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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第3章】魔法使いたちの事件簿
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ギャラリーの中に数多の世界

 数年前は怪盗淑女として名を馳せたシャルロット・クルーガーは、すでに引退の身である。


 彼女の盗んだコレクションは大部分が(バイオレット・ガーベラ統治時代の)フィンア帝国が回収し、おおよそ元の持ち主へ返却された。しかし、一部はシャルロットに改めて譲渡された。彼女のカリスマ性に魅入られてワザと盗ませた人物もいて、当人は推しに貢ぐ気持ちで譲渡したのだ。また、いくつかの美術品は元々シャルロットが正当な所有権を有するとして彼女の元に戻った。


 その中でも一際大きな美術品が『シャルロット・ギャラリー』という2枚の大きな絵画である。この作品はシャルロットのコレクション、及びそれを展示したギャラリーの「空間そのもの」を描いていて、絵画の中の彼女のコレクションが何百点と描かれている。絵画の中に描かれた絵画のことを「絵中絵」といったりするが、『シャルロット・ギャラリー』はまさに絵中絵ジャンルのアートの中でもフィンア1の力作といえる。絵画は縦3m横5mほどの巨大サイズであり、絵画の中の絵画はほぼ原画の精巧な模写と言ってよかった。


「もしかしたら絵中絵が模写ではなく、原画(つまり盗品)がはめ込まれているかもしれない」という嫌疑がシャルロット逮捕直後にかけられていた。調査期間1年を有し、絵の中の絵は全て模写されたものだということが証明され、シャルロットの元に返された。


『シャルロット・ギャラリー』は2枚ある、と記した。これは片方が「盗品」のギャラリーで、もう片方がシャルロット自身の作品だったり正規に購入・譲渡されたコレクションのギャラリーであった。




   *      *




 ボクは科学世界の日本に亡命後、シャルロットと会う機会を得ることができた。彼女は表向きとある展覧会のスタッフとして働いており、ボクは客として展覧会に伺い、シャルロットに話しかけた。


「久しぶり。キミが展覧会にいると、またなにか盗もうとしてるんじゃあないかとヒヤヒヤしてるよ」ボクは開口一番皮肉を言った。


「あっはっは! まあ法が許すなら盗んでもいいが、ここは日本の法律を尊重しよう」シャルロットは大袈裟に返答した後、声をすぼめて僕に耳打ちした。「実際には逆さ、私の所有する作品を見て欲しくてね、タツキに」


「え、飾ってあるのかい?」


「ああ、残念ながら一般客は入れない別の会場に展示している。招待客はただ一人、タツキ、アナタだよ」


 そういうとシャルロットは関係者以外立ち入り禁止の立て札をどかして、ボクに素早くVIPカードを手渡し、先に進むよう促された。


「なんか、悪いことをしている気分だな。いいね」ボクはカードを手遊びしながらシャルロットに言った。


「あ、国家騎士だった人間がそんなこと言っていいんだ」シャルロット終始ニヤけながら道案内した。




   *      *




「……というわけで、これが私の所持する最大のアート、『シャルロット・ギャラリー』だ」シャルロットは冒頭の絵画の説明をボクにした。


「よくこんな大きなものを運び込めたな」


「それはフィンア国のブリザード騎士団長※が手配してくれた。これを直にアナタに見せたかったのにはわけがある」シャルロットは言った。


※『不良騎士たちの亡命』に登場


「わけとは?」


「アナタが執筆活動をやめてしまったことが、私にはすごく寂しいんだ。そりゃあ、亡命前後でとてもドタバタしていたし、ろう者であるというのもハンデだろう。けれど、この『シャルロット・ギャラリー』を機に、執筆活動を再開して欲しいんだ。アナタは今目を輝かせている。この絵の中に描かれた品々を一つ一つ私に聞きたくてたまらないってね。アナタが気になったアートを示してくれたら。隠すことなく解説してあげるから、それを是非記録して欲しいんだ」


「よく、それを理由にこのドでかい絵画を運んだなあ」ボクは少々呆れた様子で返事した。


「実を言うと、この絵画は私自身持て余している。かつてのように美術品の保全をする余力がある訳でもないのに、フィンア国のブリザードは『バイオレット城に盗人のギャラリーなぞ要らん』と言って私に送り返して来たんだ。私も手元に置いておくのは骨が折れるからどこかの美術館にでも寄付しようかと思ってるんだが、それはそれとして私の過去の活動をそのまま手放すのも惜しくてね。タツキが記録してくれるなら、それほど嬉しいことは他にない……」


 シャルロットは一旦ここで区切って、ボクが鑑賞していた1枚のギャラリー絵から、もう1枚の方を指さして視線誘導した。


「……私もタツキも同じ思想だと思うが、『ヤンキーが昔の万引きなどの犯罪を自慢げに話す』みたいなやんちゃ自慢は大嫌いだ。基本的には最初に示した『譲渡・購入したコレクション』の方の話題にしたいし、『もう一方のコレクション』に関しては、語りに関してはそこに感情を極力見せず、時に自省の心を持って綴って欲しい。タツキの書き方なら、できると思う」


 彼女の口車に乗って、この絵中絵を軸に、シャルロット・クルーガーの過去の活躍を綴っていこう。

「異世界転移」もしくは「ドッペルゲンガー」以外のシャルロットのエピソードはスピンオフ・別連載枠として公開する予定。

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