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半人半魔連盟とゲームタロット ③

 烏天狗殺人未遂から4日後(決勝戦から42日後)、今度は吸血鬼アレックス関連の、―タロットの関わらなさそうな――、事件が起こる。しかも烏天狗の時とは違い、吸血鬼が実際に「犯人」であることが判明した。


 吸血鬼アレックスの住む町の隣にあった村が、数日前にもぬけの殻と化してした。その地区の調査団が調べたところ、吸血鬼に荒らされた痕跡が見つかった。さらにかなりの数の村人がゾンビ化したらしいのに、一行にゾンビ本体すら見つからないということで、クヴァンツ王国の多世界転移管理局まで出張ってきた。ハロルドの調査によると、かなりの数が転移されたようだ。そうして、隣町で一見平穏に生活していた吸血鬼を調べたところ、私利私欲のためにゾンビを大量に作り、戦わせたり交じらわさせたりして楽しんでいたのだ。彼は人間の血を楽しむ側だった。


 彼は捕らえられ、監獄に入れられた。きっと妖狐殺害の犯人も彼だろうということで、世間は落ち着きかけていた。


 数日後(タロット大会から45日後)、新聞に妖狐殺害事件の犯人は吸血鬼アレックスではない旨の報道がなされた。翌日早朝、吸血鬼の収監された監獄の入口付近に、タロットカードの原画4枚が便箋に入れられて壁に立てかけられた。




   *      *




 私は調査をしていく中で、烏天狗や吸血鬼の事件の対象で2、3手柄があったが、相変わらずタロットを盗んだ犯人を捕まえられなかった。世間的には未だ「犯人はシャルロットか否か」意見が二分されている状況だ。


 これは妖狐殺害の調査団でも広がった。私と直接調査しているタツキやカエデは私を信頼してくれたが、班の違う調査団は「シャルロットが調査団に入って逆に犯行を行いやすくしているのではないか」という疑いの声も出た。もちろん、実際に私が怪盗淑女をやっていた時を知っている調査団員は、否定的意見の方が優勢であったのは私の精神を助けた。


「タツキ、済まない……何とか調査に助力しているが、なかなか進展がなくて」私はタロット大会から50が経過しそうなところで、弱音を吐いた。普段は絶対口にしなかったことだ(それこそ、彫像祭事件以来と言える)。


「いや、シャルロットはよくやっているよ。特に、怪盗としてではなく、1市民として清廉に振舞ってるね……清廉すぎる!」


 タツキの意見に、私は驚いた。


「確かに元犯罪者の態度としてはありがたいのだろうけどさ」タツキは少しニヤついた顔を隠さずに言った。騎士としては何と不良な物言いだろう。「もっと推理を『実際に自分が犯行するならどう組み立てて、結果現実でこの事件が起きたか』考えてくれよ。元犯罪者を捜査に迎え入れる際、捜査組織が求める技能はそれだ。いいかい?シャーロック・ホームズは自分の正義のためなら潔く礼状のとってない部屋に侵入したさ。君がその立ち振る舞いをすると、また怪盗淑女に戻ってしまうかい? それなら、『汚名撤回』という目的で捜査に加わっているのはジレンマだな。いや、実際人間はジレンマを抱えて当たり前だから、責めるつもりはない。だが、思考だけ怪の頃に戻して捜査を続けることが難しかったら、あとはボクたちに任せて欲しい。どっちを選んでもそれで君との友情は微塵も壊れたりしない」


 このタツキの助言は、私を覚醒させた。


 人殺しはしないが、実際に犯人になったつもりで、タロットを扱って何をしたいのか、罪を他人になすりつけた心理を考えた時、一晩経って答えがでた。




   *      *




 多世界転移管理局のハロルド・バルトに2、3確認を入れたことで、推理の裏がとれた。私はタツキに推理を共有し、犯人を逮捕した。


「恋人は死んだと思っていましたが、実は生きていたんだな……女性に転生しても、一緒に同じくらいの寿命を共に生きれた方が有意義かい? グレン」


 ハーフエルフのグレン、彼女がこの1連のタロット事件の犯人だ。


 殺人は起きたが、実際には決勝プレイヤーの4人は誰も死んでいない。






 妖狐ユィーリンはどうなったのか? 当初の予想通り、彼女は別の女性に身体を移した。本人は異世界(科学世界)に忍び込み妖術を使って利益を得ようとしていたことが、ハロルドの調査でわかった。しかし、彼女はタロット事件の当事者ではない。妖狐ユィーリンをどうするかは多世界転移管理局次第だ。


 妖狐の力の残る、ルックスが10代の身体を得た女性は喜んだが、身体に馴染み切る前にハーフエルフが新米妖狐を殺害した。その後治癒魔法で魂がなくなった妖狐の身体を修復。寿命の短い人間の恋人の魂を妖狐に移していた。


 妖狐の死体を既に調べ、注意の逸れた状況で死体を人間のマサトを(整形して)入れ替えても、このままだと気づかれなかった。


 エルフは怪盗淑女である私と、妖狐ユィーリン、吸血鬼アレックスの誰かが犯人であろうという状況を作り、事件を迷宮入りさせようとしていたのだ。




   *      *




 エルフが逮捕され、罪を認め投獄されたあと、私とタツキ、カエデと、新しく知り合った烏天狗のサラの4人でタロットカードを遊んだ。


「もし2人の恋が本物なら、投獄中であろうと、数十年立った後であろうと愛し合うだろうね」と烏天狗は言った。


 妖狐の身体をめぐって一人の女性が死んだが、今から剣士マサトを妖狐の体から引っ張り出すという対象はできないし、無益なことだった。


 タツキは、亡くなった女性に思いを巡らせ、頭を振って黄昏ていた。ただ、その状況を続けるよりはと思って、「汚名撤回記念にカードを相手してよ」と私が誘ったところ、笑顔を見せて一緒にカードゲームの輪に加わった。

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