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不良騎士たちの亡命 ①

語り手:不明。三人称で記述されている。



 タツキ・ドラゴネッティがこの魔法世界に転移してきてから8年、全体を通して評すれば、この世界は比較的平和な時代だった。


 たしかに、フィンア帝国の政府は一度滅び、その過程で虐殺があった。彫刻祭の裏では沢山の人間が変態的欲求の犠牲となった。ドランシンキ国ではそのフィンア侵攻を企てた魔法使いをすんでで食い止められたりしたが、あれは言い換えればテロ未遂だ。村レベルでは村民が全滅になる悪事も起こった。


 しかし、表立った内紛や国同士というのはタツキが転移してくる数十年前から、この冬の凍てつく時期まで起きなかったのだ。タツキがフィンア帝国のバイオレットの配下騎士団長になっていた時期に、フィンア帝国は「フィンア国」となり、永世中立国宣言をしていた。



 タツキは騎士団長まで経験していながらも、騎士道精神という尺度で考えらば、ついに不良騎士というレッテルは撤回されないまま団長の座を譲り別の活動、――一時期のフリーランスの護衛や狩人、ある種の探偵業に精を出すこと――、を行っていた。


 そんな元団長の活動を、やれやれといった様子で現団長のブリザードは苦言を呈していた。


「全くあのお方は騎士の風上にも置けない。皆も彼女を騎士として見習うことはしないように」これはバイオレット城騎士団をまとめる際ブリザードが時折口にした言葉だ。


 その発言を部下の騎士は表向き真面目な態度で聞いていたが、実の所おおよその騎士はタツキの働きぶりと「君主バイオレットの良き友人」としての姿を知っていたので、「相変わらず現団長はお堅いな」というのが団員の感想だった。もちろん、それは批判的な意味ではなく、現団長の個性であり、今の騎士団にはそれが求められていると把握した上での所感である。






 団長が2代目に継がれてから1年後。


 なにか予兆があった。動乱の予兆だ。具体的に特定の引き金が、と語ることは難しい。ただ、普段世情を追わないフィンア国の人間にさえ、フィンアから北西に位置したエルフとオークそれぞれの国の動向が「なにかおかしい、穏やかでない」と思い始めていた。


 ……そしてもう1年。




   *      *




 オークの国とエルフの国が一触即発状況に陥った。世界は今新たな戦争に向けて各々緊張感を持って動向を観察した。


 両国に対して何度も話し合いを促し、場所の提供を行ってきたのは半人半魔連盟だった。ハーフエルフのグレンはこの会議の最初期メンバーであったが、彼女自身が不祥事を起こし、すぐにほかの連盟員が補充された。


 しかし、半人半魔連盟は撤退することになった。一番の理由は、エルフとオークの間に生まれ「2種族は手を取り合えるはずだ」と訴えた妖精が殺害されたからだ。この出来事は半人半魔連盟を諦めさせた。

(そもそも各種族のコミュニティへの不満が生み出した連盟であっただけに、建前上白羽の矢が立ったが、実際には国へ白けた態度をとるメンバーが多かった)

 戦争は決定的となった。


 数日後、宣戦布告が両国からなされた。




   *      *




 帝国の名を破棄し永世中立を掲げるフィンア国に、オークかエルフどちらかの国につけと両国から迫られるが、バイオレットはこれを拒否。永世中立国として振る舞い続けることを宣言した。バイオレットは現団長のブリザードと共に、民主の前に立って淡々と決意表明した。動乱の時、バイオレットが感情的にならずあくまで事務的な態度をとることを、民衆は彼女を「魔王」と呼んでいた頃からずっと知っていた。前団長であるタツキはバイオレットと共に淡々と業務をこなしたが、現団長はもう少し声を張り上げ、民衆に感情的な面で主張を通すような振る舞いをした。






 翌日、クヴァンツ王国がエルフにつくことに決めフィンア国を裏切り襲撃した。飛行型魔獣をバイオレット城やフィンア全土に放った。




   *      *




「我々騎士団は何時でも戦闘の用意ができています。バイオレット様を全力でお守り致します」騎士団長は深々と礼をして、バイオレットの前で膝をついた。


「あなたといるとどうにも遊びがなくて硬いね。まあ、それが今は大事なのでしょう」バイオレットは決起用の剣を団長ブリザードに捧げた。


 ブリザードは立ち上がり、剣を振り上げて騎士団員を鼓舞した。




 この時のバイオレットの心はどこへ。「クヴァンツの裏切りか……多世界転移管理局や、ルージュはどうなることか……」




   *      *




 タツキ・ドラゴネッティはドランシンキ国に拠点を構える半人半魔連盟に別れを告げた。


「わざわざ危険な地に行くのか? タツキ」烏天狗のサラは最後まで反対したが、タツキを止めることはできなかった。


「今順番としてフィンア国が的になってるだけだ。そもそも本命のオークとエルフの国はドランシンキだって隣接してるんだ。そのうち此処にも来るよ。それに、ボクはバイオレットをここで見捨てるような薄情な人間ではないからね」


「元騎士団長として?」烏天狗は竜騎士に就いたばかりの頃のタツキを思い出した。


「ははは。そんなまさか。ボクが不良騎士であることは君もよく知ってるだろ? ボクはただ友人のために向かうのさ」


 タツキは話題に出さなかったが、きっとルージュもフィンアに向かっているだろうと思った。宣戦布告が起きてから連絡がつかない。表情に極力出さないようにしていたが、内心気が気ではなかった。






 フィンア国境で、タツキのことをシャルロット・クルーガーが出迎えた。バイオレットの特例命令でシャルロットに対する施設監視は解かれていた。さらにタツキを迎えに行くよう指示されたのだ。「きっとタツキが来る頃だろうと思っていたよ。地上を通るより、いくつか古代の遺跡の隠し通路を通って、バイオレット城があるバーデン・ルコピック山に向かおう」


「……君が怪盗だった時お世話になった地下通路だね?  全く、それが今はボクを助けるために使われるなんてね」


 隠し通路の端から端までシャルロットはタツキを案内した。「私の役目はここまでだ。魔獣戦闘や兵隊としての訓練など私は何も受けていないから、ついて行っても足でまといになるだけだろう。健闘を祈る。生きて帰ってきなよ。カード相手が減るのはごめんだ」




 タツキを見送って数時間後、シャルロットは相変わらず隠し通路で周囲を警戒していた。後見人として見守っていた結城真尋が息を切らしてシャルロットのところへやってきた。


「クヴァンツ方面の隠し通路の監視をしていたのでは?」シャルロットは質問した。


「ええ、確かに。兄弟は引き続き監視していますが、ルージュ・フイユが通路の奥からやってきて、自己判断で通しました。報告が必要なイレギュラーで、しかしシャルロットがそこにいても同じことをしたはずです」


「そうか。わかった」

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