第18話_交差する思惑、宰相の誘い
王都へ戻った八人を出迎えたのは、喧騒と熱気の渦だった。
「……前よりも、騒がしい?」
日和が目を細める。門前には、商人と貴族、兵士と学者が入り乱れ、広場では複数の討論が飛び交っていた。
「聞こえるか? 教育改革って言葉があちこちで飛んでる」
翔太が指差した先、王都中央講堂では仮設の掲示板に『共学制度推進案』『新設:実技重視課程』といった紙が張られている。
「なるほど。表向きは“教育刷新”か……裏では“体制の再構築”と読み取るべきね」
美雪が紙の角をつまみ、皮肉っぽく言う。
そのとき、使い魔の鷹が上空を旋回し、彼らの元に降り立った。足に巻かれていた文書をほどくと、金色の紋章が押されていた。
「これは――宰相殿からの招待状だ」
豊が目を通し、驚き混じりにそう呟いた。
招待場所は、王宮東館の謁見室。時間は本日正午。指定された人物は、陸翔と日和の二名。
「……まさかとは思ってたけど、やっぱり来たわね」
日和が息を呑む。
――
正午、王宮東館。
広い謁見室には宰相カリオスと、側近の魔導筆記官がいた。老齢の宰相は、陸翔と日和に穏やかに語りかける。
「君たちの名は、すでに議会でも耳にしている。“学びをもって成果を示す者”としてな」
「恐れ入ります。ですが、なぜ私たちを――」
日和の問いに、宰相はためらいなく答えた。
「陸翔君。君に《王立戦術顧問》として、教育計画に協力してほしい」
場が静まり返った。
「戦術顧問……それは、兵士を教導する役ですか?」
「いや。王国の学生たち全体に、知識の活用を伝えてもらいたい。いずれ、戦うだけが強さではなくなる。次代は“学ぶことで成長する”者が指導者となるべきだ」
陸翔は答えに詰まった。だが、その言葉は確かに彼の理念と響き合っていた。
「さらに、日和君。君には王都医療局の教育主任として、基礎看護と応急魔法のカリキュラム作成を依頼したい」
「わ、私に……?」
戸惑う日和の頬が赤くなる。承認欲求が、確かにくすぐられた。
だが――
(おかしい。こんなにスムーズな話、逆に不自然)
彼女の本能が、何かの陰を察知していた。
「もちろん、見返りとして研究資金や市民等級の引き上げも検討する」
「それはありがたい申し出です。……ただ」
陸翔が一歩踏み出し、ゆっくりと口を開く。
「この提案は、教育のためだけのものですか? それとも、政治的な狙いがありますか?」
カリオスの表情がわずかに揺らぐ。
「……賢いな、君は」
「ならば、教えてください。私たちが今、何と戦おうとしているのか。書庫の暴走、そして“深虚会”。この改革と、無関係ではないでしょう?」
宰相は静かに視線を下げた。
「それを知った時、君たちはきっと、逃げ場を失う」
それでも陸翔と日和は、迷わず返す。
「それでも、“知る”と決めたんです。ここで学んだ全てを、意味のある未来につなげたいから」
「私も……誰かの役に立ちたい。形だけじゃなく、本当に役に立てる自分になりたい」
宰相は目を細め、しばらくの沈黙ののち、頷いた。
「ならば、君たちに預けよう。表と裏、両方の“知”を」
王都へ戻った八人を出迎えたのは、喧騒と熱気の渦だった。
「……前よりも、騒がしい?」
日和が目を細める。門前には、商人と貴族、兵士と学者が入り乱れ、広場では複数の討論が飛び交っていた。
「聞こえるか? 教育改革って言葉があちこちで飛んでる」
翔太が指差した先、王都中央講堂では仮設の掲示板に『共学制度推進案』『新設:実技重視課程』といった紙が張られている。
「なるほど。表向きは“教育刷新”か……裏では“体制の再構築”と読み取るべきね」
美雪が紙の角をつまみ、皮肉っぽく言う。
そのとき、使い魔の鷹が上空を旋回し、彼らの元に降り立った。足に巻かれていた文書をほどくと、金色の紋章が押されていた。
「これは――宰相殿からの招待状だ」
豊が目を通し、驚き混じりにそう呟いた。
招待場所は、王宮東館の謁見室。時間は本日正午。指定された人物は、陸翔と日和の二名。
「……まさかとは思ってたけど、やっぱり来たわね」
日和が息を呑む。
――
正午、王宮東館。
広い謁見室には宰相カリオスと、側近の魔導筆記官がいた。老齢の宰相は、陸翔と日和に穏やかに語りかける。
「君たちの名は、すでに議会でも耳にしている。“学びをもって成果を示す者”としてな」
「恐れ入ります。ですが、なぜ私たちを――」
日和の問いに、宰相はためらいなく答えた。
「陸翔君。君に《王立戦術顧問》として、教育計画に協力してほしい」
場が静まり返った。
「戦術顧問……それは、兵士を教導する役ですか?」
「いや。王国の学生たち全体に、知識の活用を伝えてもらいたい。いずれ、戦うだけが強さではなくなる。次代は“学ぶことで成長する”者が指導者となるべきだ」
陸翔は答えに詰まった。だが、その言葉は確かに彼の理念と響き合っていた。
「さらに、日和君。君には王都医療局の教育主任として、基礎看護と応急魔法のカリキュラム作成を依頼したい」
「わ、私に……?」
戸惑う日和の頬が赤くなる。承認欲求が、確かにくすぐられた。
だが――
(おかしい。こんなにスムーズな話、逆に不自然)
彼女の本能が、何かの陰を察知していた。
「もちろん、見返りとして研究資金や市民等級の引き上げも検討する」
「それはありがたい申し出です。……ただ」
陸翔が一歩踏み出し、ゆっくりと口を開く。
「この提案は、教育のためだけのものですか? それとも、政治的な狙いがありますか?」
カリオスの表情がわずかに揺らぐ。
「……賢いな、君は」
「ならば、教えてください。私たちが今、何と戦おうとしているのか。書庫の暴走、そして“深虚会”。この改革と、無関係ではないでしょう?」
宰相は静かに視線を下げた。
「それを知った時、君たちはきっと、逃げ場を失う」
それでも陸翔と日和は、迷わず返す。
「それでも、“知る”と決めたんです。ここで学んだ全てを、意味のある未来につなげたいから」
「私も……誰かの役に立ちたい。形だけじゃなく、本当に役に立てる自分になりたい」
宰相は目を細め、しばらくの沈黙ののち、頷いた。
「ならば、君たちに預けよう。表と裏、両方の“知”を」