第13話:スケールメリットの追求 ――クジラを資源に変える軍師の決断――
いつもご愛読ありがとうございます。
前回、知略の少年・朔弥と、その弟・慎弥を仲間に引き入れた勘太。
新たな「頭脳」を得たことで、勘太の野望は急速にスケールアップしていきます。
そんな中、宗谷の浜に舞い込んだのは、一頭の「寄り鯨」。
大人たちが肉を奪い合う狂乱の陰で、五歳のコンサルタントが狙うのは……誰もが見向きもしない「ゴミの山」でした。
組織の拡張と、新たな資源の獲得。
勘太の「内政無双」が、いよいよ本格始動します!
宝暦十年(一七六〇年)(初春) 蝦夷地・宗谷
宗谷の浜は、狂乱の坩堝と化していた。
波打ち際に横たわる、山のような巨躯。
寄り鯨だ。
(セミクジラってやつか?……思ったほどではないな、5メートルところだな)
村の男たちは総出で、我先にと大包丁を振るい、赤黒い肉の塊を切り出しては背負い運んでいく。
だが――。
(……浅いな。目先の肉に目が眩みすぎだ)
少し離れた場所から、俺はその光景を冷ややかに見下ろしていた。
俺が狙うのは、彼らが無造作に捨て、あるいは放置して腐らせる「残滓」だ。
だが、今はまだ動けない。
欲望に支配された大人たちの作業を邪魔すれば、五歳の幼児など一蹴されて終わる。
(タイミングがすべてだ。大人の作業の隙間を縫う、最短の経路を見極めろ……)
俺は見張りを立て、解体の進捗を逐一報告させた。
並行して、頭の中で計算を回す。
現在のメンバーは、俺と鉄太、三吉たち、そして新入りの朔弥、慎弥を加えて合計七人。
この人数で、あの巨大なリソースから何を、どれだけ回収できるか。
(クジラの髭、骨、そして内臓から抽出できる油脂。
七人では、搬送だけで手一杯だ。
それでは、ただの小銭稼ぎで終わる。
圧倒的に手が足りない……)
思考の沼に沈み、眉間に皺を寄せる俺の横から、静かな声がした。
「なあ、勘太。見てるだけで終わらせる気じゃないよな?」
朔弥だった。彼は俺の視線を追い、浜の喧騒を見つめている。
「勘太。これ、大きな仕事になるんだろ? ……だったら、前に追い返したやつらも、仲間にいれよう」
「っ、朔弥! お前、何を言ってやがる!」
鉄太が噛みついた。
かつて俺を「チビ」と馬鹿にし、一度は門前払いした連中を呼び戻すなど、現場の士気に関わる。
「あいつらは一度、俺たちを舐めたんだ。今さら入れてたまるか!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、鉄太。
いまの人数じゃ、やりたいことに届かない」
朔弥は首を振って、俺の方をじっと見た。
その瞳には、子供らしからぬ冷徹な光が宿っている。
「あいつらだって、大人の陰で指を咥えて見てるだけなのは、面白くないはずだ。
ただの肉よりすごいものが喰えるって言えば、きっと俺たちの言うことを聞く。
……そういうやつらをうまく使うのが、勘太のやりたいことじゃないのか?」
――耳が痛い。
朔弥の言う通り、これは感情ではなく、「マネジメント」の問題だ。
七人では、小さなサークルで終わる。
だが、倍の人数がいれば、同時並行で複数のラインを回せる。
鯨の髭を加工し、骨から肥料を精製し、油を絞る。
そのすべてが、将来の「軍資金」に変わる。
「……分かった。朔弥の言う通りにしよう」
「勘太!」
「鉄太、すまない。だがな、『数の利』は馬鹿にできねえんだ。
人が増えれば、それだけやれることも増える。
あいつらの差配は、言い出しっぺの朔弥に任せる。いいな」
俺は即座に計画を修正した。
人員が倍になれば、やれることは飛躍的に増える。
(……よし。これだけの人数がいれば、ただのガキの遊びじゃない。
宗谷の『工場』として機能できる)
不敵な笑みが漏れた。
自分たちの役割を明確にした瞬間、目の前の鯨が、
ただの死骸から「巨大な投資案件」へと姿を変えた。
一方、新入りの意見が採用されたことが面白くないのか、
鉄太は苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いている。
そんな中、三吉が肩を揺らしながら隠れ家に飛び込んできた。
「勘太! 鯨の解体、山場を越えたぞ!
大人はみんな、お肉を分けたりお祝いの準備をしだした!」
「……よし。頃合いだ」
俺は立ち上がり、仲間に向かって告げた。
五歳の身体には似つかわしくない、冷徹で力強い指示。
「皆、ゆくぞ。ゴミの山から、俺たちの『黄金』を掘り出すんだ。……血と脂にまみれる覚悟をしろよ!」
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浜に降り立つと、そこには鼻を突く血生臭さと、熱狂の残滓が漂っていた。
男たちが肉を担ぎ出し、一段落ついたタイミングを見計らい、
俺は村の大人たちが集まる焚き火の輪へと近づいた。
「……なんだ、勘太じゃないか。お前さんも肉が欲しいのか?」
解体の中心にいた、身体の大きな漁師の徳蔵が、血に汚れた包丁を研ぎながら鼻で笑った。
俺の背後には、鉄太や朔弥、そして新たに加わった面々も控えている。
「いいえ。俺たちが欲しいのは、そっちの山です」
俺が指差したのは、剥ぎ取られた皮の端材や、ぬらぬらと光る脂身の残り、
そして無造作に放り出された巨大な骨の山だ。
「……あんなゴミをか?」
大人たちが一斉に失笑した。肉のない皮や骨など、彼らにとっては重いばかりの産業廃棄物だ。
「はい。その代わり、俺たちがこの浜を片付けます。
皆さんは早く肉を持って帰って、祝い酒を飲みたいでしょう?
その重い骨も、脂のカスも、皮の切れ端も、全部俺たちが引き受けます。
砂に埋める手間もいりません」
俺は五歳の無垢な子供を装うのをやめ、商談に臨む「顔」で畳み掛けた。
「皆さんは最高の肉を手に入れ、面倒な後始末はガキどもがやる。
……悪い話じゃないですよね?」
徳蔵は少し考え込んだ。
自分たちで片付けるとなれば、この寒い中でさらに数時間の重労働が待っている。
「ふん。まあ、あんなゴミを片付けてくれるってんなら、勝手に持ってけ。
……だがな、勘太。お前ら、あんなもんで何をするつもりだ?」
「ふふ、内緒です。……ただの子どものままごとですよ」
俺は唇の端を吊り上げ、不敵な笑みを返した。
大人が「面倒」と切り捨てたコストを、俺たちは「原材料」として仕入れる。
これが、この最果ての地で富を築く第一歩だ。
「よし、徳蔵さんがいいってよ! 野郎ども、作業開始だ!」
俺の合図で、子供たちが一斉に「ゴミの山」へと走り出した。
骨、脂カス、皮の端材。
大人たちが鼻をつまんで見過ごしたこれらこそが、
俺たちの組織を爆発的に成長させるための、最初の軍資金になる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
大人が「面倒」だと捨てたものを、現代の知識で「軍資金」に変える。
内政ものの醍醐味である「価値の逆転」がようやく始まりました。
勘太が手に入れた骨や脂カスが、どのような形でお金や力に変わっていくのか……次話からの加工編もぜひお楽しみに!
「五歳の幼児が大人を出し抜く姿がもっと見たい!」
「鯨のゴミが何に化けるか気になる!」
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