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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第1章】異世界転移の悪用:人攫い
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竜騎士 対 人工竜人 ⑤

「ドム・レオンの部屋にはドムのサイズで作られた大量の女性モノの衣服、ウィッグ、着ぐるみなどがあった」ルージュは竜人に銃を向けながら慎重に近づく。


 彼は工房で見つけた書物を取り出して話を続けた。「日記には『モンスター女性になりたい』という記載があった。最初のユリア夫人は研究が失敗して亡くなった。ドムが彼女と結婚したのは『肉体が好みだから』。身体を乗っ取って性的興奮とか色んな欲求を満たすつもりだったようだ。2人目をわざわざ異世界転生で呼び出すほどにご執心だった。そして、今度こそキメラ合成に成功した。彼は、自分の意識、情報を『肉体は保った』竜人に上書きコピーして植え付けた。これは成功した時点でもとの人格は喪失する類の魔法だった。自分のもうひとつの欲求である『人外の性的興奮を覚えるモンスターに食い殺されたい』という願望を叶えたんだ」


 ボクは硬直して竜人に唖然と不快の眼差しを向けた。(ルージュ曰く『ドン引き』の表情だったらしい)「つ、つまり? ①ユリア氏の体はドム氏の『コピー』に乗っ取られて、もう死んでる ②ドム氏オリジナルはコピーに食べられて死んでる ……ってことか!? そんな、書物のコピーや美術品の版画とはわけが違うんだぞ!」


「タツキ、それが普通の感性だろうよ。でもね、たまにいるんだよ。自分が完璧にコピーされたモノがあれば、意識の連続性はコピー先に任せて、自分の命はいくらでも捨てれるってタイプがね。しかも本人――ドム氏オリジナル――にとって最高の死に方だったようだ。幸せを享受しながら、あいつは竜人になって現に生きて目の前にいるわけ」


 ルージュはボクから竜人へ話相手を変えた。「今の推察やこの記録書の記述への反論はあるか? 竜人。実は『この記録書自体が捏造された文書』などと言い始めるか?」


 ドム・レオンは演じるのをやめて、落石で使い物にならなくなった翼を引きちぎった。


「けけ……ユリアの身体程じゃないが、お前、竜騎士の身体も俺好みだぜ。ドン引きして構えが疎かになってるぞバカめ!! さっきは効かなかったが今度は数倍の衝撃がある咆哮だ! 喰らえ!」


 ドムが宣言通り『ヴォアアアアアアアア!!!』と先程の何倍もの大きい咆哮をあげた。


 ルージュは魔法でプロテクトしていたが、このレベルの衝撃,音波には耐えきれず、床に膝を付きうずくまった。ボクも同様にうずくまる。


 ドムは今度こそ仕留めたと思った。「お前の身体を堪能させて貰うぜえ!!」


 しかし、攻撃が届くことはなかった。ボクは顔をあげて槍を正面に突き出していた。


「あ、が?」ドムは胸元を槍で貫かれていることに気づいたが、次のことを考える前に絶命しただろう。


「はあ……。欲求に対する行動力は目を見張るものがあったが、肝心の竜に対する知見と研究者としての腕は二流、いや三流以下だったようだ」ボクは槍をドムから抜いて、タオルで付いた血を拭った。


「ボクの生まれた世界にはある伝承があってね。東方の竜……『龍』は音を耳ではなく魔力変換して角で知覚するんだ。いらなくなった耳は海へ落として『タツノオトシゴ』となった。ボクはこの伝承の因果か知らないが、聾者(耳の聞こえない人)でね。そもそも咆哮対策で常に耳を塞いでいても何ら問題がないんだ。今までルージュと会話したのは手話と、それを元に魔力で補って多少視覚の外でも把握できるよう改良した会話だったんだ。竜人、自分の角で『知覚』してたのに仕組みは把握してなかったんだな。……もう『聞こえてない』から喋っても無駄か」


 時間差で、だんだん聴力が戻ってきたルージュが起き上がってくる。「……俺も手話できるんだから、今後竜関連の事件に対応する時はプロテクトを強固にするよ。ああ、まだ目眩と耳鳴りがする」


「仕方ないな。肩貸してやるよ」




   *      *




 一応、この後のことを書こう。


「『魔獣狩猟』は自分好みのモンスターを作り出すために行ってたんだね」帰りの馬車で、ボクは疑問を全部ルージュに投げかけることにした。


「キメラを作る時、体の部位で不要になるところがあるから、その部分の骨の加工品を作っていたんだな」


「……工房にいた老病のドラゴンって」


「うん、多分"前"ユリア夫人の部分が腐り落ちて、ドラゴン部分のみが生きながらえた。何とか呼吸することが精一杯になっていたんだろう」ルージュは言いたくなさそうにしたが、窓から外を眺めて淡々と伝えた。「食われたい欲求ってのは恐ろしいね。俺にはわからないよ。カニバリズムって言うのかな」


「ユリア夫人はキメラ生成に好意的だったのだろうか。それとも、完全に裏切られたのだろうか」ボクは残るひとつの疑問を口にした。


「それを判断する資料はないね。どちらかだったか決めつけないことが一番真摯な対応だろう」

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