾こうとする。

 樹流徒は咄嗟に左手を伸ばし、相手の袖を掴むことで難を逃れた。ついでに掴んだ袖を思い切り引っ張って令司の体勢を崩す。

 それにより今度は樹流徒に反撃の好機が舞い込んだ。彼はすかさず左の膝蹴りを繰り出す。その一撃はがら空きになった令司の腹にめり込んだ。衝撃で令司の足裏が地面から数センチ浮く。彼は口からうっと空気を吐き出して数歩後ずさった。


 樹流徒は追い討ちを狙う。それが見事に決まった。右の拳が相手の頬を強か殴りつける。

 令司はたまりかねたように更に後ろへ下がった。が、足下はしっかりとしている。彼は後退した足で踏ん張ると、力任せに刀を振った。更なる追い討ちを仕掛けようとする樹流徒の出足を止める。


 樹流徒は仕切り直しのつもりで一旦後ろに跳ねた。


 両者が数回呼吸をすると、令司は刀の先端を樹流徒に向けた。

「相馬。お前は天使の儀式を阻止するために決着を急いでいるはずだ。その気持ちを汲んでやる。次で勝負だ」

「次で……」

「そう。仕切り直しは二度と無い。どちらかが戦闘不能になるか、自らの意思で一歩後退したら負けとする。そして敗者は潔く戦場から去るんだ。どうだ? この賭けに乗るか?」

「分かった、勝負だ」

 樹流徒は即答した。この申し出が罠という危険性は微塵も考えなかった。八坂令司はそこまで姑息な人間ではない。樹流徒は、かつて共に戦ったこともある青年を信用した。


 数秒、互いの視線がぶつかり合う。この戦いが始まって初めて時がゆっくり流れた。


 それが終わりを迎えた時、両者が同時に飛び出す。樹流徒は最初と同じようにやや前傾姿勢で疾走する。令司は刀を横に構えて狭い歩幅で駆けた。刃と地面が綺麗な平行線を描く。


 樹流徒の体が令司の攻撃範囲に入る数歩手前だった。刀の先端がスッと下の落ちる。

 これを見て、樹流徒は次に来る攻撃の軌道を直感的に予知した。彼の想像通り令司の刀が下から斜め上に向かって振り上げられる。


 命中すれば樹流徒の胴体は腹から胸までばっさり切り裂かれていただろう。しかし樹流徒は恐らく相手が予想もしなかったであろう行動に出た。彼は令司が刀を落とした次の瞬間に跳躍して、フラウロスの足の爪を発動した。そして令司が振り上げた刀に足の爪を引っ掛ける。爪を利用して刀の上に乗ったのである。これは、樹流徒の跳躍力とバランス感覚、そして彼の全体重を刀一本で支える令司の腕力、その全てがあってこそ成し得た芸当である。人間として凡そ規格外の能力を持った者同士だからこそ可能な技だった。


 相手の刀を足場にして樹流徒は前方へ跳躍する。これには流石の令司も呆気に取られた顔をした。

 樹流徒は相手の体を飛び越えながら足の爪を繰り出し、令司の右肩をえぐる。無論手加減はした。その気になれば相手の喉を貫く事もできたし、肩を貫通して心臓部まで突き刺すこともできただろう。


 令司は刀を落とし、肩を抑えてその場に片膝を着いた。指の間から血が滲む。

 勝敗は決した。あっけない幕切れだった。そういう決着の仕方をするように合意の上で行われた勝負だったが、それにしても実にあっけない終わりだった。

 樹流徒にはその理由が分かっていた。こうも簡単に決着がついたのは、令司が本気を出していなかったからだ。樹流徒は以前、令司とメイジの戦いを目の前で見ている。あの時に比べれば、今回の令司の動きは明らかに鈍かった。彼が本気ならば樹流徒が最後に放った攻撃を紙一重で避けていたかも知れない。


「俺の負けか……。つまらんな」

 令司は樹流徒から顔を背ける。

「傷は大丈夫か?」

「当然のことを聞くな。お前の攻撃なんかで俺の体がどうにかなるものか」

 令司は刀を拾って立ち上がった。そして樹流徒の方をちらと見て言葉を続ける。

「俺は天使の命令に従って相馬と戦い、遺憾ながら敗れた。だから、俺は組織に逆らっていない」

 その説明的な台詞を聞いて、樹流徒は確信した。やはり令司は本気を出していなかった。故意に負けたのだ。令司は天使の命に背かず、かつ樹流徒に儀式を阻止させる道を選んだ。


「おい、いつまでここにいるつもりだ? さっさと行け」

 令司は照れを隠すように無愛想な態度を取る。血のりがべっとりついた指先を戦場の方角に向けた。

「分かった。メギドの火は必ず止める。お前は早雪さんのところへ戻ってあげてくれ」

「言われんでもそうする」

「そうか。いや、そうだろうな」

 樹流徒は頷いて、漆黒の羽を広げた。令司の気持ちに応えるためにも今回の戦いは余計に負けられない。一刻も早く戦場へ戻らなければ。膝を曲げて足に力を込めた。


 が、樹流徒が大地を蹴って宙に飛び出そうとした、その時である。


 樹流徒は一驚を喫して全身の動きを止めた。令司も瞳を丸くしてその場に固まる。

 いつの間にか、遠方の空に沢山の影が浮かんでいた。ひと目見ただけでも千以上の数だと分かる。大量の生物が飛行しているようだ。鳥のような生き物から、人間と似た姿の生き物まで、姿形はさまざま。その異形の群れはひとつの方角を目指してまっすぐ進んでいた。多分、彼らが向かう先にあるのは中央公園。


「あれは……悪魔の群れか」

 令司は独りつぶやくと、憎憎しげな瞳を空へ向けた。

 果たして彼の言葉通り、空に現れたのは数千の悪魔だった。飛来する悪魔の大群が次々と樹流徒たちの頭上を横切ってゆく。悪魔たちは戦場へ乱入しようとしているようだ。


 悪魔、天使、根の国。三つの勢力が一堂に会する。戦いの行方はますます混迷の度合いを深めようとしていた。





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