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第18話:コンサルタントを棄てる

いつもご愛読ありがとうございます。


前話では、合理的すぎる組織化の果てに、

創業メンバーである鉄太との決裂という最悪の結果を招いてしまいました。


夜の宗谷、一人で闇へ消えた鉄太。

現代知識という「正論」で武装してきた勘太が、

泥にまみれ、冷たい海に濡れながら見つける答えとは。


組織の「大将」としての覚悟が問われます。

 宝暦十年(一七六〇年) (仲春) 蝦夷地・宗谷


 凍えるような夜の潮風が、五歳の小さな体を容赦なく叩く。  

 月明かりに照らされた浜辺。

 そこに、一人で流木を拾い集める影があった。


「鉄太」


 俺が声をかけると、鉄太の肩がびくりと跳ねた。

 だが、彼は振り返りもしない。

 

「……邪魔だ、どけよ」  

 

 声は低く、ひどく掠れていた。


「家に持って帰る薪を拾わなきゃならねぇんだ。遊んでる暇はねぇんだよ」


 鉄太は、俺の横を通り過ぎようとして、乱暴に俺を突き飛ばした。  

 砂浜に手をつき、俺は声を張り上げる。


「……そんなことしなくても、隠れ家にあれだけの備蓄があるじゃないか!

 薪も、食い物も、お前の分はちゃんと――」


「あそこのは使わねぇ!」


 鉄太が絶叫した。  

 振り返ったその顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。


「もう……俺は仲間じゃねぇ。


 あそこに置いてあるもんは、お前と、あの朔弥ってのが頭使って集めたもんだろ。

 俺は抜ける。


 俺がいなくても、あいつがいりゃあ『効率』ってので上手くいくんだろ?


 ……勝手にやれよ、あいつらと!」


 鉄太は、必死に薪を抱えようとする。

 だが、震える腕からは流木が次々とこぼれ落ちていく。


(……考えろ。何が最適だ?)


 俺の脳内にある計算盤が、高速で回転を始める。  

 鉄太を失う損失は、単純な労働力だけではない。

 

 だが、今の組織構造で朔弥と鉄太を共存させるのは、コストが高すぎる。

 もし鉄太を説得できないなら、

 損切り(切り捨て)して朔弥のラインを強化するのが、経営判断としては「正解」だ。


 論理が、冷徹な答えを弾き出す。  

 だが、その答えが出るよりも先に、俺の体が動いていた。


「……ふざけるな!」


 俺は五歳の短い足で砂を蹴り、鉄太の胸元に飛びかかった。  

 不意を突かれた鉄太とともに、波打ち際へと転がり込む。

 冷たい春の海が、俺たちの体を一瞬で芯まで濡らした。


「何すんだよ!」


「勝手なことを言うな!」


 押し倒した鉄太の胸ぐらを掴み、俺は生まれて初めて、腹の底から怒鳴りつけた。


「俺たちで始めたんだろうが!


 あのボロい隠れ家で、


 カニの殻を砕いて、


 二人で泥だらけになって


 ……俺たちから始まったんだろうが!


 新参者に負けそうだからって、そんなに簡単に逃げ出すのか!?


 お前は、そんなタマじゃないだろう!」


 叫んでいるうちに、視界が滲んだ。  


 止まらなかった。


 熱いものが、頬を伝って冷たい海水と混ざり合う。


(……何をやっているんだ、俺は)


 これはコンサルタントの振る舞いではない。

 論理的でも、合理的でもない。

 感情に任せた、ただの子供の「わがまま」だ。  

 

 だが、抑えられなかった。  

 

 そうだ。

 

 俺はもう、高みの見物をしているコンサルタントなんかじゃない。


 泥にまみれ、海に濡れ、誰よりも先にリスクを背負って立つ、

 子供たちだけの組織の「大将」なんだ。


 鉄太は、呆然として俺を見ていた。

 俺の涙に、俺の怒鳴り声に、毒気を抜かれたように力を抜いた。


「……勘太。お前、泣いてるのかよ」


「……うるさい。寒くて鼻水が出ただけだ」


 俺は乱暴に袖で顔を拭った。

 

 鉄太はしばらく天井――いや、夜空を見上げ、それから小さく笑った。

 

「……いつも、偉そうにして大人みたいな口ぶりなのに、

 お前、

 今の顔は……ただのガキだな」


 それは、最悪の侮辱であり、最高の信頼の言葉だった。


「……戻るぞ、鉄太。濡れたままだと本当に死ぬ」


「ああ……。悪かったな、勘太。

 駄目にした分、『給料から天引き』してくれ」


 いつかの俺のセリフを口にする鉄太に胸が熱くなる。


 二人でびしょ濡れのまま立ち上がり、砂を払って歩き出す。  

 鉄太の足取りには、先ほどまでの迷いはなかった。


 だが、和解の喜びと同時に、俺の脳内計算盤は再び回転を始めていた。  

 感情で呼び戻した以上、次は「実」で解決しなければならない。


(朔弥の合理的システムと、鉄太の個人的アイデンティティ。

 この二つを、どう同じベクトルに繋ぎ止めるか……)


 道すがら、俺は頭を高速回転させる。  

 組織図の書き換えが必要だ。

 

 鉄太には、朔弥の下でもなく、俺の単なる手下でもない、

 「鉄太にしかできない役割」を物理的に定義しなきゃならない。


 冷たい風に震えながら、俺は次の「経営戦略」を練り上げた。  

 春の嵐は、まだ去っていない。

 

 だが、今の俺は、論理ロジック情熱パッションの両方を手綱に握っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


正論だけでは人は動かない。

前世でどれほど優秀なコンサルタントだったとしても、

今の勘太は蝦夷の地で泥にまみれる一人の「ガキ大将」に過ぎません。


コンサルタントを「棄てた」ことで、ようやく鉄太の心に手が届いた勘太。

ですが、ここからは「情熱」を「仕組み」に昇華させる、本当の意味での経営手腕が問われます。


「この覚悟、熱い!」「これからの二人の関係が楽しみ」と感じた方は、

ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をよろしくお願いします!

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