第51話 保証の重み
ベルナード公国からの緊急報告は、夜明け前に届いた。
《主要商会三社、同時に履行停止》
私は、目を閉じたまま報告を聞いた。
「理由は」
「連鎖です。
フェルンとの取引停止が波及」
カイルの声は、抑えられている。
「保証対象か」
「はい。港基準採用済み。
正式参加国です」
私は立ち上がる。
これは、避けられなかった波だ。
だが規模が想定より大きい。
「総額」
「……基金の三割」
室内の空気が凍る。
三割。
一度に。
「発動しますか」
カイルの問いは重い。
保証は、約束だ。
だが約束は、資金があってこそ。
「発動します」
私は即答した。
躊躇はしない。
「全額ですか」
「全額です」
商会が動揺すれば、連鎖は拡大する。
ここで支払わなければ、港の信用は終わる。
結晶板に、支払い承認を入力する。
数字が減る。
基金残高が、目に見えて削られる。
その瞬間、胸の奥が重くなった。
これが――保証の重み。
数時間後、港はざわめいた。
「本当に支払った」
「即日だ」
「港はまだ余力がある」
安堵と驚きが混ざる。
だが私は知っている。
余力は、確実に減っている。
午後。
クロイツから書簡が届く。
《発動規模が想定を超える》
《拠出上限の再検討を求める》
合理的だ。
責められない。
続いて、ルメリアから。
《祈りで全ては救えない》
私は机に手を置いた。
「……まだ、終わっていません」
カイルが言う。
「二社目、遅延拡大」
連鎖は、止まっていない。
円環基金から、通信が入る。
《約束は重いだろう》
私は、短く返す。
《約束は守る》
返信はない。
夜。
港の灯りは消えていない。
商人は動いている。
だが私は、初めてはっきりと感じる。
保証は、理念ではない。
血肉だ。
支払うたびに、
港は削られる。
そして、敵は待っている。
もう一度、波が来ることを。
私は、結晶板の残高を見つめた。
信用を守るには、
痛みを受け入れるしかない。
だがその痛みが、
港を壊すなら――
私は、どこまで背負えるのだろうか。
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