第36話 利益の流れ
契約破壊同盟。
名乗りは派手だが、実体は見えない。
だが私は、焦らなかった。
契約は思想ではなく、流れだ。
そして流れは、必ずどこかに溜まる。
「再保険契約、出ました」
カイルが結晶板を掲げる。
「形式は合法。複数の小国家名義で結ばれています」
「保険料は?」
「通常より高い。ただし――」
「ただし?」
「解除条項が極端に有利です。
“基準変更が発生した場合、無効”」
私は、目を細めた。
「つまり、基準を動かせば保険が外れる」
「はい」
「そして保険が外れれば、商人は動かない」
完璧だ。
基準を直接壊さず、動線を止める。
「利益の最終受取人は?」
「そこが……分かりません」
小国家連合を追っても、最終受益者は分散している。
だが分散は、隠蔽ではない。
「分散は、偽装です」
私は、指を滑らせる。
「再保険は、さらに再分割されているはず」
数時間後。
「……ありました」
カイルが、息を荒くする。
「最終的な資金の一部が、港外の投資組合に流れています」
「名称は」
「“円環基金”」
私は、契約破壊同盟の紋章を思い出す。
円環を、内側から割る意匠。
「……繋がりましたね」
「ええ」
私は静かに答えた。
「契約破壊同盟は、思想団体ではない」
「投資集団、ですか」
「ええ」
基準が揺れれば揺れるほど、
保険料は上がる。
契約は慎重になり、
再保険市場は拡大する。
「恐怖は、利益になる」
彼らの言葉通りだ。
午後、評議会で報告を行った。
「証拠は十分か」
リオネルが問う。
「直接名乗ってはいません」
私は認める。
「ですが、流れは示せます」
結晶板に、資金の動きを映す。
「基準変更 → 保険無効 → 再保険拡大 → 円環基金へ」
沈黙。
「……つまり」
評議員の一人が言う。
「港が止まるほど、儲かる」
「ええ」
私は頷いた。
「契約破壊は目的ではない。
“契約不安定化”が目的です」
その時、通信札が光った。
《流れを掴んだか》
クラウスの文字。
《だが、証明できるか?》
私は、短く返信した。
《できる》
夜。
私は、公開声明を出した。
《港湾都市リオネルは、再保険契約の透明化を要求する》
《最終受益者を開示せよ》
ざわめきが広がる。
国家が反応し、商会が動揺する。
そして翌日。
円環基金は、声明を出した。
《我々は合法的に投資しているだけだ》
否定ではない。
開き直りだ。
私は、港を見下ろす。
敵は姿を見せた。
だが、まだ仮面をかぶっている。
契約破壊同盟。
彼らは契約を壊さない。
契約を“恐怖”に変える。
ならば――
私は契約を“安心”に戻す。
次の一手は、守りではない。
**市場そのものを、取り戻す。**
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