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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第1章】異世界転移の悪用:人攫い
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竜騎士 対 人工竜人 ③

 移動は多世界転移管理局の馬車――馬車と言っても、ペガサスによる飛行の移動なのだが――を用いた。


ボクは「(ワイバーンにまたがった方が竜と一体になれて、揺れを気にせずに済むんだけどな)」などと考えていた。そうして揺れを感じながら夢想しているうちにクヴァンツ王国の南方、ルイズ村に到着した。


 村に子供や(非戦闘員の)女性の姿は見当たらない。竜人の事件で村全体に厳戒態勢が敷かれ、自警団や筋骨隆々な男女が辺りを見回していた。


「多世界転移管理局の方々ですね!」村の自警団の1人がボクたちをレオン家の家に案内した。


「見たところ、中流階級の家って感じだな。ちょっと狭いけど」ルージュはかなり立派な家に住んでいるので、レオン家の住まいを厳しめに評価した。


 雨漏りしている平屋のボクの家の評価は……聞かないことにしよう。


「特に竜に関するシンボルや武具は見当たらないな」ボクは抱えた槍で肩を叩きながら、リビングに飾られた夫婦の写真などを眺めた。ごく一般的な家庭、という印象である。


「しっ、今、聴こえたか?」ルージュは人差し指を口に当て、目配せした。


 ボクは耳上につけた竜皮のアクセサリーを抑えた。これは竜の探索に役立つ。「確かに、感知した」


「なんか、床下から獣のような声が……まさか? タツキ、槍を何時でも構えられるように」


「地下にいるのは純正のドラゴンじゃあないね」ボクはルージュに伝えた「それだったらとっくに気づけている。"竜人"ユリア氏なら、……つまり人工的な竜属性なら……、反応の鈍さにも納得がいくがどうだろうか」


 ボクたちは地下に続く隠し扉を探しはじめた。






 程なくして見つかった。ソファ横のカーペットの下、捲ると魔法陣が描かれている。


「随分隠蔽が"ザル"だな。辺境の村では大それて隠す必要がないと踏んだか、トラップか」ルージュは魔道書を取り出して数枚ページを破り、魔法陣の上にばらまいた。


 瞬間、切り離した数ページに、床から生えてきた触手のツタが群がり、巻きついて床底に消えていった。


 ルージュは大袈裟に両手を天秤に見立てて上下させた。「主人ドム・レオン氏が加害者か被害者か判断を保留していたが、天秤が傾いてきたね」






「竜騎士の戦い方的に、地上や空中はありがたいんだけど、地下はあまり特性を生かせないね」 ボクはトラップを破壊して、ルージュと共に地下への階段を降りていった。


 段々と獣の鳴き声が大きくなっていく。それも2~3頭ではなさそうだ。


 地下部屋に辿り着くと、檻には何頭もの"合成されたキメラ"と、左右に大きな魔法陣が2陣描かれていた。


「竜人ユリア夫人は見当たらないな。代わりにいるのは哺乳類と竜のキメラか。そのまま竜として生きていた方が強く、気高かかっただろうに」ルージュは檻の中にいる1頭の竜がほかのキメラと違って老病なことに気づき、不思議そうにしていた。「? この1頭、なにか違和感あるな……」


 ボクはそちらのキメラよりも、魔法陣を眺めていた。2つの魔法陣を壊したくてたまらなくなった。


「……タツキ! 君がこの『異世界転移』と『合成』の魔法陣を"気に入らない"のはわかるが、今は多世界転移管理局としての仕事なんだ。物的証拠品をむやみに破壊しないでくれ」


「バレた?」ボクは笑って返答した。後日ルージュの語るところによると、ボクの目は全く笑っていなかった。


「ああ、顔色が冷ややかで、槍を握りしめてたからな」


 ルージュたちが学生時代の頃に、魔法大学全体の大スキャンダルとなる事件が起こり、ボクは完全に巻き込まれた形でこの世界に来た。だからその時扱われた魔法陣をみるとまず「壊したい」となるのだが、多世界転移管理局に出向するのならこの魔法陣に慣れないといけないね。


 ルージュは魔法陣や檻に入れられたキメラなどを眺めて歩きはじめた。「まあ、『ユリア夫人が病死して、並行世界の夫人が連れて来られた』という見立てはほぼ正しいだろうね。竜人化させられた……のも多分合っているだろう。問題点は2つ、

①ドム氏はなんのためにキメラを作った?

②『ユリア夫人の意思』で殺人が行われたか、または『竜の意思』だったか。今の竜人の自我はどうなっているか」


 ボクはキメラ合成の魔法陣に描かれた『タツノオトシゴ』と、同じ意匠が槍の持ち手に施されているのを見比べた。


 東洋の"龍"が由来のドラゴンを扱う場合、タツノオトシゴが意匠に使われるのだが、ユリア夫人に合体させられたドラゴンが龍となると、少し違和感がある。


ボクはルージュに知見を述べた。「食用として人間を食べる種のドラゴンは、ハント対象になりやすい反面、人間や他の動物とコミュニケーションをとるような”思考”をそもそも持ち合わせていないことが多い。キメラ化した生物の自己認識の混乱はより顕著だろう」


「そのドラゴン種は、ドランシンキ・ドラゴンとルーン・ホーン?」ルージュは所持していた『クヴァンツ王国魔獣図鑑』をボクに見せ、しばらく話し込んだ。


 資料を2人で眺めていると、いきなり落雷のような音が上方から響いてきた。「おい! 今の音はなんだ!?」ルージュは叫んだ。


 直後、ボクの持つ槍に描かれた"タツノオトシゴ"のデザインが発光した。「ドラゴンの魔力に共鳴して光るんだ」ボクはルージュに教えたあとすぐに、地上への階段に足を伸ばし駆け上がっていった。


「タツキ!」ルージュが呼びかけながら本棚を指差す。「俺はもう少しこの工房を調べる。そっちは任せていいか?」


「そのために竜騎士を出向させたんだろ? ボクの仕事をさせてくれ」

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