第78話 収益の壁
履歴網参加商会の収益報告が届いたのは、二週間後だった。
「……平均利益率、低下」
カイルが静かに告げる。
「どの程度」
「約一割」
室内がざわつく。
破綻率は下がった。
再保険料も下がった。
だが、爆発的な利益は出ない。
「高利率契約が減った影響です」
ノアが説明する。
「透明化により、過剰リスクが抑制された」
理屈は正しい。
だが商会は感情で動く。
午後。
エストラ商会代表が再び現れる。
「安定はした」
「ええ」
「だが伸びない」
率直な言葉。
「自由圏では倍の利率が出ている」
「倍のリスクもあります」
「それでも利益は魅力だ」
沈黙。
港は安全。
だが刺激がない。
「履歴網は守りです」
代表は言う。
「攻めには向かない」
その言葉が、胸に残る。
夜。
自由圏の速報が流れる。
《事故債券、再完売》
恐怖商品は売れている。
ヴィクターの理論が機能している。
セリーナが言う。
「透明性は利益を削る」
「ええ」
「だが破綻も削る」
「市場はどちらを選ぶか」
私は答えられない。
市場は短期で動く。
履歴網は長期を前提とする。
ノアが小さく呟く。
「信用スコアを担保に融資を拡張できれば」
「何?」
「高スコア主体は、低金利で資金調達可能」
私は顔を上げる。
「スコアを資産化する?」
「はい」
「信用を、直接資金に変える」
カイルが腕を組む。
「だが制度化には時間がかかる」
「時間がない」
自由圏は今も拡大している。
夜更け。
私は一人、港を見下ろす。
履歴網は正しい。
だが正しさは、利益を生まない。
利益がなければ、広がらない。
港は守る。
自由圏は攻める。
履歴網は守りと攻めを両立できるか。
私は静かに理解する。
透明性だけでは足りない。
信用を――
**価値に変えなければならない。**
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