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パパとパパ

『動いていいよ』


 何とか脱出しようと体をもがいていると、男の声が会場に広がった。その一語が耳に入ると、足元から順にこれまであった動きを封じる違和感が抜けていき、身体の自由が戻ってきた。無理やり破ろうと全身に入れていた力を解き、自然体に戻る。周りで同じく固まっていた出席者も体の自由を取り戻していたが、急に動けるようになったため体勢が崩れる。華やかな会場に不似合いな皿やグラスの割れる音が響くが、それに反応する者はいなかった。


 動けるようになり一安心だが、まだ渦中の中にあり精神の緊張は解くことができない。できるのならすぐにでもこの場を離れたい。もしまたあの能力を掛けられ、動けないまま正面からナイフで刺されたら死んでしまう。自分の命を狙う人間はいないが、死んでしまうかもしれない場所にいたくない。任務より命を優先させたいが、任務をこなさなければ無能者として仲間に背後から刺されてしまう。


(お仕事頑張って飯を食おう)


 逃げたい気持ちをぐっとこらえて、ただの給仕として正しい行動をとる。自然に尻もちをつくと、少女の声が飛んだ。


「ぱぱ!」


 優しい笑みを浮かべた紳士が少女に近づく。取り巻きを従え、会場の注目を一気に集めた。甘いマスクに会場にいる女性たちは見とれているが、男性や一部の女性の出席者は二歩下がり、畏怖の視線を向けている。そんな視線にさらされながら紳士は平然と歩き、周囲の空気など眼中にない。少女だけを見つめていた。慈愛がその眼にくっきりと浮かんでいる。


 取り巻きたちは周囲で床にへたり込み何が起きたかわかっていない被害者たちを起き上がらせ謝罪している。紳士はまっすぐ少女に向かい、ひざを折って視線の高さを合わせた。


「駄目じゃないか、イレイナ。パーティーで能力は使ってはいけないと教えただろう?」


 少女——イレイナは、顔をしかめながら申し訳なさそうに言った。


「うっ……ごめんなさい。だけどそこの給仕が勝手に逃げようとするの!」


(勘弁してくれ)


 少女に指を刺され、紳士がこちらに顔を向ける。冷や汗が背筋を流れ落ちる。仲間に助けを求めたいが、彼も簡単には動けない。焦りが胸を締めつける。


 この世界に貴族はいないがそれに類する権力者はいる。そして、この世界には『人権』なんてすばらしいものは存在しない。つまり、相手が十分高い権力を持っている場合、気に食わないことがあれば給仕の子供一人殺すことなんて平然と行える。


(そんな権力者このパーティーにいないはずなのにな)


 ただの「叱責」で済まない世界。権力者の子ならば、冗談めかして残酷な行為が起きるかもしれない。


『ぱぱ、こいつ生意気!』

『そうかい? なら殺してしまおう』

『やった! ぱぱだいすき!』


(この場合、逃げずに殺される方が無能ではないか? つまり逃げていいと私は考える)


 戦略的撤退という言い訳を頭の片隅に置き、まずは給仕として正しい対応をとり始める。ぎこちなく立ち上がり、深くお辞儀をした。頭上から声が降ってくる。


「君、名前は?」

「アルフレッドと申します」


 お辞儀から頭を上げ返事を返す。イレイナのパパと目が合った。そこには観察するような好奇心がみえた。ほんの少し、口角が上がっているようにも見える。


「うちの娘のお誘いを断ったんだって?」

「い、いえ! お断りなんて……お客様に呼ばれたので、あまり長話ができなくて」

「では、今ならだれにも呼ばれないね」


 周囲を確認すると、さっきまで体の自由を奪われていた出席者たちはその場からいなくなっていた。そこへイレイナのパパの取り巻きが自然と輪を作り、アルフレッドはその中央に立たされた。


(仲間、俺を呼んでくれ)


 さっきまで仲間がいた方向に目を向けるが、仲間はすでに逃げていた。


 もう一度視線をイレイナのパパに向けると、穏やかな笑みを浮かべ口を開いた。


「我がリオネット家の末席に加わるのは不満かな?」





『リオネット家?』

「はい、新人が使用人になるよう誘われそれを了承しました。役職は不明です」


 会場からほど近い路地裏では、アルフレッドの仲間が小型の機器に向けて報告を上げていた。男はアルフレッドの目に映らなかったが、ずっと近くで状況を見守っていた。殺される心配はなかったため、名前を呼び助け舟を出すことも無かった。さらに、殺されそうになったとしても助ける必要はないとの指示も受けている。これはこの男のみに伝達された指示だった。


「了承後、ずっとリオネット家の娘の近くにいたため、私が代わりに報告を上げています」


 機器のスピーカー越しに低い声が戻る。その声は、見捨てるように指示を出した男と同じ声だった。


『今、新人はどこだ?』

「まだパーティー会場におります」

『……リオネット家か』


 男の息がほんの少し詰まるように聞こえた。


「私も驚きましたが、確かに体の自由を奪われていました。本物でしょう」

『なぜその会場にいるか、見当はつくか?』

「……材料不足のため判断しかねます。この会場にリオネット家の利益になるような人物は出席していません」

『そうか』


 しばしの沈黙の後、指示が下る。


『新人に任務変更を伝えろ。国が主導して行っている早期才能開発計画にリオネット家が関わっているはずだ。計画の内容、実施規模、実際に行われている場所の情報を探れ』

「了解」


 続けて、付け加えられた言葉が重く落ちる。


『最悪、正体がバレてもいいとも伝えろ』

「……了解」


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