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【スピンオフ】Vtuber3人 ①

   語り:ハロルド・バルト




 タツキは登場しないため、番外編となるだろう。例の半人半魔連盟で起きたタロットカードの事件から1年後、タツキ・ドラゴネッティから逃げた妖狐や異世界に転移されたゾンビなど本筋から外れた管理局の仕事はどうなったのかと聞かれた。この時、たまたま私と一緒に行動していたセーラー服を着こなす男子の『西園アキラ』という人物とともにこの妖狐と吸血鬼の顛末を伝えた。話を聞いたタツキから後日文章化して送付して欲しいという依頼が来たため、経緯をここに綴る。


 前話で別の世界へ旅立った妖狐ユィーリン、投獄されたのに脱走した吸血鬼、Vtuberとして活動をはじめたピエレッタグノーの「Vtuber3人」が織り成す事件・冒険劇はここまで読んできた読者はきっと気になると思う。




   *      *




  /女騎士、船乗り、妖狐



 世間は、――特にフィンア国では――、半人半魔連盟で起こった殺人事件が解決されある程度の仕切りがついたが、私が所属する多世界転移管理局は吸血鬼の残党のゾンビ対処や妖狐の調査のため、むしろこの年で一番の多忙時期であった。


 妖狐の調査をはじめたが、表向き彼女は落ち着いた生活をしていた。PCという電気で動く機械を用いて何度も遠方と通信を図っていたが、この魔法世界にはない娯楽・慣習に入り浸ってるようだった。


 時を同じくして、ピエレッタ・グノー、――(タツキが記録してきた物語ではグノーは2人いるが)科学世界出身の方だ――、が怪しい人物がいるから調査して欲しいと管理局へ一報を入れてきた。その怪しい人物は、こちらの監視対象と同じ、妖狐ユィーリンだった。


「最近リリースされた3Dで遊ぶテーブルゲームで見つけたんですよ」グノーは私に自身がVtuberになった経緯と、妖狐ユィーリンを発見するまでの経緯を教えてくれた。「私はあの『石化の怪物』事件(※)以降、もう一人のピエレッタと住む世界の交換を終わらせて、お互いもとの世界で生活をはじめました」


※『他称魔王とルージュ』参照


「私がこの世界に戻っても、元通りの生活になる訳ありませんでした。それはこの車椅子を見ていただければ分かりますよね?  もう一人の私がVR空間で活動するタレント業を行っていたのを見て、近しいことをしようと思ったんです。Vtuberになりました。VR空間では足の操作をコントローラーで出来ますし、自宅からPCを通して世界に活動を発信できるのは都合が良かったんです。活動にあたってのロールプレイの設定は『女騎士』名前は『シュバリエ・ペトラ』にしました。女騎士なのは、自分がフェンシング選手だった経歴があるのと、タツキ・ドラゴネッティの活躍の影響です。名前のペトラはピエレッタと語源が同じで、騎士の階級名である『シュバリエ』とより語感がよく、かつ本名では無い活動名を考えた結果です」


「車椅子ユーザ系のVtuberとしてしばらく活動していました。警戒心を忘れずに……。というのも、以前VR空間内で起きた事件や、世界線横断誘拐を経験した私にとって、魔法系Vtuber、異世界系Vtuberと無防備にコラボするのは良くないと思ったのです。稀にロールプレイではなく"本物"が混じってる可能性がありますから。それで、ルージュ・フイユ氏が相談に乗ってくれて『魔力探査機』を譲って頂けることになりました。これでコラボ相手が魔力持ちかを判断できるのです。もちろん、異世界と関係ない人物でもたまに魔力持ちと遭遇しますが、それでも身構えて相手の素性を探るのに役立ちます。そして大抵は別に異世界とは関係ない人々なのです」


「妖狐ユィーリン氏と出会ったのは最近新しくリリースされた、3Dのテーブルゲー厶上です。このゲームは3Dのアバターを自分でキャラメイクでき、視線や上半身の簡易的な動き、そして喜怒哀楽をコントローラで操作できるものでした。そして題材はトランプゲームという特性上、基本的にメインゲームへの操作は『カードを出す』これだけです。プレイヤーの1人称視点だったり、俯瞰の3人称にできるのですが、カメラの画角に収める必要があるのは基本手札のカードとテーブルに出されたカードくらいで、あとは3Dアバターに注視出来ました。この仕様は、今までVtuberのアバター、モデルを持っていなかった人にとって非常にVtuberデビューのハードルを下げる良いゲームだったんですね。それで、新しくVtuberになったという『妖狐ユィーリン』を名乗る人物と、ランダ厶マッチで対戦することになり、そこからフレンドになりました」


「妖狐ユィーリンから魔力が溢れていたので、まず身構えました。Vtuberのコミュニティなどで探りを入れると、どうも妖狐ユィーリンは自分やコラボ相手のファンに直接連絡をとりまくって、ワンナイトラブを繰り返していると言います。それで、自分のファンで妖狐に『推し変』した人を探すと、みんな妖狐の魔力が宿っているんです。他人に痕跡を沢山残せる人物ということで、今までより警戒心が強まりました。さらに、ファンの行方不明事件が2件起きました。警察はVtuber絡みと気づいてませんが、これはまずいということで、多世界転移管理局に連絡を入れたのです」


 ピエレッタの話を聞いて、管理局として改めて行方不明者を捜索したところ、妖狐が手をつけたファン5人の行方がわからなくなっていた。基本消息不明だが、うち1人のみ妖狐の付き人をしていることがわかったので、その人物に会って聞き込みを行った。




 妖狐の付き人の名前は西園アキラという男性で、セーラー服を着ていた。彼のいる国ではセーラー服は女子高校生が着る制服としての用途が9割9 分といった具合で、残りはそのセーラー服のコスプレやファッションだった。しかし彼はおそらく1厘ほどの用途である「海兵隊の格好を模したメンズの私服ファッション」としてセーラー服を着こなしていた。実際、そのキャラ立ちゆえに数日前にVtuberデビューも果たしていた。役職は「船乗り」だ。


「僕はスポーツセーリングが好きで、この格好でよくヨットに乗ってセーリングをするんですよ。まあ、ユィーリンとの出会いにそこまで関係はないんですが」彼は自前のセーラー服の襟を立てて水兵の真似をした。「僕は二次創作が好きで、妖狐ユィーリンの二次創作小説を書いていたんです。彼女のファンの中でも古参で、初の生産者側ということで、気にかけてくれたんですね。彼女から連絡があり会いたいと。それで会いましたら、その場で逢瀬が始まりました。彼女、キャラ付けじゃなくほんとに性豪なんですね。まぐわいが終わったあと、デート気分で湖のボートに誘いました。普段はヨットに乗るんですが、ボートとかも知識はあったので。そこで彼女は特技を見せると言って湖の上そこらじゅうに火の玉を浮かび上がらせて、それを自在に操るじゃあないですか。彼女は自分の特殊能力だと言いましたが、僕からしたらそれが超能力でも奇術でも関係ありません。彼女がVtuberの出で立ちのままプライベートでも立ち振舞っていることに感動したんです。僕はいてもたってもいられなくなり、さらに二次創作を書き進めました。彼女は僕の小説を気に入ってくれて『お主もVtuberデビューしよう。儂のハレム結成の手助けとして助力して欲しい。良い参謀になれる』というので、僕自身翌日にはVtuberデビューしまして、彼女とともに色んな女性Vtuberに声をかけまくって交わっているという訳なんですね」


 私とピエレッタは引き気味に話を聞いた。彼がこんなに包み隠さず話したことに驚いたが、理由はすぐにわかった。


「ユィーリンから許可を貰っています」アキラは言った。「『多世界転移管理局という機関が自分のいた世界にはあったから、それらしい人に話を聞かれたら包み隠さず話していいよ。やましいことしてないから』だそうです。もうひとつ『直接連絡してこい』とも言ってました」



 私たちは3人揃って妖狐のところに行った。しかし、彼女は想像していたような強か、あるいは誘惑するような態度ではなく、何事かに酷く憤慨していた。その憤慨の対象に管理局も含まれていることがわかった。


「儂がなぜ管理局のお主らに腹を立てているか……分からないじゃろう? あの吸血鬼、半人半魔連盟から離反したあのハーフ吸血鬼じゃ!」


 妖狐ユィーリンはつい先日、せっかく集めた自身のリスナー兼ハーレム、――推し変に成功したならもうそれは自分のファンだと豪語していた――、が行方不明になっていることを把握した。そして、彼女は最近管理局に監視されていたことにも気づいていた。しかし、真に相手をすべきは自身である妖狐ではなく吸血鬼だと語った。


「吸血鬼は管理局監視の監獄にいるが」私は本当にあの吸血鬼アレックスが関わっているか疑問に思った。「彼が殺害、ゾンビ化させた人数を考えれば即刻死刑になるべきなんだが、『ハーフ吸血鬼』という特性から、もしやゾンビ化が治療できやしないかと画策していて、留保されたんだ。結局無理だろうという判断になって、おそらく極刑になるだろう」


 妖狐は呆れた顔をし、手をヒラヒラとさせて私の説明をあしらった。「多世界転移管理局が忙しい理由は、吸血鬼が異世界からイタズラに人を攫ってゾンビ化したり、逆にゾンビを異世界に送り込んだことの調査であろう? 全く、ルージュじゃったか……彼奴がいればもう少し早く気づいたんじゃあないか? 投獄された吸血鬼は十中八九ニセモノじゃぞ。多分下僕のゾンビを改造して吸血鬼アレックスの容姿に似せたんじゃな。投獄されていれば(本人が望まなければ)苦手な日光に当てられることも無いしバレずらいよのう。失踪した"儂"のリスナーの部屋を勝手に調査したが、ゾンビ化させられた形跡があったぞ」


 私はそれを聞いて直ちに管理局に確認をとった。半日後、実際に投獄されたアレックスはニセモノで、吸血鬼ではなく手下のゾンビであることがわかった。投獄時点では本物だったが、タロット殺人事件のゴタゴタの一瞬をついて入れ替わったようだ。


 不意を付かれた原因に妖狐も絡んでそうなので、私とユィーリンは尚もいがみ合っていたが、そのままでは埒が明かないということで、妖狐の活動履歴から吸血鬼の捜索をすることになった。



 吸血鬼はVtuber活動を隠れ蓑にして、標的にしたVtuberのリスナーを狙って嬲り、ゾンビ化させていた。自身のハーレムに目をつけられどんどんゾンビ化させられた状況にユィーリンは怒り心頭だ。


「愚かな吸血鬼! 奴を絶対に始末せねばならん。妖狐を敵に回すとどんな恐ろしいことが待っているか直接味あわせてならねば。吸血鬼ですら慄く災いを起こして地獄絵図を――」


「おい、周りの人間を巻き込んだり科学世界で魔力絡んだ被害出したらお前もしょっぴくぞ」私は妖狐を牽制した。


「はあ? これだから人間社会の国家機関はめんどうくさいことばかりじゃな」妖狐は1人で行動しようとしたが、西園アキラとグノーが妖狐の行く手を阻んだ。


「僕はあなたのファンですし、ハーレムで酒池肉林楽しみたいという享楽に乗っかってる身ですが」アキラは言った。「それでも、自分の住むこの社会で無差別テロや厄災を引き起こすようなことはやめてほしい。Vtuberのコミュニティの中でやられたとわかっているのだから、Vtuberとしてのツテを使って吸血鬼に接触し、上手く制裁を与えられるはずです」


「これをみて」グノーはタブレットを取り出して全員にみせた。「今度、都会にある大型VR施設の先行披露会でVtuberによるプロモーションを実施するみたい。まだVtuberの参加枠が空いているから、これに応募しよう。妖狐側が勘づいていることを、吸血鬼は知らないはず。私たちが集まって参加すれば、狩りしやすいと思って吸血鬼も参加するだろうね。VRアリーナ上で私たちから吸血鬼に仕掛けるのよ」



グノーの提案で、ユィーリンとアキラも含め3人でVR施設プロモーションに参加することになった。アキラは新参すぎる上にまだまだリスナーが足りないということで選考から外れてしまったが、参加Vtuber1人につきマネージャーを1人まで帯同できるルールとなっていた。そのため、妖狐ユィーリンのマネージャーとしてアキラが、女騎士ペトラ(グノー)のマネージャーとして私が同行することになった。妖狐と女騎士はそれぞれ自枠(自らの配信チャンネル)でプロモーション参加の宣伝をした。VR施設のイベントまで残り1週間だった。

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