ぬいぐるみから滴る血 ①
登場人物
レギュラー:
タツキ・ドラゴネッティ - 語り手、聞き手、ろう者
ハロルド・バルト - もう1人の語り手、本短編主人公、魔法犯罪の捜査官
ゲスト:
サエ - 魔道具を偶然手にしてしまった地雷系女性
魔女 - 魔道具の製作者
ボクはホラーが苦手だ。今まで執筆した事件を振り返ると嘘だと思うかもしれないが、あれらはボク自身が書ける内容を取捨選択した上での内容である。それに、ボクは書き手モードと読者モードで好みにズレがあり、許容できるジャンルにも違いがでてくる。
なので、友人のハロルド・バルトが巻き込まれた今から綴る事件は、彼自身の言は彼に代筆してもらって、何とか文章を完成させようと思う。
尚、既にボク(タツキ・ドラゴネッティ)とルージュ・フイユはクヴァンツ王国から亡命した後の事件であるため、未だクヴァンツの民であるハロルドといつ会合したかというのは不明瞭にさせていただく。
* *
「久しぶり」
ハロルドとボクは某所で1年振りの再会を果たした。しばらくはお互いの近況報告であったが、ハロルドがいくつか管理局であるかった魔法事件について語ってくれた。その中でも、ボク自身は話の持ちネタにしたがらない「ぬいぐるみ」に関する事件をひとつとりあげよう。
「単純に私が捜査した時系列で伝えることもできるけれど、今回の犯人は動画撮影が趣味で、犯行現場を録画していた。どうせなら、そこの場面も汲み取ってストーリー仕立てに語ろう」ハロルドは演技がかった手話で回想をはじめた。
「まずは被害者が巻き込まれてから事切れるまでの場面。科学世界の日本で起きたことだ。
『ここ、どこ?』ある男(被害者)は目覚めると、スーパーのキッズスペースを思わせるようなファンシーな部屋に座っていた。『昨日、飲み会でマッチングアプリで出会った女の子とお酒を飲んで、そこからの記憶が――』そう独りごち、自分の頭を書こうとして気づく。指が動かない」
「――語弊がある。そもそも指がない。腕が布製のナニカに変わってしまっていた。『えっ何!? 腕が、毛布……あ、脚も。違う、全身が……』当たりを見回すと、奥に鏡が置いてあった。急いで駆け寄る。鏡にはクマのぬいぐるみが映っていた。『なんで、着せられてるのか!? チャックはどこだ』」
「身体のどこを探ってもジッパーや穴が見当たらない。それよりも男を恐怖させたのは、自分の手の平がぬいぐるみの身体に触れると、触れた部位の感触がある事だ。頭、首、腹。『(う、うそだ。夢だ。悪い夢を見ているんだ)』」
「どこからか女性の声が響く。『クマちゃん~。目が覚めたみたいね』部屋全体から声が響く。天井がガサゴソと音を立てると、だんだんと天井が剥がされていった」
「ぬいぐるみにされてしまった男から見れば、巨大な女が天井の屋根を剥がして、片手で持っているように見えた。まさに巨人。実際にはぬいぐるみサイズに男が小さくなっている」
「『ねえみて、クマちゃんに似合う衣装を作ってみたの』ツインテールにピンク髪の女性は、裁縫セットから針と糸を取り出して右手で持ち、左手でクマを持ち上げた」
「ここで男は女性が誰であったか気づく。『ね、ねえ。君昨日マッチングアプリであったサエちゃんでしょ!? 俺、ショウマだよ! ねえ、わかる?』」
「『うるさいなあ。ぬいぐるみは喋らないんだよ!』サエという女性は針をぬいぐるみの口部分に刺して、口を開かないように縫い付けはじめた」
「『んんんんん!!○×△□!!(痛い痛い痛い痛い!!!! 痛覚が、痛覚があるんだ)』口部分を縫われていたの上手く発声できていなかったが、おおよそこう発言した」
「ぬいぐるみから血が滴るが、サエは『口からトマトジュースこぼして、悪いクマさんだなあ』と言ってファンシーに例えた。一旦サエはクマを机に置いて、クマと同じサイズの衣装を取り出した。『そうだ。服が脱げないようにぬいぐるみの肌に縫いつけないとね』」
「ショウマという被害者の男は全力で逃げたが、ままごとで使うおもちゃの一軒家サイズの中逃げ回ったところで逃れることは出来ない」
「『あ、ぬいぐるみが動き回っちゃダメでしょ!』サエはクマを掴むと、針を腕に通して貫通させて、針刺しにそのまま突き立てた」
「『嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ夢だ覚めて痛い痛い痛い痛い嫌だ』ぬいぐるみはのたうち回った」
「『じゃあ、服縫い付けて行くね』サエはクマの前に立って針を通そうとすると、隣の机の箱から別のクマが脱走してきた。『……ハア。逃げちゃダメって言ったよね?』被害者はショウマだけでなく、複数人いたのだ」
「サエは脱走したクマを掴むと、目玉にまち針を両方刺して、グリグリしだした。『あぎゃあああああああああああ』2体目のぬいぐるみが絶叫した」
「サエは恍惚とした表情を浮かべてクマを眺めると、そのまま針を後頭部まで一気に貫通させた。クマはぐったりとして、ぴくりとも動かなくなってしまった。『ああ、気持ちいい。最後の断末魔がすっごく可愛い。ふ、へ、へへ』と独りごちた。数分間その高揚感に浸った後、すでに事切れたクマへの関心を失ってポイっと脱走した箱に戻した」
「『ごめんねえ、邪魔が入っちゃった。新しいクマちゃん、おめかししましょーねー?』サエは言った通り縫い付けて、クマをじっと観察して悦に浸った。この夜は2人の命が犠牲になった」
②へ続く




