第46話 信用の代償
ベルナード公国の連鎖は止まった。
港基準の採用。
暫定保証。
履行監査の即時導入。
市場は落ち着きを取り戻し、商人たちは戻った。
だが――
「基金残高、想定より減っています」
カイルの声は静かだった。
「保証発動は限定的でしたが、
市場心理の安定化のために追加保証を出しました」
「想定内です」
私は言った。
「でも余裕は」
「減っています」
数字は嘘をつかない。
港湾保証基金は、万能ではない。
信用を担保するためには、実体資金がいる。
「……拡張の速度が、早すぎるかもしれません」
カイルのその一言に、私は沈黙した。
王国。
ベルナード。
そして他の小国からも、問い合わせが来ている。
港基準を採用すれば、信用圏に入れる。
それは魅力的だ。
だが――
「無制限には受け入れられない」
私は、ゆっくりと言った。
「信用圏は、理念ではなく構造です」
拡張しすぎれば、保証が薄まる。
薄まれば、不安が生まれる。
夜。
クロイツから書簡が届いた。
《保証拡張の上限を定めよ》
合理的だ。
感情はない。
続いて、ルメリアからも。
《祈りも無限ではない》
私は、机に手を置く。
救う。
広げる。
築く。
だが、資源は有限。
「……あなたは、どこまで背負うつもりですか」
カイルの問いは、静かだった。
私は、答えられなかった。
港の灯りは増えている。
だがその裏で、基金の数字は削れている。
円環基金から通信が入る。
《拡張は破綻の前触れだ》
《恐怖は、いずれ戻る》
私は、返信しなかった。
恐怖は確かに戻る。
市場は循環する。
だが。
「……上限を設けます」
私は、決断した。
《信用圏参加は段階制》
暫定保証は期間限定。
正式参加には履行実績が必要。
翌日、声明が出る。
歓迎の声と、失望の声が混ざる。
「……冷たいと言われますよ」
「ええ」
私は頷く。
「でも、崩れるよりはいい」
救うことは、優しさではない。
選別でもある。
私は初めて、はっきりと感じた。
信用圏を広げるたびに、
誰かを外に置くことになる。
その代償は、
いずれ返ってくる。
窓の外。
港は安定している。
だが私は知っている。
敵は待っている。
拡張の綻びを。




