ひと離
彼と出会ったのは、高校に入学して、しばらく経った後だった。
彼は運動が得意で顔も良く、学校では男女関わらず人気者だった。
私は、そんな彼を尻目に見ているだけで、声をかけたりはしなかった。
月日が経ち私は社会人になり、家を出て1人暮らしを始めた。
家にいるのは好きではなかった。学生の頃、家に帰りたくないという理由で、図書室に残ったりして時間を潰してから家に帰っていた。
家に帰っても両親はほとんど家にいない。父はたまに帰ってきたと思ったら、私を意味もなく怒鳴りつける。私はその声が大嫌いだ。
いつ父が帰ってくるのかわからない状況で、怯えながら家にいる時間が大嫌いだった。
母は海外で仕事をしている。帰ってくるのは年に2回程度だ。
母のことは好きでも嫌いでもない。昔は好きだった。私が中学に上がった頃から私に対して無関心になり、仕事も海外でするようになった。
それから私は親戚の集まりに行く回数が減り、最終的に行かなくなった。
高校を卒業してから、あまり友達とも連絡を取らなくなった。両親と距離を置くのが癖になっていたのか、気づいたら私は友達とも距離を置くようになっていた。
ある日、友達の和泉から今度会えないかと連絡がきた。その日は特に予定がなかったから、久しぶりに会うことにした。
待ち合わせの喫茶店には、どうやら私が先に着いたみたいだ。
コーヒーを飲んで待っていると、和泉が喫茶店に入ってきた。和泉に手を振ると、こちらに気づき、私の座る席の方へと手を振りながら歩いてきた。
和泉の後ろに誰かついて来てる。
「久しぶり。急に連絡したのに来てくれてありがとう」
「久しぶり和泉。ちょうど今日は暇してたから。それで、そちらの方は?」
和泉は、覚えてないの?!と、驚きながら言うが、覚えてないものは覚えてない。
「そりゃ覚えてないよ。っていうか話したことすらなかったよね。俺は永山 幸一。一応同じクラスだったことあるんだよ?」
私は再び、彼と出会った。
その日は彼と連絡先を交換し、後日2人だけで飲みに行くことになった。
「乾杯っ」
「乾杯」
グラスを軽く持ち上げ、ひと口。
永山くんと世間話や仕事の話をし、その後高校の頃の思い出話に。
「俺、お前のこと、ずっと好きだったんだよ。今もだけど……」
「え?!」
「だからこの前、和泉にお願いして」
永山くんは、もう1度私と会うために、私と仲の良かった和泉に連絡を取ってくれと頼んだようだ。それで今に至ると。
……
気が付いたらホテルのベッドで寝ていた。
昨日の記憶がない。というか、頭が痛い、気持ちが悪い。
もどしそうになり、トイレに駆け込んだ。
トイレから戻ると、さっきまで私の隣で寝ていた永山くんが起きていた。
「大丈夫?」
「大丈夫。それより、ここ、……ホテル?」
「そうだけど……あっ!昨晩は何もしてないよ!すぐ寝ちゃったし!」
永山くんは私を介抱してくれていただけだった。
その後、永山くんに頭を下げてお礼を言い、飲み代やホテル代を払い、タクシーで帰宅した。
それから永山くんとはよく会うようになり、数ヶ月後私たちは付き合い始めた。付き合い始めてから、毎日がとても幸せだった。でもそんな生活は長くは続かなかった。
仕事帰り和泉から電話がかかってきた。
「幸一くんが、刺された……?」
私は急いで病院に向かった。息を切らしながら病院の待合室に入ると、既に彼の両親らしき人がいた。
待合室で座って待っていると医師の方が待合室に入ってきて、私たちに結果を告げた。その瞬間、私は膝から崩れ落ちた。




