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第19話_討論の檀上、問われる信念

 王都の朝は、鐘の音とともに始まった。

  陸翔たちは王宮講堂の前に集まっていた。今日、王立教育改革案の《公開討論会》が催される。

  「こんなでっかい会場……聴衆どんだけ入るんだよ」

  翔太が緊張気味に呟くと、由衣が「千人はいるんじゃない?」と肩をすくめた。

  「まあ、今日の主役は俺たちってより、貴族連中だしな。俺たちは“招待枠”で前座みたいなもんだ」

  そう言う豊の顔には余裕が浮かぶが、目は鋭く壇上の構造を観察していた。

  「俺、空気読めるか不安だ」

  拓矢がぼそりと呟いたが、誰もそれを否定できなかった。というのも、今回の討論――登壇者の一人として彼の名もあったからだ。

  「むしろ読めない方が刺さる場面もある。あんたは“正論をぶつける役”に徹して」

  美雪の冷静な助言に、拓矢は神妙に頷いた。

  やがて、壇上に呼び出される時がきた。

  陸翔、日和、拓矢、美雪。そして王立学院の代表教授、保守派の中将、商業連合からの若き議員など、様々な立場の人物が一堂に会する。

  冒頭の挨拶が終わり、討論のテーマが掲げられた。

  《教育における知識重視の是非と、共学制度の拡張性》

  「では、質問を許可する」

  司会官が言った瞬間、拓矢が手を挙げた。

  「え、ちょっ、今!? 拓矢!?」

  由衣の心の声が駆け抜けるが、拓矢は堂々と壇上中央へ進み、質問を投げた。

  「質問します。“学ばぬ者”はこの国にとって不要なのか。知識偏重になれば、身体や感情に重きを置く者たちは切り捨てられるのではないか」

  聴衆の一部がざわついた。

  「それは極論です」

  保守派の貴族が即座に反論する。

  「教育とは本来、知識を授け、賢者を育てる手段。我らはその伝統を尊重している」

  「けれど」

  今度は美雪が、涼やかに口を開く。

  「“伝統”という言葉で、現実の変化を見ないふりをするのは、怠惰と同じですわ。知識は確かに必要。でも、勉強が苦手な人間にも、その人なりの学び方がある」

  「それは感情論に過ぎない」

  別の貴族が冷笑するように言った。

  だが――

  「感情がなければ、知識はただの道具です。目的を持たない剣と同じ」

  陸翔が、静かに壇上へ立つ。全視線が、彼に集まった。



 「僕たちは“識りて歩む者”です。学ぶことが力になる、そういう仕組みの中で生きています。けれど、それは同時に“学ばなければ何も得られない”という、過酷な側面でもある」

  陸翔の声は、穏やかだが強く響いた。

  「では逆に問います。知識とは、誰かを切り捨てるためにあるのですか? “選ばれた者”だけが学び、他を支配するためのものですか?」

  ざわめきが広がる。

  「僕はそう思いません。学びは、人と人をつなぐ橋であり、誰かが誰かを理解しようとする行為そのものだと、そう信じています」

  日和がそっと息を呑んだ。

  彼の言葉は、かつて自分が求めていた“承認”とは違う、高みに向かっていた。

  「それでも僕は、知識を求めます。僕の中にある“探究心”は、弱さを否定するためではなく、“誰かのために力を貸せるようになりたい”から生まれたものです」

  沈黙が、講堂を満たした。

  やがて、若い議員が口を開く。

  「……その思いを、私は支持します。学びは、特権ではなく、希望であるべきだと」

  ぱち、ぱち、と誰かが手を叩いた。

  そして徐々に、拍手の波が広がり、会場を満たしていった。

  「やるな、あいつ……」

  翔太がつぶやくと、由衣は満面の笑みを浮かべて言った。

  「うん、かっこよすぎて、ちょっと腹立つわ」

  討論会は、学びを武器に語った若者たちの勝利で幕を閉じた。

  だがその裏で――

  「“連環写し取り”、覚醒が早すぎるな……あれは想定外だった」

  貴族席の最奥、暗がりに沈むフードの男が呟いた。

  「――計画を早めるしかない」

  その目に、妖しく黒曜の煌めきが宿っていた。

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