第43話 内側から崩す手
広場の爆発は、小規模だった。
負傷者は出たが、死者はいない。
だが、それで十分だった。
――王都は不安定だ。
その印象を、国内外に植え付けるには。
「王国貴族の資金移動、確認できました」
カイルが、急ぎ足で実務室に入る。
「三名。いずれも保守派」
「流れは」
「円環基金を経由した投資組合へ」
私は、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
王国内部に、確実に手が入っている。
「投資名目は?」
「穀物先物と再保険」
理屈は通る。
違法ではない。
だがタイミングが不自然だ。
「……揺らして、儲ける」
「ええ」
私は頷く。
「市場を不安定にし、
価格を吊り上げ、
王国の信用を削る」
そして。
「内部から、“港依存反対”を強める」
通信札が震える。
王太子からだ。
《三名、把握した。
だが逮捕はできない》
「当然です」
私は、静かに呟く。
「合法ですから」
法を破らない。
契約も破らない。
ただ、構造を利用する。
「……どうします」
カイルが、低く問う。
「暴けば、王国内戦未満の混乱が起きます」
「暴きません」
私は即答した。
「では」
「条件を変えます」
私は結晶板を操作する。
《港基準:内部利益相反条項(新設)》
「王国内で基準採用を行う場合、
関連投資情報を開示」
「……強制ですか」
「いいえ」
私は首を振る。
「選択です」
開示すれば、
信用は上がる。
拒否すれば、
評価は下がる。
「……優しいですね」
「優しくありません」
私は淡々と言う。
「逃げ道を残しているだけです」
夜。
王都では、保守派貴族の一人が記者会見を開いた。
「我々は合法的に投資している!」
怒号。
混乱。
そして翌日。
王太子が声明を出す。
《王国内投資の透明化を開始する》
三名の貴族は、
投資情報を開示せざるを得なくなった。
円環基金との接触は、
“偶然の一致”と説明された。
だが。
疑念は残る。
「……内部から崩す」
カイルが、ぽつりと言う。
「ええ」
私は頷く。
「彼らは、国家を外から攻撃しない」
内側に、
疑念を植え付ける。
信用を、
ゆっくり削る。
通信札が、再び光る。
《面白い。
だが、港は守りきれるか?》
円環基金。
私は、短く返す。
《守るのではない。
築く》
窓の外。
港は動いている。
だが、波は高くなっている。
契約破壊同盟は、
姿を見せない。
だが確実に、
内側にいる。
戦争は、
まだ静かだ。
だが確実に――
**深くなっている。**




