少女たちの告白(後編)
樹齢百五十年を数える杉の木が立ち並び、遠くにそびえる山の裾野まで続いている。肥沃な黒土は落葉や小枝によって半分隠れていた。辺りには紫がかった毒々しい色の濃霧が立ち込め、空の光が殆ど遮られている。暗く沈んだ林の中はいかにも魔物が棲みついていそうな不気味さを漂わせていた。
そんな異様な空間を歩くニつの人影がある。樹流徒と渚だった。彼らは縦に連なって木々の隙間を縫うように前進している。渚の後ろを歩く樹流徒の目には、近くの木々と雑草くらいしか映らなかった。霧の影響で何も見えないのだ。油断をすれば忽ち右も左も分からなくなりそうだった。ただ、幸いにも足場は悪くない。地面の傾斜が緩やかで、それなりに歩き易かった。大地に張った木々の根に足を取られないよう気をつければ転ぶ心配もないだろう。
樹流徒がこの辺りを訪れるのは今回で二度目になる。実は、今彼らがいる場所は摩蘇神社のすぐそばだった。摩蘇神社といえば、以前マモンという悪魔が詩織を軟禁していた場所である。その裏手に広がる杉林の中を樹流徒と渚は歩いていた。
このような普段人が決して寄り付かない場所を彼らが訪れた理由は一つしかない。それは、根の国へ行くためである。そう、樹流徒たちは根の国へ向かっている最中だった。渚によれば、この林の中に根の国へ繋がる入り口が存在するらしい。思い返してみれば、樹流徒が初めて夜子と出会ったのも神社の敷地だった。
二人は黙々と足を動かし続ける。彼らの間に会話が一切無いのは、喋りながら歩くと方向が分からなくなってしまうからだ。「林の中に入ったら会話厳禁だからね」と、渚は前もって注意を促していた。樹流徒はその言葉に従い、これまで一度たりとも口を開いていない。最後に渚と口を利いてから十分は経っているだろう。
樹流徒は引き続き沈黙を守って歩きながら、ふと、現在に至るまでの経緯を思い出した。
「それじゃ、今からすぐに夜子様のところへ行こうよ」
渚がそう言い出したのは、樹流徒が根の国と一時的な協力関係を結ぶと決めた、その直後だった。渚はこれまでの出来事を夜子に報告し、樹流徒を根の国の協力者として迎える許可を貰わなければいけない。彼女の提案は当然のものだった。
しかし、樹流徒は賛成できなかった。夜子の元へ行くこと自体に抵抗は無い。ただ、その前に聖界へ乗り込んで詩織を救出したかった。上空に浮かぶ白銀の魔法陣に突入すれば聖界へ侵入できるかも知れない。それが無理ならば、自ら天使に捕まって聖界へ行くという方法もある。とにかく根の国へ向かうのは詩織を救出した後にしたかったのだ。
この考えに、渚はすぐさま異を唱えた。「仮に相馬君の思惑通り聖界へ侵入したとしても、伊佐木さんを救出できるはずがないよ」と、断言したのである。聖界がどのような場所か分からないし、天使たちの戦力も不明。おまけに樹流徒の体はまだ完全に回復していない。そのような状態で敵陣に飛び込むのは無謀過ぎる。聖界や天使に関する情報を集め、傷を癒してからにすべきだ、というのが彼女の主張だった。その意見はもっともであり、聖界へ突撃しようとする樹流徒を思い留まらせた。
「それに、伊佐木さんの行為を無駄にしたら可哀想だよ。折角自分を犠牲にして相馬君を逃がしてくれたのに、君がすぐ天使に捕まったりしたら彼女に合わせる顔が無いんじゃないかな?」
最終的にはその言葉が決め手になった。
確かに今すぐ聖界へ突っ込むのは愚挙と言う他ない。悔しいが今は引くしかない。そのように樹流徒は考えを改めたのである。結果、最初に渚が提案した通り、まずは夜子が待つ根の国へ向かうことになったのだ。
当時のやり取りを思い出しながら、樹流徒は引き続き深閑たる杉林の中を歩く。
が、これまでずっと守られていた沈黙は出し抜けに破られた。林に一歩踏み込んだら会話をしないように警告していた渚が、自ら口を開く。
「ここまでくれば大丈夫だよ。目的地はすぐそこだから、もう喋っても道に迷ったりしないよ」
彼女は明るい声を発した。どうやら会話制限は解かれたらしい。渚はまるで旅行から自宅に帰って来た子供のようにはしゃぎ出す。足取りも幾分軽くなったように見える。
「根の国はもうすぐ近くにあるのか」
樹流徒は独り呟いて、気を引き締めた。
それからややあって、渚の言葉通り、それらしきものが見えてきた。
樹流徒たちの前に現れたのは、巨大な鳥居だった。全身黒塗りの不気味な鳥居が林の真ん中に立っている。一体どれくらいの高さがあるのだろうか。周囲の木々よりは低いものの、十メートル以上はありそうだ。無論、本来この場所にこのような鳥居は存在しない。奇怪な光景だった。
おかしいのはそれだけではない。鳥居が建つ周辺には円形の更地が出来上がっていた。そこに生えていたはずの草木は元から存在しなかったかのように姿を消している。土が掘り返された跡もなく、明らかに人間の仕業ではなかった。
また、黒いネビトがニ体、鳥居の両脇を固めている。どちらも人間の数倍はあろうかという巨躯である。彼らはさしずめ門番と言ったところだろうか。
樹流徒は後頭部を倒して、いつの間にか現世に出現していた不気味な建造物を見上げた。
「あの黒い鳥居は、現世と根の国を繋ぐ坂の入口なんだよ」
渚が勝手に解説をする。樹流徒は視線を下ろして鳥居の向こう側を見つめた。そこには根の国へ続く坂など見えない。それどころか周囲と全く変わらない景色があるだけだった。
「いつの間にあんな鳥居が出現していたんだ?」
「大分前からだよ。ネビトを現世に送り込むために夜子様が作ったの」
「それじゃあ、ネビトが現世に現れるようになったのは、あの鳥居が出来たからなのか」
そのような会話を交わしながら、二人黒塗りの鳥居の前に立つ。
門番たちは虹彩を持たない真っ白な瞳を動かして、遥か高い位置から樹流徒たちを見下ろした。
「お疲れ様。通してもらうね」
渚は黒いネビトたちに向かって陽気に話し掛ける。
門番たちは何も答えない。良くできた像なのでは、と思わせるほど微動だにしなかった。
「じゃあ、先へ進もうか」
と、渚。樹流徒は黙諾して、少女と共に鳥居の下を通り抜けた。
瞬時に辺りの景色が一変する。闇が訪れたかと思えば、二人はいつの間にか砂利道の上に立っていた。
その砂利道は恐ろしく幅が広く、人間が数十人横並びになっても悠々と歩けそうだった。それが大きな螺旋を描きながら下へ下へと向かって続いている。
耳を澄ませば、奈落より低い唸り声が重なって聞こえてきた。鬼の息遣いか、それとも死者の叫びか。どこか物悲しい声だった。
「ここが、根の国へ続く坂なのか?」
「そう。黄泉比良坂っていうんだよ」
「ヨモツヒラサカか……。どこかで聞いたことがあるような気がする」
樹流徒は辺りを見回した。闇の中を無数の光が漂い、赤、黄、青と変色する光で狭い範囲を照らしている。
「あの光は?」
「“ヒトダマ”だよ。と言っても、人間だけじゃなくて動物の魂も含まれてるけどね。根の国は、強い怨念や悲しみを残して死んだあらゆる生物たちの魂が運ばれてくる場所だから」
「そうなのか。恐ろしいというよりは、何だか寂しい感じがする光だな」
二人はそう言い交わしてから、どちらともなく螺旋の坂を下り始めた。
樹流徒は砂利道を踏みしめながら、再び周囲に視線を巡らせる。闇に紛れてカラスの群れが頭上を通り過ぎていった。地面にはムカデや芋虫、小さな蛇などが這っている。現世では見かけない珍しい模様の羽根を広げた蝶が宙を舞い、瞳を紫色に輝かせたリスのような小動物が道の先を横切った。花びらを青白く光らせる不思議な植物が無風の空間で直立している。目を凝らせば、ひとりでに葉を揺らす不気味な草木が群生している場所もあった。
悪魔倶楽部や魔空間とは少し異なる幻想的な光景に、樹流徒は意識を奪われる。
やがて一体の赤いネビトが坂を上ってきた。樹流徒たちとすれ違ったが、赤ネビトは二人の存在を全く意に介さない。口の端から低い唸り声を漏らしながら、現世に繋がる扉を目指して砂利道を踏みしめていった。
「ネビトは凶暴そうな外見をしてるけど、夜子様の命令が無い限り何もしてこないよ」
渚はまるで家族を紹介するかのように言った。
黄泉比良坂は底が闇に隠れているため、頂上から覗くと果てしなく続いているかのように見えたが、実際にはそれほど長い坂ではなかった。樹流徒と渚がネビトと何度かすれ違う頃には、ヒトダマの放つ光が坂の終着点を照らし出す。そこには巨大な黒い鳥居が立っていた。先刻樹流徒たちが通り抜けたものと同じものだろうか。鳥居の先に道は無く、果てしない闇だけが続いている。二人は鳥居の下をくぐった。
再び周囲の景色が一変する。
今度は洞窟である。灰色の岩に囲まれた広大な空間が、樹流徒たちの周りに出現した。壁のいたる隙間からは絶えず清水があふれ出し、滑らかな岩肌を音もなく伝って流れ落ちている。その水が小さな湖となって二人の膝上あたりまでを濡らした。水の中では鮎やイワナなどの川魚が伸びやかに泳いでいる。そしてこの空間にもヒトダマが漂っていた。半永久的に変色を繰り返す光が水面に反射して美しい風景を作り出している。
ただ、樹流徒の視線を最も強く惹き付けたものは洞窟内の壮麗な光景ではなく、彼の正面に存在しているあるものだった。
それは、小山のように巨大な岩と、岩の背後にぽっかりと開いた大穴だった。巨大な岩は、明らかに背後の大穴を塞ぐために存在しているように見える。現在も穴の半分以上を塞いでいるが、何らかの力によって真っ二つに砕かれた跡があった。それにより塞がれていた穴の向こうを行き来することができるようになっている。
「あの岩は“道反大神”。かつて根の国の入り口を塞いでいた岩だよ」
「ということは、その後ろにある大穴が……」
「そう。あれが根の国の入り口」
「あの奥に夜子がいるのか」
樹流徒は足下の水を静かにかき分けて前へ進む。近くで泳いでいた川魚たちが一斉に散った。
が、樹流徒はたった数歩進んだところで立ち止まる。渚がついて来ないことに気付いたためだった。
後ろを振り返ると、渚はその場で足を休めていた。
「どうしたんだ? 疲れたのか?」
「ううん。ねえ、相馬君。根の国に入る前にちょっとだけ私の話を聞いて欲しいんだけど」
「急にどうしたんだ? 何か、大事な話?」
「うん。私が夜子様に仕えている理由。もしよければ、君に知っておいて欲しいと思って」
「……」
「駄目かな? まあ、無理に聞けとは言わないけど」
「いや、聞くよ。ただ、どうして僕に話してくれるんだ?」
「うん。正直に言えば、別に相馬君だから聞いて欲しいってわけじゃないんだよ。とにかく誰でもいいから私のことを知っておいて欲しいの。そして、できればずっと覚えておいて欲しい。だって……」
「だって?」
「私自身は、人間だった頃の記憶をいつまで持っていられるか分からないから……」
「どういう意味だ、それは?」
「……」
渚は答えない。ヒトダマの光が映し出す渚の表情はいつになく真剣だった。
樹流徒は余計に彼女の話を聞いてみようと思った。改めてその意思を伝えると、渚は「ありがとう」と礼を言って、すぐに話を始める。
「ね。相馬君って、人間のこと好き?」
それが彼女の第一声だった。
意外かつ難しい質問に、樹流徒は即答を避ける。数秒考えたあと本音を伝えた。
「うん。人間は好きだよ。勿論、全てが好きというわけじゃないけど」
「へえ、そうなんだ。そんな風に言えるなんて羨ましいな」
渚はどこか物憂げな笑みを浮かべる。
「仙道さんは違うのか?」
「うん。私は……余り好きじゃない」
「どうして?」
「だって、人間は汚い生き物だから。平気で嘘を吐くし、裏切るし、下らない見栄を張る。他者を恨み、妬み、いたずらに傷つける。常に何かと争っているし、欲にまみれて足るを知らない。本当に度し難い生き物だと思う」
「……」
「あ。ゴメンね。何か愚痴っぽい話して。急にこんなの聞かされても困っちゃうよね」
「いや、別に……」
「でも、たった一度だけしか言わないから最後まで聞いて欲しいんだ。本当に真面目な話だから」
「ああ、分かったよ」
「ありがとう」
渚は礼を述べてから、一呼吸置いて、徐に口を開く。
「私ね……。NBW事件が起こるまでは、人間が好きかどうかなんて余り意識したこと無かった。でも、きっと好きだったと思う」
「それがどうして変わってしまったんだ? NBW事件が起こるまで、ということは、千里眼の影響なのか?」
「うん、正解。実は、私の千里眼って、とんでもない欠陥能力だったんだよ」
「欠陥?」
「そう。千里眼は私の意思にかかわらず勝手に発動することがあるの。私が望まなくても勝手に世界中の映像を送りつけてくるんだよ」
「具体的にどんな映像が送られてくるんだ?」
「それが、どういうわけか人間の悪い行いばかり。つまり、私の千里眼は、世界中で起こっている人間の悪行を無理矢理見せられる能力だったというわけ」
「……」
「胸がむかむかする映像や、日本のメディアでは絶対に流せないような残虐な映像が、毎日次々と私の元へ送られてきた。それは寝ている最中だったり、食事をしている最中だったり、時と場合を選ばず頻繁に私の脳内へ流れてきた」
「千里眼を制御する方法はなかったのか?」
「うん。できたら苦労しなかった。色々試してみたけど、無理だったよ」
「そうか……」
「私は、人間の汚い部分を四六時中見続けた。それが何ヶ月か続く内、気付けば、もう人間という生き物を好きでいることが難しくなってたんだよ」
渚の悲壮感漂う告白に、樹流徒は言葉を失った。中学時代は表面上常に明るく振舞っていた彼女が、裏ではそのような辛苦を抱えていたなど、想像すらしていなかった。
「人間って、醜さと同じくらいかそれ以上に優しい心を持ってるよね。私も頭ではそれを分かってるんだよ。NBW事件以降、なるべく自分にそう言い聞かせるようにもしてきた」
「……」
「でも、駄目だった。私は余りにも人間の負の部分を見過ぎちゃったみたい。人の心から優しさが消えることも無いけれど、同じように残虐性や排他性が消えることも決して無いと分かったんだよ」
「もしかすると、それが、君が夜子の仲間になった理由と関係があるのか?」
樹流徒が憶測で言うと、渚は静かに相槌を打った。
「話を聞いてくれたお礼に、相馬君には教えとくね。夜子様は陰人計画っていう計画を進めてる」
「カゲビト計画?」
「そう。計画の具体的な内容までは話せないけど、その計画が実行に移されれば、いつか人間同士の争いを完全に止められる。誰もが傷付かなくて済む、平和で平等な世界になるんだよ」
「じゃあ、夜子は平和で平等な世界を作ろうとしているのか?」
「ううん。夜子様の個人的な目的は全く別のところにある。計画を進めれば、結果的に人類同士の争いが無くなるというだけの話だよ。でも、私個人にとってはそれが最大の目的なの」
渚はいつになく真剣な顔をする。樹流徒は、こんな彼女の表情を見たのは初めてだった。
が、渚はすぐ普段の明るい表情に戻った。
「これで私の話は終わり。嫌な顔せず最後まで話を聞いてくれてありがと。重い話しちゃって本当にゴメンね。でも、お陰でスッキリしたよ」
「いや……。君がどうして夜子の仲間になったのか、少しだけ分かったから、いいよ」
「相馬君も協力者じゃなくて、私たちの正式な仲間に入ればいいのに」
「僕だって人並みに負の感情を持った人間だけど、それでもいいのか?」
「大丈夫。相馬君は多分良い人だから」
「どうしてそんなことが分かる?」
「悪いけど、君たち三人のことはNBW事件以来、時折観察させてもらってたんだよ。君たちも私と同じように特殊な能力を手に入れたかも知れないと思って、様子を見たかったの。なるべくプライバシーには配慮したけど、勝手に覗いてゴメンね」
「それで……観察の結果は?」
「うん。相馬君はちょっとだけ愛想が悪くて変に負けず嫌いなところがあるけど、無闇に嘘をついたり人を傷つけたりしない人だって分かった。伊佐木さんも優しい子だし、メイジ君だって根は良い人だよ。今までの君たちの行動を見てきて、それは分かってるんだ」
「だから、君は僕たちを助けてくれようとするのか?」
「そう、私は、君たち三人だけは何とか救ってあげたいんだよ」
「でも、世界にはきっと僕たちよりも心の綺麗な人間はいる。そういう人たちは救わなくてもいいのか?」
「分かってるよ。私だって、できればもっと多くの人を助けてあげたい。でも、いちいち善人だけを選別して救済している暇はないんだよ。残念だけど、夜子様はそんな悠長に陰人計画を進めたりはしない。計画に従わない者、障害になる者は、心の善良性に関係なく全て排除される。だから、せめて君たち三人だけでも助けてあげたいの。私にはそれくらいしかできないから」
「……」
「で、どうかな? しつこいようだけど、私たちの正式な仲間にならない? そうじゃないと、君たちはいずれ本当に夜子様に殺されるよ? いくら相馬君が強くても、勝ち目なんて億に一つもないよ」
「悪いけど断る。カゲビト計画の目的は分からないけど、夜子が一人でも人間を排除するつもりなら、僕は抵抗しなければいけない。勝ち目があるか無いかの問題じゃないんだ」
「即答しちゃうんだね。まったく、相馬君もメイジ君もブレないなあ。説得のしがいがあるよ」
渚はそう言って、少し困ったように笑った。
ここで、樹流徒ははたと気付く。
「そもそもカゲビト計画云々以前に、結界の外にいる人たちが生きているかすら分からない。もし人類が滅んでいたら、仙道さんが夜子に協力する必要はないんじゃないか?」
「大丈夫だよ。皆、生きてるから」
「え」
「あれ? もしかして相馬君まだ知らないの? 龍城寺の外は無事なんだよ」
「それは……本当か?」
樹流徒は思わず渚に詰め寄った。
「うん。今君が言った通り、もし人間が全滅してるなら私が夜子様の仲間になる必要は無いからね。陰人計画だって破綻しちゃうし」
「じゃあ、世界は滅んでいなかったのか」
思いがけないところから転がり込んできた朗報だった。樹流徒の心に一筋の光明が射す。こんなに良い報せを聞いたのは久しぶりのような気がした。