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蓬莱帝国史 〜異界に築かれし理想郷の二千二百年と「八咫烏」〜  作者: 如月妙美


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第三章:若き皇帝の成長と現代蓬莱帝国

 時は流れて現代、蓬莱帝国は建国より二千二百年の歳月を経て、人口五億人を擁する巨大帝国へと発展していた。第七十代皇帝・龍飛翔は、先帝の急逝により僅か十二歳で玉座に就き、現在は二十九歳となっていた。

 幼くして即位した皇帝は、十七年間という長い治世を経ているものの、宮廷生活に慣れ親しんでいたため実政治の経験に乏しく、「世間知らずの僕ちゃん頑張るマン皇帝」との揶揄も囁かれていた。

「陛下、本日の御前閣議の議題についてご報告いたします」

 宰相の上奏に、龍飛翔は、いつものように困惑の表情を浮かべた。

「うーん、難しい話はよくわからないなあ。皇太后様と皇后にお任せします」

 このような場面が、いまだに頻繁に見られる。幼帝として即位した影響で、実権は、やむなくも実母の皇太后が長らく握っており、20才で形式的には親政を開始してからも皇帝自身の政治的判断力は十分に育っていなかったのである。

 皇太后・龍美麗(先帝の皇后、伊波氏出身)と皇后・伊波怜美(二十八歳)は、若き皇帝を懸命に支えていた。特に皇后・怜美は、伊波氏の嫡長女として幼少期より帝王学を修めており、実質的に国政の多くを取り仕切っていた。

「陛下は純真で心優しいお方です。しかし、地球最大の帝国の君主としてはまだまだご成長が必要です」。伯母の皇太后から相談されると、そう答えるのが慣用句のようになっていた。

 皇太后と皇后の心配は深刻であった。近年、表の地球世界との関係も複雑化しており、高度な政治的判断が求められる場面が増していたのである。彼らの科学力は取るに足りないレベルとはいえ、一部の国の独裁者の暴走で核戦争の懸念が徐々に高まる未来を「未来写しの鏡」がおぼろげに映し出し始めていた。

 このような状況下で、重要な役割を担っていたのが、第七十代八咫烏総帥・伊波妙美であった。皇后・怜美の妹である妙美は、二十六歳という若さながら、代々の総帥に勝るとも劣らない優秀な人材であった。

「姉上、陛下のご様子はいかがですか?」

 妙美は、皇后である姉との定期的な密談を欠かさなかった。表向きは姉妹の語らいに見えるが、実際は帝国の最高機密事項について議論する重要な会議であった。

「陛下は日々ご成長されています。最近では、政務にも積極的に関心を示されるようになりました」

「それは喜ばしいことです。八咫烏として、陛下のご親政をお支えする体制を強化いたします」

 妙美の公的な身分は、蓬莱帝国国会の秘書官であった。国会は、皇帝制と並行して存在する議会制度であり、民意を政治に反映させる重要な機関である。妙美は、この立場を利用して、政界の動向を詳細に把握していた。

「黒革の手帳」と呼ばれる機密資料には、蓬莱帝国の政治家たちの詳細な情報も記録されている。特に、問題のある政治家たちの行動パターンは、興味深い研究対象となっていた。

「人間の本性は、権力を得た時に最も鮮明に現れるものですね」

 妙美は、数々の迷物政治家たちを観察しながら、そう呟いた。彼女の手帳には、涙を武器とする議員、田植えパフォーマンスに熱中する議員、名前連呼に政治生命をかける議員など、実に多彩な人物たちが記録されている。

 これらの政治家たちの滑稽な行動は、始皇帝の理想とは程遠いものであった。しかし、妙美はそれらを単に批判するのではなく、人間の本質を理解するための貴重な資料として捉えていた。

「始皇帝陛下は、人間の弱さをも包含する理想郷を夢見ておられたのかもしれません」

 妙美にとって最も重要な任務は、地球世界との関係管理であった。現代においても、三箇所の常設扉は厳重に監視されており、定期的な情報操作も継続されている。

 特に、インターネットという情報技術の発達により、従来の伝説流布戦略も高度化が求められていた。

「現代の地球人は、古代の伝説よりも、SFやファンタジーを好む傾向があります」

 妙美の分析に基づき、八咫烏は新たな情報戦略を展開している。異世界転生小説、パラレルワールド理論、多次元宇宙論など、現代的な「虚構」を巧妙に利用しているのである。

「真実は、より大胆な虚構の影に隠れるのです」

 二千年前の初代総帥が編み出した戦略は、現代においても有効であった。

 また、妙美の時代には新たな課題も生じている。地球世界の急速な科学技術発達により、異界探知技術が向上しているのである。

「量子物理学の発展により、地球の科学者たちが多次元世界理論に接近しています」

「対策は?」

 皇后の問いに、妙美は自信を持って答えた。

「彼らの理論を利用し、我々の存在をさらに深い謎に包み隠します。真実に最も近い理論を、最も信じ難い空想として扱わせるのです」

 現代の八咫烏は、地球側の学者や作家にインスピレーションを与え、「蓬莱帝国のような理想郷」を純粋なフィクションとして発表させることに成功している。

 一方、若き皇帝・龍飛翔も、少しずつではあるが着実な成長を見せ始めていた。妙美の観察によれば、皇帝は純真で誠実な人格者であり、適切な指導を受ければ優秀な君主となる素質を秘めている。

「陛下の天性の優しさと公正さは、帝国にとって貴重な財産です。幼帝として即位された試練を乗り越えられれば、必ずや名君となられるでしょう」

 皇太后と皇后、そして八咫烏総帥という三人の女性に支えられながら、若き皇帝は日々研鑽を積んでいる。最近では、政務への関心も高まり、自らの意見を述べる場面も増えてきた。

「僕は...いえ、朕は、国民のために尽くしたいと思います。でも、まだまだわからないことばかりで...」

 皇帝の素直な言葉に、三人の女性は微笑みを浮かべた。このような謙虚さこそが、真の君主に必要な資質なのである。

「二千二百年の歴史を受け継ぎ、未来永劫にわたって帝国を守り抜く」

 妙美の決意は固い。彼女の黒革の手帳には、今日も新たな記録が刻まれ続けている。そして、その記録の中から、後世に伝えるべき教訓と戒めを見つけ出すのが、彼女の隠された使命なのである。

 若き皇帝の成長と共に、蓬莱帝国は新たな時代を迎えようとしている。始皇帝が命をかけて守り抜いた血脈は、今もなお理想郷で輝き続けている。ソロモンの鏡に映らなかった希望の未来を創造する物語は、永遠に続いていくのである。


※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。

※コメントやレビューは、みなさまに平等にお返しができないため、OFFといたします(ご了承ください)。

【動画】 YouTubeにて公開しています。Noteにも順次公開の予定(時期未定)です。



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