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婚約破棄? ご自由に。条約違反の責任は国家でどうぞ ~婚約破棄された令嬢、契約で世界を制圧する〜  作者: 白石アリア


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第50話 恐怖の設計者

 フェルン自治領から届いた財務資料は、整っていた。


 破綻はしていない。

 赤字も小さい。

 支払い遅延も、表面上は局所的。


 だが――


「資金の流れが、一方向です」


 カイルが言う。


「再保険料、契約更新料、監査手数料。

 すべて円環系列へ吸い上げられています」


「ええ」


 私は頷く。


「自由はない」


 安定はある。

 だが、自主的な再設計はできない。


 私は、フェルンへ返信する。


《契約を破ることは勧めない》


《だが、内部履行実績を蓄積せよ》


 数分後、返答。


《三年待てと?》


《ええ》


 沈黙が続く。


 やがて、短い返答。


《……分かった》


 通信を切った後、カイルが言う。


「助けないんですね」


「今は」


 私は答える。


「助けられない」


 違約金は巨額。

 港基金では背負えない。


 救えば、信用圏が揺らぐ。


 その夜。


 港外の中立海域で、極秘会談の誘いが届く。


《会いたい》


 差出人は、名乗らない。


 だが、誰かは分かっていた。


 円環基金。


 私は、行くと返した。


 会談場所は、小型の帆船。

 護衛は最小限。


 船内で待っていたのは、一人の男だった。


 灰色の外套。

 落ち着いた目。

 年は三十代半ば。


「初めまして、港の管理者」


「名乗らないのですか」


「必要なら」


 男は、わずかに笑う。


「レオン=グレイヴ」


 その名に、私は微かに眉を動かした。


「元王国財務官」


「ご存じで」


「当然です」


 沈黙。


 波の音だけが響く。


「フェルンを見捨てたな」


 彼は静かに言う。


「見捨てていません」


「三年拘束だ」


「契約は守るべきです」


 彼は、笑った。


「信用は幻想だ」


「違います」


 私は即答する。


「信用は構造です」


「構造は、強者の道具だ」


 その目は、怒りではない。

 確信だ。


「王国を守れなかった」


 彼は続ける。


「条約は守った。

 だが民は飢えた」


 私は、黙って聞く。


「だから私は、恐怖を設計した」


「恐怖?」


「不安定は、平等だ」


 彼は言う。


「誰もが揺れる。

 だから、強者も弱者も同じ土俵に立つ」


「違います」


 私は静かに返す。


「恐怖は、弱者から倒れる」


 彼は一瞬だけ目を細めた。


「ならば証明しろ」


「何を」


「信用が、弱者を守ると」


 沈黙。


「フェルンを救え」


「契約を破らずに」


 それは挑戦だ。


 私は答えない。


 彼は立ち上がる。


「港は強い。

 だが万能ではない」


 去り際、振り返らずに言う。


「恐怖は消えない」


 帆船を降りた後、私は海を見た。


 レオン=グレイヴ。


 恐怖の設計者。


 彼は破壊者ではない。

 構造の裏側を知る者だ。


 港に戻る途中、私は静かに思う。


 これは、思想の戦いだ。


 信用 vs 恐怖。


 そして彼は、問いを投げた。


 契約を破らずに、救えるか。


 私は、目を閉じる。


 答えはまだない。


 だが――


 逃げない。


 この戦争は、

 条文で始まり、

 思想で終わる。

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