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蝦夷転生コンサル、松前藩の支配構造を現代知識で塗り替える――まずは実家の隙間風を何とかする  作者: 一月三日 五郎
第一章 宗谷編

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第6話:想定外のリソース。あるいは、北の海の「異物」。

いつもお読みいただきありがとうございます。

第5話では少しずつ「組織」としての形が見えてきました。


今回は、そんな彼らを連れての「資源探索」回です。

厳しい冬の宗谷。コンサルタントとしての知識が、思わぬ「異物」を引き寄せます。

物語の歯車が大きく動き出す瞬間を、ぜひ見届けてください。

 宝暦十年(一七六〇年)冬 蝦夷地・宗谷


「オフィス」の補強が一段落した翌朝。

 俺は鉄太と三吉、そして数人の連中を連れて、

 入り江のさらに奥――「北の岩場」へと足を向けていた。


(一週間前のあの雨風だ。ただの掃除で終わらせるのは、コンサルタントとして効率が悪い)


 俺が今回、あえて足場の悪いこの場所を「現場」に選んだのには、明確な経営上の仮説があった。

 宗谷のこの入り江は、海流の関係で漂着物が一箇所に溜まりやすいボトルネック構造になっている。

 さらに北の岩場は、複雑に入り組んだ岩礁が天然の「フィルター」として機能し、

 沖合から運ばれてきた資材を堰き止める場所だ。


 一週間前の激しい気象変動があれば、宗谷海峡の向こう側から質の高い流木や、

 あるいは「未知のリソース」が運び込まれている確率は極めて高い。


「……勘太。ここ、危ない。波、高いよ。大人に……見つかったら、絶対怒られる」


 三吉が、足元の濡れた岩を避けながらボソボソと、しかし正確にリスクを指摘してくる。


「わかってる。

 だがな三吉、誰も寄り付かない場所だからこそ、

 俺たちが独占できる『手付かずの資源』が眠ってるんだ。


 鉄太、先を急ぐな。

 岩の隙間に足を滑らせたら、今の俺たちの体力じゃ助け出せないぞ」


「おう! わかってるって!

 資源だか何だか知らねぇけど、勘太が『面白いもんがある』って言うなら、

 俺が一番に見つけてやるぜ!」


 鉄太が頼もしく先陣を切る。

 彼らにとっては、これは単なる「掃除」でも「労働」でもない。

 俺が昨日吹き込んだ「有用な資源が眠っているかもしれない」という、探索任務だ。


 俺たちは飛沫を上げる波を避け、断崖絶壁の下、波の荒いエリアへと到達した。

 そこは、打ち上げられた大量の流木と、砕けた氷、

 そして正体不明の「海のゴミ」が堆積する、異様な光景だった。


「……うわ、すげぇ。流木が山になってるぞ。これ、全部薪になるのか?」


「ああ。しかも潮に洗われて乾燥すれば、火持ちもいい。

 三吉、これ全部運べば、一冬分の薪に困らないぞ。

 鉄太、まずは手頃なやつから仕分けだ。密度の高い、重いやつを優先しろ」


 俺は指示を出しながら、堆積物の山を検分する。

 江戸時代の蝦夷地において、木材は貴重な燃料であり、建材だ。

 だが、俺の狙いは「薪」だけではない。

 流木に混じって、この時代の北の海を航行する船から脱落した「何か」があるはずだ。


「……勘太。あそこ。変なの、ある。流木じゃない……。……箱?」


 三吉の指差す先。

 荒波に洗われ、入り組んだ岩の隙間にがっちりと挟まった「四角いシルエット」があった。


(……待て。あの質感、あの金具)


 半分以上砂に埋まり、海藻が絡みついているが、

 その黒ずんだ木材の質感、そして錆びてはいるが重厚な鉄の装飾。


 鉄太が表情を強張らせ、その「四角い何か」から一歩引いた。


 彼らにとって、海から流れてきた「得体の知れない人工物」は、

 幸運の象徴などではない。

 死や祟りを連想させる忌むべき「異物」に近い。


「待て、鉄太。無理に触るな。三吉、下がってろ」


 俺は二人を制し、慎重にその物体に近づいた。

 波に洗われ、塩分と泥で汚れてはいるが、

 剥き出しになった金具の細工は、明らかにこの近隣の漁村で作られたものではない。


 それどころか、和人の文化圏ですらない。


「……見た目はまんま『宝箱』だ?……、思ったより地味だな」


 俺が呟いた言葉は、荒波の音にかき消された。

 実物を見るのは初めてだが、間違いない。

 北の海を越えてきた、西欧――おそらくはロシアの船から脱落した木箱だ。


「……触らないほうが、いい。勘太、帰ろう。これ、悪いものだよ」


 三吉が顔を青くして、俺の袖を引く。


「三吉、怖がるな。

 これはただの箱だ。……だが、中身を確かめる必要がある」


(もしこれが『ロシアの船』の備品だとしたら、

 中にあるのは金貨以上の価値があるものか、あるいはそれ相応のリスクだ)


 俺は、自分の心臓が少し速く脈打つのを感じた。

 これがこの時代の宗谷に流れ着いた意味を、五歳の頭でシミュレーションする。


 目の前にあるのは、物語の中の財宝ではない。

 この最果ての地で俺が生き残るための「武器」になるか、

 あるいは全てを台無しにする「火種」になるか。


 五歳のコンサルタントは、波打ち際で濡れそぼる黒い木箱を見つめ、静かにその蓋に手をかけた。


 この何気ない「探索」が、俺の計画を大きく狂わせる始まりになるとは、

 この時の俺はまだ、漠然と予感するに留めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

……ついに見つけてしまった、この時代にはあるはずのない「黒い木箱」。

 

果たして中身は金貨か、それとも――。

次回の第7話では、ついにその中身が明らかになり、勘太の「事業計画」が地政学的なスケールへと跳ね上がります。

 

現在、多くの読者様にブックマークや評価(星)をいただき、執筆の大きな原動力になっております。

続きが気になる!という方は、ぜひ下方の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると幸いです。

 

明日も更新予定です。お楽しみに!

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