第11話_知を携え、トルクスの門をくぐる
七月上旬。ルミナール王都から飛行竜便でおよそ二日。
陸翔たち八名が到着したのは、王国北東の辺境に広がる〈学舎都市トルクス〉だった。
トルクスは元は採掘と交易の町だったが、三百年前に古代図書遺跡が発見されて以来、“知の拠点”として独自に発展してきた都市である。魔導知識と遺物技術の融合を推進し、王立学院と並ぶ知術研究の分拠点として重要な役割を担っている。
「すっげ……石畳の道が、全部“魔導管”に組み込まれてる……!」
翔太が目を丸くして街並みを見渡す。
道の脇には魔力を通す金属板が敷かれ、車輪のついた荷台が浮かぶように滑っていく。建物の屋根には風力を操る“風読機”が据え付けられ、空気の流れすら計算されていた。
「知識を都市の設計にまで落とし込んでる……これ、すごい発想」
陸翔も真剣な眼差しで都市構造を観察する。メモ帳を取り出す手が止まらない。
「理論だけじゃなく、運用前提の学びって感じだな。これが“知を活かす”ってことか……」
一方、豊は早くも街角の菓子屋で子どもたちに話しかけていた。
「やあやあ、兄さんたちは今日からお勉強しに来たんだよ。ところで、この町の図書館って、やっぱり入るの難しい?」
「おじさんたち、古代図書館に行くの? 許可証ないと入れないよ!」
「許可証?」
「うん! 風穴遺跡の魔石を集めたらもらえるの!」
子どもたちの言葉に、豊が振り返る。
「ってことで情報ゲット。入館するには、風穴遺跡から“魔石50個”を回収しなきゃなんないらしい」
「数が多すぎるわ……でも、逆に言えば、条件さえ揃えば中には入れるのね」
美雪が冷静に分析する。
「魔石の回収効率を上げるなら、地形の把握が最優先ね。あたし、地図探してくる」
「私も行く。採取薬の準備もしとく」
日和と美雪が並んで、図書管理局へと歩き出す。
「じゃ、俺たちは装備品の整備だな」
翔太が肩を回し、拓矢が「予備の魔導瓶、忘れんなよ」と念を押す。
バラバラに見えて、目的意識は揃っていた。
八人はそれぞれの役割を自覚し、動き始めていた。
そして、夕方。再集合した彼らは、風穴遺跡へ向かう前の確認会を開いた。
「まず、“風穴”って名前の通り、気流が激しい。軽装が基本だけど、耐風式の装備が必要」
「幸い、町の鍛冶屋で“風除けの紋布”が手に入った」
「それと、遺跡内では“音”による共鳴罠もあるらしい。音響対策も必要かも」
情報が次々と積み上げられ、対応策が練られていく。
「……行こう。次の学びは、現場にある」
陸翔の言葉に、誰もが迷いなく頷いた。
知るだけでは終わらない。
使い、選び、活かす。
その覚悟を胸に、八人は明朝、風穴遺跡へと向かうことを決めた。