「そうだ、悪役令嬢ブレダを殺そう」 ③
3/愉悦と結末
ワイバーン噛み殺し事件から数日後。
ある程度覚悟していたことですが、シーラはワイバーン事件により正義感を増大させて、不審死した死体を調べたいという欲求を持つことになりました。
「死体を調べたい」それは不審死した魔法使いの遺族も同様であり、シーラと利害が一致しました。郊外の住宅に住む魔法使いの事件に何回も首を突っ込むことになったのです。
表向き、僕は「善性としてのネクロマンシー利用」をシーラにを促した張本人です。そのため、シーラが首を突っ込んだ事件に彼女に懇願されて、僕もついて行くことになってしまいました。
ブレダはシーラのムーブを面白く思いませんでした。「側近が私の元を離れるのは困りますわ。しかも相手がシーラなのはさらに腹立たしい。……とはいえ、不審死の遺族の気持ちもわかります」ということで、ブレダも事件に同伴することになりました。
以後、僕 (シャルル) 、シーラ、ブレダの新3人組で複数の事件を解決してきたのです。
事件をひとつひとつ取り上げるのも良いと思いますが、今は僕の主目的である「令嬢ブレダを美しい状態のまま殺したい」という主題を優先しましょう。どこかで個々の事件も扱いたいものです。
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おおよそ、シーラ最初の事件解決から3ヶ月ほど経った頃でしょうか。
僕はシーラが予想以上に早く死霊魔術を使いこなし、死者の思想を再現していることに焦りを覚えました。このままでは僕がブレダを殺した際、ブレダの遺言を再現しすぎてしまう。
僕は2択のルートを考えていました。1つは、シーラの倫理観を壊して僕と共感しやすいようにして、ブレダを殺した後死体を復活させてネクロマンシーの使役物として操縦してもらうことでした。シーラ自身のネクロマンシーでもって身体の鮮度を保ってもらおうと思っていましたが、どうにもそのルートは取れなさそうです。
あくまで性格が終わってるブレダの身体にしか興味のない(もしくは、その性格をねじ曲げて絶対服従させるか)僕はもうひとつのルートを選択することに決心しました。僕自らネクロマンシーをするという択です。
「シーラに触発されて自分も(本来禁忌である)ネクロマンシーをしたい」とシーラとブレダに打ち明けました。あくまで善性であることを前面に出して。
シーラは正義心でネクロマンシーをしていつつ、「これは死を弄ぶ行為ではないか」という苦悩は常に付きまとっていました。(自身のの恩人である)僕のの提案であっても、他者がネクロマンシーをすることには最後まで反対しました。
「あなたはシャルルの決意を無駄にするのですか?」ブレダはシーラに異常なほど対抗心があったので、反動で側近である僕のネクロマンシー習得に賛成しました。
僕とブレダは今までシーラが中心になって解決してきた事件を教材にしながら2人でネクロマンシーを学び合いました。
……まあ、たしかにこの時間をブレダと過ごせたのは楽しかったです。正直に申します。
結局数日後、ブレダと僕は「失踪」してしまうのですがね。
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シーラは僕らがネクロマンシーを学んでいた事を唯一把握していたので、きっと死霊関係でなにかあったに違いないと、いくつかの不審死事件を捜査しました。
僕ははじめ数日間、シーラを監視しつつ逃げていたのですが、シーラを観察しているうちに、愉悦を思いついてしまいました。
僕は自分で評すのもおかしな感じですが、今まとは殺人に対するスタンスを変更したのです。殺人を楽しんでいたことは事実ですが、表面的な「所作」としては殺人行為は本当に作業的な所作で、高揚感は表に出さずただ内的な気分として楽しんでいました。しかし、内部だけにとどまらない破滅的な愉悦を思いついてしまったのです。
それが自分の身を滅ぼすとわかっていながら。
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余計な修飾をせずサラッと綴りますが、ブレダを僕は失踪のタイミングで殺しています。
シーラから盗んだネクロマンシーの技術を用いて、ブレダは表向き生きているように身体を動かして操っていました。
愉悦のために、僕らを探すシーラの視界に映るようブレダを操作しました。「生きているように」と言いましたが、同時にグレタの遺体は外から見て頭蓋が割れているのがわかる状態です。
ブレダの姿と損傷を視界に捉えたシーラは酷く動揺し、ショックを受けました。僕は見逃すことなく様子を観察しました。
シーラは何とか心を自制して逃げるグレタの屍を追います。行き着いた先で待ち構えていたのは僕は姿を表しました。
自分の恩人が「死霊グレタの主」として振舞っていることに、自制していたシーラの心はついに決壊して泣き叫び。咆哮をあげました。
非常に見応えのある情景です。
僕は、自分が病気で身体を壊してから心も壊れ、おかしな爆発の能力を手に入れて殺人に手を染めるまでの経緯を淡々と語りました。極力感情を込めないようかなり気を使いました。
……日本で死んで魔法世界に転生し、グレタの側近になったところまで語ったところで、口を閉じます。
「……それで?」シーラは光が消えた、生気のない目でちらっと僕を見た。とても僕を直視できなかったのでしょう。素晴らしい。
「今から1分間だけ、シーラ、君がなにをしても僕は抵抗しない」僕は言いました。「1分経ったら、この"美しい"ブレダとともに完全に行方をくらませる」
僕は説明した後、床から肉片を集め、ブレダの頭に移植させました。傷を治癒する必要があったのです。
シーラはずっと混乱した様子です。自分が今「どんな土地」にいるかも判断がついていませんでした。
僕たちがいるのは墓地です。
僕とブレダの2人で、……いや、シーラの死霊魔術を解析したという意味では「3人」で学んだ死霊魔術によって、他者の肉片を改変して死霊ブレダのキズを癒しました。「傷を癒す」……既に死んだ人間に使う表現として適切でしょうか。なんとも皮肉なものです。
シーラは1分中50数秒までずっと頭が混乱し、熱暴走を起こして何度も頭を掻きむしりました。
そして、最終的に魔法の杖を僕に向けました。
閃光は放たれた。
シーラは初めて自分の意思で人を殺しました。死人を操って記憶を抜き出すだけでなく、自ら奪うこともしてしまいました。
彼女は床にうずくまったあと、しばらく顔をあげることができません。
彼女に近づく物音が聞こえてきます。「もしかしたらランビエールの残滓によってまだブレダが動いているのかもしれない」などと思ったのかも。
シーラはブレダの今の状況が「自分を殺しにくるのか、それとも救いを求めているのか」分からない状況でしたが、どうにかしなければと思い、顔をあげた時、もうそこには誰もいません。
以来、ずっとブレダの遺体は行方不明のままです。
表向きは。
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「シャルル・ランビエールが死んだ? じゃあシャルルと名乗ってここまで語ったキミは誰?」と不思議でしょうか。僕は変わらず僕です。シャルル・ランビエール。悪友令嬢ブレダの側近だったランビエールです。
僕はシーラとブレダとともに「死霊魔術」を習っていただけではありません。僕が、人形師のもとに何度も通っていた話を覚えているでしょうか?
僕は「人間と一瞬見間違うかのような人形を作る魔法使い」である人形師から、ある禁術を聞き出しました。
聞き出していたというと生ぬるいですが、実際には彼の特殊な爆発魔法を用いた拷問だったかもしれません。
僕は、自分の記憶と同じコピーを人形に埋め込む術を会得しました。ある種の分身です。しかし、その分身は元の自分へは合流しません。つまり、ランビエールAが死ねばAはそのまま死ぬし、コピーしたBはコピーされて以降枝分かれして違う人生を歩むということです。
僕はコピーした自分の人格をブレダの遺体に植え付けました。……もっと正確に言うなら、オリジナルだった僕、ランビエール・Aはブレダの遺体に「今の僕」を植え付けました。
それでも僕(AもBも)は全然構いません。ランビ・A(肉体も僕のオリジナル)はしばらくの間、自分のコピーと言う最大の自分の理解者と生活したし、ランビ・B(グレタの身体の、コピーの方、そして今執筆している僕自身)も素晴らしい身体が得られたことが喜ばしい。
両者当然の合意です。"僕ら"は殺人を楽しむ一方で、「とんでもない悪人になってしまったな」という自覚もありました。しかし、懺悔するつもりは毛頭ありません。シーラが自分と同じ殺人に手を染める姿をみたいなと願いました。自分の命ひとつ分は差し出せるほどの喜びです。
「シーラに殺されるのも、それはそれで人生の終わりとして美しいな。その姿をブレダは見ていてよ」ランビ・Aは僕(グレタ=ランビ・B)に伝えました。
さて……以後、僕の行方は公的には一切不明のままです。どこかで殺人を楽しんでいるかもしれないし、女性の身体という新しい趣味で色々楽しんでいるのかもしれませんね。はたまたその両方か。もし、謎の爆発という現象が起きたら……どうでしょう。読者の方々は、僕を思い出すでしょうか。
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/翻訳家ルージュフイユによる補足
以上でシャルル・ランビエールによる殺人の記録は締めくくられた。
……のだが、ランビエールの事件自体はもう少し続く。ランビエールとシーラがどうなったか。「この記録になにか見落としはないか」次回、タツキ・ドラゴネッティにバトンタッチしてストーリーを進めよう。




