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第24話:不敵な約定 ――親の生涯賃金を、一年で捲(まく)る大博打――

子供一人の一生を、たった数両で買い叩く「奉公」という名の古い掟。

五歳の勘太は、その不条理を壊すため、村の重鎮である大人たちを商談の席へ引きずり出します。

武器は、この一年で積み上げた圧倒的な「荷」と、冷徹な算用。

常識に縛られた大人たちの肝を冷やす、命がけの「賭け(ディール)」が始まります。

 宝暦十一年(一七六一年) (仲春) 蝦夷地・宗谷


 徳蔵さんの自宅。

 

 囲炉裏の火が爆ぜる音だけが、重苦しい沈黙の中に響いている。  

 子供だけの隠れ家では、親たちは「遊び」と断じて耳も貸さないだろう。

 だから俺は、実務家として信頼の厚い徳蔵さんに頭を下げ、この場をしつらえてもらったのだ。

 

 座を囲むのは、鉄太の父・鉄造と、朔弥の父・徳也。  

 潮枯れた肌に熊のような体躯を持つ鉄造と、村の寄り合いで発言力を持つ知的な徳也。

 二人の大人が放つ威圧感は、六歳の身には岩山のごとく重い。


「……何の真似だ、徳蔵。

 お前の顔を立てて来てみれば、勘太が大量の木簡を並べて待ち構えているとは」


 鉄造が、低い地鳴りのような声で言った。

 その視線は、息子の鉄太ではなく、俺の前に並べられた精密な書き込みの並ぶ木簡へと注がれている。


「徳蔵さん、お忙しい中、場を設けていただき感謝いたします」


 俺はまず、家の主である徳蔵さんへ深く頭を下げた。

 彼への敬意をまず示すことで、この場が「子供のわがまま」ではなく、

 筋の通った「商談」であることを親たちに知らしめるためだ。


「……堅苦しい挨拶はいい。

 俺はただ、お前さんが見せたいもんがあるっていうから、こいつらを呼んだだけだ」


 徳蔵さんが、渋い顔を崩さぬまま、鉄造たちの湯飲みに茶を注ぎ足した。

 そして、鋭い眼光を二人の父親に向ける。


「鉄造、徳也。この小僧が、あんたらの肝を冷やすような算段を持ってきたんでね。

 ……まずは、聞いてやってくれ」


 徳蔵さんのその一言で、場の空気が「説教」から「商談」へと切り替わった。

 その目は、俺がこれから切り出す「博打」の成否を静かに見守っている。

 

「相談じゃありません。……掛け合いです」


 俺は逃げずに、男たちの目を見据えた。

 六歳のガキが大人を呼び出した不届きを、まずは「実利」で埋める必要がある。


「お二人とも。

 来年、鉄太を船に乗せるのも、朔弥を奉公に出すのも、お控えいただきたい」


 一瞬の静寂の後、鉄造が鼻で笑った。


「寝ぼけてんのか。

 ガキを食わせていくには、海に出るか身を売るしかねえんだ。

 それが宗谷の古くからの掟だ」


「その掟は、もはや時勢に合いません。……これをご覧ください」


 俺は、昨晩書き上げた「二家合同投資計画書」の木簡を、二人の足元へ滑らせた。


「奉公に出して得られる支度金。

 それは、この木簡に記された額の十分の一にも届かないはずです。」


 徳也が眉を潜め、木簡を拾い上げた。

 そこに刻まれた算用を追うごとに、彼の顔から余裕が消えていく。


「……これは、何だ。肥やしの商いか? なぜ、これほどのかねが……」


「俺達がこの一年で仕込み、積み上げた『荷』と、徳蔵さんから繋いでいただいた『商い筋』の証です。

 これをさばけば、この木簡にある額が確実に手に入ります。

 さらに来年、二人がここに残れば、その上がりは三倍に届きましょう」


 俺は畳みかけた。

 鉄造の方へ向き直る。


「鉄造さん。

 鉄太を漁師見習いにするのは、家を助けるためでしょう?

 ならば、ここで俺と一緒に肥やしを作らせる方が、

 来年にはあなたに新しい船を一隻買わせられるだけの利を生みます。

 どちらが『家を守る』道か、明白ではないですか?」


「……船だと?」


 鉄造の眉が跳ねた。海に生きる男にとって、自らの船は命そのもの。

 その急所を、俺は正確に突いた。


「口先だけで、先々を預けられるか!」


 鉄造が木簡を床に叩きつけた。石の床に激しい音が響く。


「商いの証だと? ガキがたまたま拾った小銭だろうが。

 十年、二十年と、この地で生きていくための重みが、この板きれ一枚に収まると思ってんのか!」


 徳也も、冷ややかな目で俺を見下ろした。


「勘太、お前の才は認めよう。

 だが、奉公は銭の問題だけではない。

 人の世の礼節を学び、繋がりを築く場だ。

 それを捨てて、泥にまみれた作業場に籠もることが、

 せがれらのためになると本気で思うているのか?」


 大人たちの壁は、想像以上に厚く、そして現実的だった。

 俺の心臓が速く脈打つ。

 コンサルタントとして、第二段階(フェーズ2)へ移行する時だ。


「……わかりました。ならば、俺にさだめを出してください」


 俺は、叩きつけられた木簡を拾い上げ、埃を払った。


「来年、二人が十歳になるまでの間に。

 ……あなたたちが一生かかって稼ぐ以上の『実り』を、目に見える形でここに積み上げてみせます」


「何だと?」


 鉄造と徳也が絶句する中、徳蔵さんがニヤリと口角を上げた。


「……聞いたか。この鼻たれ小僧が、あんたらの生涯を『一年』で超えると抜かしやがった。

 ……面白え。鉄造、徳也。

 この賭け、乗ってやっても損はねえんじゃねえか?」


「もし、それが叶わなければ、鉄太は船に乗り、朔弥は黙って奉公に出しましょう。

 ……ですが、もし成し遂げたなら。

 その時は、この場所を村公認の『仕事場』と認め、

 二人を俺の連れ(パートナー)として預けていただく。

 ……いかがですか?」


 挑発ではない。

 冷徹なまでの、背水のデッドラインの提示。


 鉄造と徳也が、顔を見合わせた。

 その瞳に宿ったのは、侮りではなく、得体の知れない「怪物」に対する警戒心だった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

「親の一生分を一年で稼ぐ」という、正気の沙汰とは思えない宣言。

金を与えるのではなく、圧倒的な「実績」を突きつけることで、

子供をただの労働力から「事業の柱」へと昇格させる勘太の知略。

 

次回、いよいよこの無謀な目標を達成するための「新事業」が始動します!

 

「勘太、やってやれ!」「大人たちを黙らせる展開が見たい!」と思っていただけましたら、

ぜひブックマーク登録や、下の評価欄(☆☆☆☆☆)からポイント評価で応援をお願いします。

皆様のポイントが、勘太が大人たちに叩きつける「数字」の重みになります!

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