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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第3章】魔法使いたちの事件簿
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異世界転移は人攫いの手段

約7千字と今までの1エピソード分より長くなりましたが、最終回ですのでこのくらいの長さでちょうど良いでしょう。

 語り手:タツキ・ドラゴネッティ

女性、一人称は「ボク」、ろう者(耳の聞こえない人)、元竜騎士


※今から話す内容は、前エピソード『「そうだ、悪役令嬢ブレダを殺そう」』と『ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段』の過去エピソードが前提になっている。




 ボクは一度科学世界の日本から、魔法世界へ異世界転移させられた。その後、魔法世界で大規模な戦争が起きて、ルージュ・フイユ、バイオレット・ガーベラと3人で再び科学世界に戻ってきた。それから10年ほど経った頃の事件を、ここに記録しよう。


 ボク、ルージュ、バイオレットの3人は亡命後しばらくはともに行動していたが、それぞれの趣味や生き方を譲歩する気はさらさらない3人だったので、亡命後1年も経てばお互い単独行動が増え、年に2回程度顔を合わせるという関係性になっていた。


 今年初の会合の日になった。今回会う場所はとあるスキー場の山頂付近にあるレストランだった。


「お客さん、かなり吹雪が酷いのに、どうしてここに来たんだい? 今日はロープウェイも動いてないし閉店だよ!」店主は驚きと呆れを交えて、スキー場なのに過酷な雪山登山の装備できたボクに言った。


「人と待ち合わせしてるんです。ああ、大丈夫ですよ。あくまで風よけに建物に近くにいたいだけです。ボクのことは気にせず」ボクは言った。


「いや、無視しろって言ったって……」店主は怪談話にでも巻き込まれた気分だったに違いない。しかし、ボクをそのまま吹雪の中に置いておくのは気がひけたようだ。「ああもう、入りなさい! ココアくらいなら出すよ」


 ボクは店内の席に座って、外の吹雪など存在しないかのようにゆったり席に座ってココアを啜った。店主はボクを1分おきに凝視しては首を横に振るばかりだった。


 店主は何度かボクとキッチンを行ったり来たりしたあと、なにか思い出したように焦ってボクに質問してきた。「キミ、さっき『待ち合わせ』だとか言ってなかったか!?」


「ああ、そうだよ。あと2人くる。半年前くらいから決めてたからね」


 店主は立ちくらみがして額に手を当て、テーブルに手をついて混乱する頭を整理していた。多分ボクの状況を客観的に見れば、マフィアだとかギャングとかが秘密裏の取引をしようとしてるようにしか映らないだろう。店主は自分からそれに足を突っ込んでしまったと勘違いして、動揺を隠しきれていなかった。


 店主の精神衛生のために誤解を解いてあげるかどうしようか悩んでいると、2人目の客がレストランにやってきた。


「どうもどうも、まさかこんな吹雪の中レストランが開店してるなんてびっくりだよ。タツキの他に誰もいないかなと思って、魔族の角を隠さずに来ちゃったじゃあないか」


 やってきたのはバイオレット・ガーベラというホムンクルスで、一時期は魔法世界の一国の長だった。彼女は普段メタラーの格好に角も覆えるゴシックな帽子を被っていた。今日はボク以外いないと思って店内に入る時帽子を外してしまったのだ。


 店主は驚きでドギマギしているが、バイオレットは「秘密だよ」と真顔で言ったあと、改めて帽子を被ってボクと対面の椅子に座った。


 それから10分ほど、半年間お互い何をしていたかの雑談をしていたのだが、そこで、外で異様なもの音がした。


「え、なんか、団体客なんだけど」店主は外から5、6人はいそうなもの音に怖気付いたが、より恐ろしくさせたのは、ボクとバイオレットが急に立ち上がって、槍やら剣を取り出して構えたことだろう。


「ああ。店主、しばらくキッチンの死角に隠れていてくれないか」ボクは店主に言った。すぐに話し相手をバイオレットに変更した。「予想はしてたけど、ルージュより先に彼らが来ちゃったね」


「まあ、仕方ないんじゃない? ルージュは今日、本当は私たちを巻き込む気がなかったんだから」バイオレットは答えた。


 数秒間レストラン入口を観察していると、男女合わせて6人がレストランに入ってきた。そのうち先頭を歩く一人がボクらを確認すると、ゆっくり両手をあげて、少し諦めたような顔笑いながら席に座った。


「ええっと、魔法捜査官の人ですよね?」彼女は店主をキョロキョロと探した。「あれ、ここの店主さんはいないんですか? 絶品だから、捕まる前に飲みたいなと思ってたんだけど」


「ああ、ボクが隠れているように指示したんだった。店主さん、もし良ければ彼女にもココアを振舞ってあげて欲しい」


 ボクとバイオレットは武器を仕舞いはしなかったが、そのまま元いた席に座った。


 先程レストランに入ってきた他の団体はと言うと、まるで「人形」のようにそこから動かなくなっていた。


 ボクは団体のリーダーに言った。「キミ……ブレダと呼ぶのがいい? それともランビエール? もしくは……シーラ」


「どう足掻いても私はシーラです。シーラ・クヴァンツ」彼女は机に置かれたココアを1口飲んで、再度ボクの方に向いた。「ルージュさんはどこです? 彼に感謝したいんです」


「ああ、いやこの吹雪だからね、いつ到着するかはちょっと……」ボクがいい終える前に、レストラン入口に人影が動いた。「……ちょうど来たみたいだよ」


「ああ! 段取りが崩れた!」ルージュは入ってくるなり開口一番叫んだ。その後シーラ・クヴァンツの方へ歩いていき、握手した。「どうも、『魂の調子』はいかが?」


「以前よりずっといいですよ。医療魔法従事者が確認したら損傷具合に驚くでしょうが、私からしたら以前よりずっとましなんです」


 店主はずっとわけがわからずボクらのことを呆然と眺めていたが、ルージュは店主を手招いた。


「さあ、きっと説明が必要でしょう。話してあげますよ」


 1つのテーブルに5人座っていた。ルージュ・フイユ、バイオレット・ガーベラ、シーラ・クヴァンツ、店主、そしてボク……タツキ・ドラゴネッティ。


「それぞれ断片的な事情は抱えているが、俺がここで経緯を順を追って説明しよう」全ての状況を把握しているのはルージュだけだった。「まず、店主。あなたはこのレストランの2代目で、先代が『失踪』した後、このレストランに来ましたね」


「あ、はい」店主はまさか自分が話題の中心になると思ってなかったようで、虚を付かれた顔でドギマギと頷いた。


「先代店主がかなりこの話の鍵となるのですが、今はそれを留意するに留めて、シーラの話をしましょう」ルージュは店主から向き直ってシーラの方に視線を移した。「そうですね、あなたが初めての殺人をしてしまった時から話すのがいいと思いますが、その事情はシーラくん、あなたの口から説明しますか?」


「いや、ルージュさんがまとめて話てくれた方が、混乱は少ないでしょう。もし注釈が必要なら要所で割り込むよ」シーラは言った。


「では」ルージュは椅子の背もたれに身を預けて、シーラ以外の聴衆に、壇上の講師のように語りかけた。「シーラは5年前、シャルル・ランビエール氏の計略によって初の殺人をします。『犯した』とは言いません。ここでシーラ氏がランビエールを殺したことを咎める人とは、俺は相容れないね。しかし、その後は結果的には『過ちを犯した』という他ないです……心情は考慮せずに言うと。シーラはその事件までのネクロマンシーの経験から、死を扱い、与えることのストッパーが壊れかけていました。壊れかけてたタイミングでランビエールが『自らを殺させる』ということをしたので、シーラはたがが外れてしまったんです。彼女は人を殺すという選択肢がその後の人生に付きまとうようになりました」


 店主が置いてけぼりの表情をしたので、ルージュは失敬失敬と言って、『令嬢ブレダ殺人事件※』と書かれた報告書を店主に渡し、概要を説明した。


※『「そうだ、悪役令嬢ブレダを殺そう」』の事件


「話をシーラに戻します。彼女はランビエールの死体を埋めたあとしばらく、数ヶ月は失意の中生活していました。しかし、ふとランビエールが死の直前に語った内容を思い出して、『もしや』と思う内容があったのです。ランビエールは神の存在を疑っていました。異世界転生がなぜ起きたのかもよく分からないと言っていました。……さて、察しのいいタツキとバイオレットも気づいたみたいだね。俺らの過去の専門分野だよ。『異世界転移・転生は人攫いの手段』、ランビエールは妖精のいたずらで異世界に転生したんじゃあない。何者かの『愉悦と娯楽』によって異世界に転生させられたんだ」


「シーラは罪の意識を忘れるためにも、ランビエールの調査を開始した。そして、今俺ららが集まっているこのスキー場を見つけた。ここの先代店主が、人身売買の関係者であることがわかったんだ。もし人身売買の過程で死亡者が出たとしても、雪山というのは絶好の証拠隠滅場所だからね。シーラはこのレストランで張り込みをして、前店主とその部下たちが、異世界を監視、言わば『モニタリング』していることを突き止めた。彼らはこの科学世界で絶望した『異世界転生欲』のある人間を見つけ出して、その人間をあたかも妖精のいたずらであるかのように偽装して異世界に転移した……転移だよ。言葉を間違えてはいない。転移させたあと、ランビエールが人形師に教えてもらったように、別の器に魂を分身させて『転生を偽造した』んだ。転生は魂の完全な持続だが、この方法の転移は……死ぬ直前の魂を助けていない。ランビエールのオリジナルの魂は熊に襲われた時点で死んでいる。異世界にきた時点で、既に分身の魂だった。まあ、ここで哲学的考察を交えると翌日まで話が長引くからやめよう」


「シーラは真実を知った翌日もこのレストランに通った。正直なところ、店主……前店主を見た時に殺意を自制できるか確証はなかった。しかし、彼女は自分で前店主を殺す必要はなかった。彼女が店主を捕らえようとした同日に、別の誰かが店主を殺したのは、これこそ妖精のいたずら、運命のいたずらにほかならないと思う。シーラがレストランに到着した目の前で、ブレダ姿のランビエール、――彼自身の手記ではランビエール・Bと表現されていた――、が、拳銃を持って前店主の脳髄を撃ち抜いていた」


「ランビエールは魂の分身を令嬢ブレダに移植して、令嬢の側近としてのランビエール・Aがシーラによって殺されたあと、自身の欲求に忠実に生きていた。まあ、性欲と肉欲だよね。それで、ある日ランビエールはタツキがこれまで執筆していた『ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段』を読んだんだ。読んで、自分の人生を振り返って……熊に殺されてから令嬢ブレダの側近に転生したまでの流れに違和感を覚えた。違和感の正体はこれまで説明した通り」


「シーラとランビエール・Bは1年振りに劇的な形で再会した。……さて、大事なことだがシーラはこの時点でブレダの中身がランビエールであるという確証がなかったんだ。ランビエールの調査をしている時、彼自身の手記をシーラが読めた訳ではなかったから。だから、シーラ視点では、目の前にいる女性がシーラであるのか、ランビエールであるのかは五分五分だった」ここでルージュはシーラへ質問した「シーラはどっちを望んでたとかはあるかい?」


「……いいえ、ブレダが死んでいることは確定でしたので、ブレダだとしたらそれはランビエールの資料魔術の作用によるゾンビです。どの道ゾンビなら……殺してあげるのが彼女のためです」


「そう……ゾンビなら殺してあげた方がいい……。シーラは目の前の令嬢に質問しました。『あなたはどっち?』そのまんまですね」


「ランビエールは数十秒はなんと発言していいか言葉が出なかったようで、やっと出した言葉は『ここまで黙っちゃったから、もうどっちかはわかるでしょう』だった。つまりランビエールだと自白したも当然です。ランビエールは、自身が2度も死んだと言うことや、科学世界の日本で人生の無常を経験し、そして今まで反動のように酒池肉林を楽しんだので、生への執着というのが薄らいでいました。彼は自白したあと、立て続けに言いました。『僕を殺すか? 許せないか?』」


「シーラは返答しました。『……許す許せないは正直考えたくもない。自分の心情を自分で解剖したくない。ただ……、殺すよりは、《多世界転移管理局/パラレルエージェント》に引き渡すのが一番の道理かなと思ってる』シーラはここまでずっと単独行動でした。もし、管理局のハロルドに相談していれば……いや、たらればはやめよう」


「ランビエールはため息をついて言いました『それは、僕を逃がす・殺すどちらよりも面白くない選択だ』彼は拳銃をシーラに向けました。結果は……シーラが再びランビエールを殺すことになります」


「ただ、ランビエールは自身の身体に禁術を施していました。そして、拳銃の真後ろに魔法の杖も構えていて、弾丸の後ろで別の魔法を唱えていたんです。シーラは弾丸を弾きましたが、禁術に気づけずいました。シーラは術にハマってしまいました。『魂の分身を作り、空っぽの器に入れる』……そう、シーラの魂は2つになり、ブレダの身体に入り込んだのです。今、俺たちの目の前にいるシーラは言わば、シーラ・Bです」


「シーラ2人はそれから1年間、双子の気分で暮らしていました。しかし……魂が2つに分かれた時点で人生は微妙に枝分かれしていきます。「シーラ・は自身がブレダであるということ……そして一時期はランビエールであったということ……がじわじわと侵食していきます。――かつてのランビエール・Bがあまり身体の違いを意識しなかったのは、転生経験の有無か、はたまた本人のさがでしょうか――。シーラ・AとBは一心同体であったはずなのに、だんだんと思想がズレていき、シーラ・BはAに隠し事をして行きます。そして……利己的な理由で、ネクロマンシーを行うようになったのです。死霊魔術は禁忌だったのを、シーラは今まで不審死の解決という善性のためになんとか危ない橋から落ちずに生きて来れました。その道から外れたネクロマンシーは、倫理的に行われるべきでないとされ……当然、死体損壊やその他様々な罪状があるわけです。そちらに力が抜け切って座っている屍たちは、シーラ・Bの罪の証拠です」


 ルージュはある手紙を取り出した。「俺はシーラ・Aから書簡を受けとりました。ひとつはランビエールの手記、もうひとつはシーラ・A本人の懇願で『もはや別人になってしまったシーラ・Bを捕まえて、過ちを止めて欲しいと。俺は多世界転移管理局のハロルドに任せた方がいいと思ったのだが、ちょうど彼は別の事件(ぬいぐるみの事件)で大変そうだったし、他の管理局員はいまいち心もとないので、それならと、シーラ・Bの捜索に買ってでたのです」


 ルージュは一通り話し終えたことをジェスチャーで伝えて、シーラに補足を促した。


「まず言いたいのは」シーラ・BはAの書いた手紙を広げた。「『もはや別人になってしまった』と言うのは心外だということですね。彼女の魂が分身せず私と今も一体だったら、『1人のシーラ』がそれこそ外法の道を歩んでいたでしょう。彼女がベースとしてまともだったんじゃあない。私の行動を客観的に見れてしまったが故に反面教師としてとらえ、善人と立場をたまたまとれているだけです。……これは私の悪事への言い訳ではないです。ただただ『別人である』といったかつての私への失望です」


「私はルージュ・フイユさんに追われていることがわかりました。しかし、ルージュさんを殺すことで逃れようとは思いませんでした。殺人をするほどの悪事には手を染めませんでした。ネクロマンシーによって死者を愚弄してはいたのでしょうが、悪事の許容範囲ってのはやはり私にもあるわけです。私にもランビエールにもゆかりのあるこのスキー場で捕まるのも、ひとつの結末でしょう。引き際を受け入れます」


 ルージュは半年に1回の会合日とシーラ逮捕の時期が重なってしまった時、逮捕を優先しようとしたが、「それは許さない」というのがボクとバイオレット両人の意見であり、シーラ逮捕の手伝いをすることになった。


 ボクはシーラに言った「シーラ・Aの最近の動向は把握してるかい」


「……あー、殺人、ランビエール以外の人を殺しただろ」シーラ・Bは事情を知っていた。


「うん。彼女は問題解決の手段として『殺人』が当たり前の選択肢になってしまったんだ。まあ、悪人のみを殺すに留めているが……そう何度も私人殺人を繰り返されてはね。彼女は善性でBを捕まえるように言ったが、果たして彼女とキミで綺麗に善悪が分かれたとはとても思えないね」


 シーラは笑った。「もちろん、私も綺麗に二分なんてしてないと思う。ただ、ルックスの違いが微妙な趣向の差を生じさせただけだよ」





 ルージュは管理局のハロルド・バルトにシーラを引渡しに向かった。ハロルドは別件の捜査が忙しかっただけでなく、シーラ・Aの対応にも追われていたので、大忙しだっただろう。ボクたちがシーラ・B逮捕に貢献したのはハロルドの負担削減の理由もあった。


 引渡しまでのしばらくの時間、ボクとバイオレット、ルージュの3人でしばらく世間話をして、また半年後に再会することを約束して解散した。

以上で一旦本書『ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段』が完結します。このエピソードまで読んでいただき、感謝感謝です。


『ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段』は二次創作OKです。「小説家になろう」や「Pixiv」などで投稿できます。


「長編にしたかった短編」の長編化も二次創作の名の元でOKです。ただし、こちらの創作は事前に私DukeHawkに連絡を入れてください。




これは名言できないのですが、画面をスクロールすると星がいくつか並んでいますね……?


では、以上で一旦完結とします。ご愛読ありがとうございました!

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