第91話 信用の熱狂
異変は、静かに始まった。
「……保証枠の取引量が増えています」
ノアの声は、興奮と不安が混じっていた。
履歴網端末の表示。
信用保証枠――
高スコア主体に発行された保証枠が、二次市場で売買されている。
「価格が、上がっている?」
カイルが眉を寄せる。
「はい。発行時の評価基準を二割上回る値」
保証枠は、本来“共有可能な信用”として設計された。
履歴そのものは不可侵。
だが保証可能額の一部を他主体に貸与できる。
それが――
取引対象になっている。
午後。
ベルド商会が追加申請。
《保証枠増枠希望》
「利用目的は?」
「投資拡張」
カイルが低く言う。
「保証枠を担保に、さらに保証枠を取得」
ノアの指が止まる。
「多重化が始まっています」
履歴網は信用を可視化した。
保証枠は信用を共有可能にした。
市場はそれを拡張する。
夕刻。
市場速報。
《高信用保証枠、完売》
投資家が殺到している。
「信用は安全資産と認識されています」
ノアが言う。
「自由圏の事故債券より安定」
当然だ。
履歴網参加主体は破綻率が低い。
保証枠は“安心”の象徴。
夜。
セリーナが静かに言う。
「安心は熱狂を生む」
「熱狂?」
「恐怖が小さいほど、人は大胆になる」
私は画面を見つめる。
保証枠価格がじわじわと上昇している。
レオンから通信。
《盛り上がっているな》
《市場の反応です》
《制御できるか?》
短い沈黙。
《設計しています》
《市場は設計を超える》
通信が切れる。
翌日。
小規模主体が保証枠を買い漁る。
「信用を持たない者が、信用を借りている」
ノアが呟く。
履歴は譲渡不可。
だが保証枠は譲渡可能。
それが抜け道になる。
「……価格が急騰」
カイルの声が低い。
保証枠が投機対象になっている。
私は理解する。
履歴網は信用を価値に変えた。
だが価値は、市場に入れば商品になる。
商品は、熱狂を生む。
港の灯りは明るい。
だがその光は、少しだけ眩しすぎる。
私は静かに呟く。
「信用は責任だ」
だが市場は――
信用を利益と呼び始めている。
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