第38話 共闘の条件
クロイツ連邦からの正式書簡は、簡潔だった。
《港湾保証基金への共同参画を検討する》
検討。
だが、クロイツが“検討”と書くとき、それはほぼ決定に近い。
「……本気ですね」
カイルが、書簡を読みながら言う。
「ええ」
私は頷いた。
「クロイツは恐怖を嫌う。
不確定要素は、制度で潰す」
数日後、浮島都市ではなく、クロイツの軍港に近い中立埠頭で会談が開かれた。
女王エレシア=ヴァル=クロイツは、以前と変わらず静かだった。
だが、その目は明確に“戦時”のものだ。
「保証基金は、面白い」
開口一番、そう言った。
「だが、港だけでは弱い」
「ええ」
私は即答する。
「国家の信用が背後に必要です」
「その代わり」
女王は視線を細める。
「クロイツは優遇されるべきだ」
「優遇はしません」
私は、迷わず言った。
「負担比率は、基準通りです」
沈黙。
護衛がわずかに身構える。
だが、女王は微動だにしない。
「貴女は、国家を怖れないのだな」
「怖れています」
私は答える。
「だからこそ、基準を守ります」
クロイツが特例を得れば、他も求める。
保証は崩れる。
女王は、ゆっくりと頷いた。
「よろしい」
その一言で、空気が変わる。
「クロイツは参加する」
カイルが息を呑む。
「条件は一つ」
「何でしょう」
「契約破壊同盟を、共同で追う」
私は、一瞬だけ考えた。
港は中立だ。
だが今、完全な中立は存在しない。
「追うのは“違法行為”のみ」
私は言う。
「思想や投資そのものは、対象にしない」
女王は、わずかに笑った。
「線を引くか」
「ええ」
「良い」
会談は短かった。
だが重い。
帰港後、声明が発表された。
《港湾保証基金に、クロイツ連邦が参画》
港はざわめき、
商会は動き、
円環基金は、初めて沈黙を破った。
《国家と港が結託したか》
私は、返答しなかった。
夜。
実務室で、カイルが言う。
「……もう中立じゃないですよね」
「ええ」
私は、静かに答えた。
「でも、公平ではあります」
中立と公平は違う。
誰の側にも立たないことはできない。
だが、基準の側に立つことはできる。
港の灯りが、以前より強く見えた。
契約破壊同盟は、
恐怖で市場を揺らす。
だが今、
港と国家が並んだ。
これは防衛ではない。
**信用圏の形成だ。**




