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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第3章】魔法使いたちの事件簿
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ぬいぐるみから滴る血 ②

「数日後、サエは"クマ"の形をした鞄を背負って、池袋に来た。『今日待ち合わせてた人はどこにいるかな』新しい獲物探しだ。駅の改札口を出たところで待っていると、マッチングアプリの顔写真で見かけた相手がやってきた」


「『お待たせしました! 到着早いね』相手の男は言った」


「『えへ、ハルさんと会うの楽しみだったから』サエは返答した」


 ボクはハロルドに確認した。「そのハルって、ハロルド、君の愛称だろ?」


「そうだよ。ま、しばらくは私がどこまで物事を把握していたかは秘密にして話を進めよう」ハロルドは鞄の絵をボクに書いて見せた。鞄は60cmほどのクマのぬいぐるみの形状をしていた。「地雷系のロリータ趣味を取り入れたトー横系ファッションらしい……って言ってわかる?」


 ボクは異世界に転移する前の新宿を思い出した。「知ったのはフィンア(魔法世界の一国)からこの科学世界に戻ってきてからだけどね」


 ハロルドは池袋での話に場面を戻した。「サエという人物は私に会った時こう思ったらしい……『早くこのリュックのクマに"食べられてるところ"が見たいなあ。途中でクマのチャックを開けると身体がぬいぐるみに変わって行くところが見れるんだ』……てね。こいつは人間をクマのぬいぐるみに返信させる魔道具だよ」


「私はサエに会った時この鞄をジロジロと観察した。不意打ちでクマに食われないよう注意しなくちゃいけないからね」


「『ど、どうしたの? ハルさん』サエは言った」


「『いや、可愛いぬいぐるみだなあと思って』私はマッチングアプリでサエと連絡を取っていた。そこではぬいぐるみ収集を趣味という"設定"にしていたんで、事前にお互いコレクションを見せあったりした」


「『え。あ、うん! そうでしょ!』サエは加虐心を抑えて私と受け答えを続けた」


「『どこのブランド?』」


「『ブランド!? えっと……。自作! 自分で作ったの!』サエは口からでまかせを増やしていく」


「『へえ! これも自分で作ったんだ。すごいなあ。私は基本集めるだけだし、手先がそんなに器用じゃないから。憧れちゃうよ』こんな風に私も適当に話を合わせたが、実際の鞄の出処は既に突き止めていた。魔法の管理局パラレルエージェント)としてね」


「サエはフリーマーケットで買っていた。売主に『人間を人形に変えられる道具』と言われ、目の前で実演したようだ。魔法を信じてない生活をしていたら、99%手品だと思うのが普通だろうけど、サエはその鞄に魅了されて購入した」


「『ハルさん、早く映画を観に行こうか。その後の食事はイタリアンだよ』彼女は積極にボディタッチをして移動を促した」


「『やったー楽しみ! 女性の方から決めてくれるなんて、ほんと珍しいよ……』私はサエの気を引くように可愛い系男子で潜入したけど、改めて振り返ると恥ずかしいな」




「イタリアンレストランでメニューを開いたタイミングで、私は下戸で酒が飲めないことをサエに伝えた。実際は飲めるが、彼女が被害者を酔わせて判断力を鈍らせた状態で鞄に被害者を詰めることを知っていたので、それを避けるためだ」


「『お酒。飲めないの!?』サエはレストランで大きい声をあげてしまい、数人に振り向かれたので、縮こまって頭を抱えた」


「『ごめん、事前にチャットで伝えておくべきだったねえ』私は申し訳無さそうに、しかしそこまで悪気を感じてない素振りで返答した」


「注文を済ませ、パスタを食べている間、彼女はおおよそこんな風に思考を巡らせた。『(事前にアプリで聞いておくんだった! 今回は諦める? でも好みの顔がぬいぐるみに変わってく瞬間がほんとに最高なんだ。逃したらいつ次があるか)』そして彼女はいつもとは違う行動を起こすことにした。『ねえ、そろそろお店出ない? もうちょっと静かな空間で、二人きりでおしゃべりしたいな……なんて』どうやらこの段階ではホテルに連れ込んで、"行為"で私が気の抜けた瞬間を狙おうとしたようだ」


「『そうだね、じゃあ、会計しようか。私が出すよ!』私は可愛い系えお装ったが、ここは男が出すというテンプレートで動いた」


「『やったーありがとっ』」




   *      *




「さて、ホテルに連れ込もうと思っていたサエだが、レストランを出てしばらく歩いて気づく。『(あ……よくよく考えたら、男女2人でホテルに入って、帰りが女性1人だと怪しまれる? 今まで酔っ払わせた後監視カメラとか設置されてない公園まで肩を担いで歩いてたから盲点だった!)』」


「『どうしたの?』私はサエの行動を変わらず注視していた」


「『……その、ホテルじゃなくて、そ、その、公園でおしゃべりしない?』」


「『え、あー、うん。いいけど』私は近くの公園がカップルが外でイチャコラするのに使われていることを知っていたので、ニヤニヤしてそれを楽しみにしてる風を装った。一瞬、サエがキレた表情をしたのが向かいのガラス張りの建物に反射で移り確認できた。外プレイを趣味と思われたことが気に食わなかったようだ」




「『こうやって、夜風にあたってベンチに座るのもいいものだ』私は変わらずニヤニヤしてサエの方を見た。『でも、君にそんな趣味があるだなんて意外だなあ』」


「『え、あ、うん……』彼女の思案はこんな感じだ。『(どうしよう。この公園、ベンチの距離遠くてカップル同士のプレイは見えにくいし、あんまり他の人は来ないし……普段優男を鞄に詰める"お楽しみ"の場所にしてるんだけど……ここで交わる方のプレイもしちゃう? でも、相手が優男でもシラフで正面からクマの口を被せられるかな)』数十秒モジモジした後、意を決して『じゃ、じゃあ』サヤは覚悟を決めて立ち上がった。『(ベンチの後ろから耳元で囁いて、ちょっと胸やアソコを抱きつきながら摩ってやればペースはこちらのもの!)』

「『うん』私はサヤと同じタイミングで立ち上がって、正面で腕を広げた。背後を取られる訳には行かなかったからね」


「……タツキ」ハロルドは語りを中断してボクに聞いてきた。「ここら辺の描写はぼかすか……」


「え、いやいや。とんでもない!」僕は続けるよう促した。「そこが山場じゃあないか。もちろんキミ自身が嫌なら飛ばすが、ボクは全然楽しめるぞ。多少のキミの恥らいもいいエッセンスだし、じゃんじゃん語ってくれ」


「で、では」ハロルドは咳払いをして場面を戻した。


「『う……うん』サエはしおらしい態度を演じたが、逸らした顔の口元は不平で歪んでいるようだった。『(クソ、いいよここは抱かれてやるわ!)』」


「私はサヤの顎を持って、少し上を向かせた。しばらく唇を合わせた後、私はサヤの背負ってたリュックを外した。『(勝手に外さないでよ!)』とでも言いたげだったな。だんだん表情を隠すのが下手になっていってた」


「『あ、あの……』サヤは恥ずかしい素振りをみせた後、外された鞄を私の手からサッと奪った。『ゴム、持ち歩いてるの。ちょっと待って……』」


「サヤは一旦私から後ろを向いて、カバンのチャックを開けた。中身からゴムを取り出すフリをした。『(こうなったら後ろから抱きついてゴムをつけてる間に食わせよう)』などと考えていた」


「サヤは私に向かい合って言った。『実は、後ろから抱きつくの好きなの、私。好きな人の背中の温もり、感じたいな』」


「『え? あー、うん』私は直前までノリノリを演じたけど、こうなるともう取り繕えないなと頭を搔いて視線を逸らした。『……はあ、仕方ない』実は私はずっと耳にピアスに似せたイヤホンをしていた。実は後方で私とサエの同行を確認しているエージェントがいて、その人物に指示を仰いだ。その指示に私は納得できなかったが、ここで口論するわけにも行かず実行に移した」


「『え!?』サエは驚きの声をあげた」


「私ははいきなりサエの両肩を掴むと、そのまま後方のベンチに押し倒した」


「サエは抵抗して異を唱える。だんだんと口が悪くなっていった。『な、ちょっと、痛いわよ! 無理矢理は好きじゃない!……お前性欲猿か? さっさとぬいぐるみにしておしおきしないと……』


「『……えー、まじで言ってます? 先輩』私も取り繕う必要が無くなったので、普通に発声してエージェントの上司の指示に不満を洩らした」


「『……先輩?』サエはこの時、私のの耳を覆っていた髪の隙間から、無線のイヤホンに気づいたようだ」

 

「しかし、その意味に気づく前に、サエは絶叫した。ねえタツキ、正直、もう少しサエを逮捕するのにマシな手段はあったと思うんだけどね。ルージュならこんな手段は取らなかっただろう」


 ハロルドはやれやれと言って一息ついた。


「私はクマの形の鞄を、彼女に襲いかかった動作に隠れて奪っていた。ミスディレクションというやつだね。サエに馬乗りになって、鞄のチャックの空いた口をサエの顔に覆い被せた」


「『え? うそ、嘘嘘嘘嘘!! やめて!! 誰か!! 犯される! レ⚪︎プ魔に犯される!!!』彼女は嘘を交えながら必死に叫んで助けを求めた』」


「『人聞きが悪いな。何人も犯して殺してるのはお前だろ。サイコパスの殺人鬼』彼女自身をぬいぐるみ化して捉えることに後ろ向きだったが、レ〇プ魔と言われたことでその引け目は無くなり、サエを鞄に詰め込んだ」


「え? あ――」


 サエは、鞄の中に飲み込まれていった。

③へ続く。

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