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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第3章】魔法使いたちの事件簿
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女装男子とVR ②

 翌日、喫茶店でルージュ・フイユにVRデートの出来事を話した。


「手話者のライオネット……どこかで聞いたことがあるな」


 ルージュはタブレットで記事を検索してボクにみせてきた。「このTSで女性試合に出場して物議を醸したライオネットという選手なんだけど、俺は"彼"の身のこなしからどことなく手話が散見されたのが気になって覚えていたんだ。ああ、ちなみに言うと健聴者で、親族や親しい友人にろう者・難聴者もいないみたいね」


「……なんか、キモイね」ボクは率直に罵倒した。


「ああ、変なやつだよな」ルージュは記事に添付されていた記者会見の動画を再生した。その動画にどことなく違和感があったが、この時点では違和感に気づけなかった。


「どうせならボブスレーやればいいのになー」ルージュは唐突にボブスレーの話題を出した。


「なんで急にボブスレー?」


「いやね、こっちの世界で知り合った友人が、ボブスレー、つまり氷上の橇版のF1レースに出たいって言ってるんだが、メンバー4人集めるのが難しいといっていてね」


 ボブスレーは4人乗りが1番オーソドックスな競技形式だ。そして冬の競技で、夏は陸上競技と兼業する選手も少なくない。


「チームボブスレーは男女関係ないし、どうせTJで活躍するならそっちの方が映えるねって」ルージュは言った。


「TJで無双する選手は無双できることに喜びを感じてるチーターだろ? そんなこと言っても無意味だって」ボクはルージュの言ったことに反対した。「はあ、ボブスレーに近い競技にリュージュがあるだろ。あれで活躍したカミーユには風上にもおけない……」


 ボクは『サンドイッチ・リュージュ』の事件を回想した時、先程の動画の違和感を思い出し……ここには書けない暴言、悪態を喚き散らした。あまりの姿にルージュは目を丸くしてなだめた。


「お、おい……どうした?」


「あのクズ野郎、ボクを……ろう者をコケにしやがって……許せねえ。ちょっと待っててくれないかルージュ。今からピエレッタを呼んですぐあのVR遊園地にログインする」




   *      *




 察しのいい読者なら、もう昨日何が起きたのか勘づいているだろう。そして、ボクは似たようなことをしていたが真摯に生きるために誠実だったオーガスタスとカミーユへの尊敬の念が増すばかりだった。


「このレイって男がライオネット……クズのライオネル本人だな」


 昨日のVR活動のアーカイブを見直して、ルージュとピエレッタにレイの立ち振る舞いを見直して貰った。変声機を使っているが、身のこなしや口調の癖がライオネルと同一だった。


「声の判別ができない分判別に遅れた! アイツをどう懲らしめてやろうか」ボクはVR上に出したオブジェクトをやたらめったに切り刻んでいた。


「そうは言ってももう管理局の局員じゃないからなー俺たち。捕らえて牢屋にぶち込むってことも出来ないし」ルージュはちょっと考えた後、ボクとピエレッタに確認した。「ライオネルは一人二役をすることで、男性レイとしてタツキに近づいて、軟派しようとしたってことだろ? 悪者から庇う振りして、悪者が実は仲間ってのはナンパでもたまにやるやつがいる手段だ。で、VR上でそれをやったって事は、タツキがログインしてる今向こうからこちらに近づいて来ると思っていいのかな」


「そうだろうね」ピエレッタは頷く。「偶然を装って話しかけて、親しくなっていく予定だったんだろ」


「あーあ、アイツがあからさまに魔法犯罪に関わってれば管理局のハロルドに押し付けるのに! VR上の法整備判別進んでないのか!?」


「まあ、現状ライオネルを罰することは出来ないね。垢BANなら場合によってはくらい」ピエレッタが言ったところで、思い出したように付け加えた。「このライオネルってやつ、競技中は化粧薄くて男が女装してるようにしか見えないが、オフのガチ女装はかなり女に見えるな? だから手話を使って声でバレないようにしたのだろうけど……」


「つまり?」ボクは急かした。


「タツキ、キミは覚えているだろ? ルージュは休職中で知らない人だと思うのだが……いや、人というか半人半魔なんだが、知り合いにユィーリンという妖狐がいてね。彼女、両刀使いで男子を"教育"するのも大好きなやつなんだが……」


「ああ、ユィーリンか……そいつはいいアイディアだ。ライオネルにユィーリンを紹介してやろう」




 この後の出来事の詳細は省くが、簡易的に綴ろう。

、――と言っても、成人向け同人誌うってつけの内容だと思うので、メディアをかえて番外編として記録するかもしれない――、


 レイと2度目に会った時は、使い捨てのフリーメールを交換して(しかもボクではなくルージュのを)お開きにした。3度目はユィーリンを連れてレイ(ライオネル)に紹介したが、彼女が積極的でしかもリアル世界のカメラをすぐに映して誘惑したので、まんまとライオネルは釣られてた。ボクのことなんかどうでもよくなって妖狐ユィーリンになびいた。


 以来、1年間彼を見ることはなかった。陸上競技界でも急な失踪で一時期ざわついたが、すぐにほとぼりは冷めた。


 1年後、彼は……今度こそ彼女は、全く容姿をユィーリンによって改造され、身も心も堕ちた状態で発見された。陸上選手だったポテンシャルを買われてルージュの友人のボブスレーの試合に人数合わせで参加させられていた。女性ホルモン剤ですっかり筋肉より脂肪が優先され、特に1年間トレーニングもなかったが、"飼い主"のユィーリンがボブスレー大会に出ることすら「プレイの一環」として出場させたことで再びメディアの目にとまることになった。


 メディアの前で起きたことはこの掲載誌に載せられることでは無いのでぼかすが、以後再びライオネルが競技の世界に出てくることはなかった。時折、ユィーリンからボクに頼んでもいないのにペットの飼育状況が報告されて来る。


 エピソード冒頭にも書いたように、妖狐ユィーリン視点の物語がどこかで公開されているかもしれない。ひとまずボク自身の関わった事件としては、以上で終いである。

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