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半人半魔連盟とゲームタロット ①

 語り:元怪盗淑女シャルロット・クルーガー




 タツキ・ドラゴネッティは半人半魔連盟というコミュニティに所属している。



 今まで記録してきた事件や冒険はずっと人間の話で、魔獣や魔法が出てくることがあってもほかの魔族は原則出てきていなかった(竜の因子を持つ魔法使いや、属性上魔族扱いされた他称魔王のホムンクルスの議論はここではしない)。


 実際には、この魔法世界には様々なヒト型魔族がいる。エルフ、ホビット、ドワーフ、オーク、吸血鬼、天狗、人魚……あげればキリがない。


 戦時中は種族ごとの社会が戦争・内戦を繰り広げていたが、今は全体的には平和を保っている世の中だ。各々の自治区・国で各魔族は生活を営んでいる。



 そんな中、自らがどこに所属するか定まっていない魔族が存在している。いわゆる『半魔』の存在。人間と魔族のミックスだ。


 半人半魔連盟は、そうした立場の人々で繋がって孤立を防ぐ目的のコミュニティである。


 このコミュニティには正会員と準会員の2つがあり、正会員は人間の血筋を1:1で持つ者。準会員は、さらに広義的な、自身の魔のルーツが明白な魔法使い(タツキもこれに該当する)や、ハーフではなくクォーターなど、またオークやエルフのミックス、といった方々でヒト型の生活圏で生きる意思のあるものなどが参加していた。


 正会員と準会員というと、そこにランク付けがあったりカーストが生まれてしまいそうな雰囲気も感じるが、今のところそうした差別になりそうな空気は感じられない。クォーターよりハーフの半人半魔の方がコミュニティ問題が切実なので、この区分には連盟の会員内部でも概ね了承済みである。






 今回話したい事件は、この半人半魔連盟の毎年の恒例行事である「ゲームタロットトーナメント」に関わる殺人殺魔事件である。




   *      *




 自己紹介がまだだった。私はタツキの友人であるシャルロット・クルーガーだ。「怪盗淑女」と昔は呼称していた。


 私が引退して2年ほど立ったある日、半人半魔連盟の事件に巻き込まれてしまう。






 半人半魔のほかに、もうひとつ諸君に説明が必要だろう、「ゲームタロット」という競技がこの事件の肝である。



 タロットと聞くと何を思い浮かべるだろうか? 占い? 22枚の大アルカナ?


 その印象はある意味で正解であり、ある意味では間違いだ。


 タロットというのは元々トランプから派生して生まれた。きっと「タロット→トランプ」の順の説を聞いた事のある読者が多いと思うが、現在では古い説になっている。


 数世紀前はトランプの4つのマーク……スペード、クラブ、ハート、ダイヤ……うちのどれか1つのマークを「切り札」に決めて、ほか3つのマークより強いということにして勝負をする「トリックテイキングゲーム※」というジャンルが流行っていた。


※タツキが綴った『テーブルは三角形』事件で扱った「オンブル」というゲームもトリックテイキングというジャンルだ。ただし、『テーブルは三角形』事件の記述に習って、この半人半魔事件でも「トリックテイキング」やタロットの具体的ルールは知らなくても読めるように注意して綴ろうと思う。


 タロットのなり立ちとはつまり「切り札専用札の追加」である。スペード、クラブ、ハート、ダイヤの4つマークより「強い」札を予め用意して、さらに枚数を増やし22枚とした。


 カードが刷られる時、この「切り札」を特別視して様々なイラストが載せられるようになった。この「イラスト」に古代文明の逸話や象徴を載せて派生したのが「占術転用タロット」なのだ。22枚という数も占術と相性が良かったのであろう。タロットは占術の文脈で語られる時、カードゲームとしての歴史とイラストに付随された古代文明からの歴史が合流しているので、時系列でタロットとトランプを語る時に誤解が生まれた。



 ちなみに……科学世界に生きる読者諸君向けにいうと、現代ヨーロッパの数カ国では占いよりテーブルゲームとしてのタロットが今なおメジャーに遊ばれている。気になったら調べて見るといいだろう。






 話しを連盟に戻す。半人半魔連盟は、競技的テーブルゲームとしてのタロットのトーナメントを毎年開催していた。トーナメントが終わると、タロットの連盟記念デッキが発行された。


 22枚の切り札(大アルカナに相当)のデザインは上下が関係なく描かれる。――当然占いとしての正位置逆位置は無い。モデルは半人半魔たちだ。トーナメントの上位21名を切り札のイラストに掲載して、連盟と半魔たち、そしてタロットの強者を称えるのである。

(アルカナは22枚だが、うち1枚はエクスキューズというトランプでいうジョーカーに近いカードがあり、これはデザインを固定している)




 事件があった年の決勝戦は、以下の種族の半魔が集まった。4人テーブルである。


◇妖狐、吸血鬼、烏天狗、エルフ


 タツキ・ドラゴネッティはトーナメントには参加していなかったが、タロットゲーム、トリックテイキングゲームのファンであるので、この決勝戦は大いに盛り上がっていた。私が収容された施設で試合結果の掲載された雑誌を片手に、タロット勝負を暑く語っていた。


「今年の勝者は妖狐ユィーリンだね。友人の烏天狗祇山かみやまは3位か……でも惜しいねー、……」


 タツキはその日、何事もなく帰っていった。約半月ほど経って、彼女は大慌てで施設にやってきた。


 ニュース記事は私の冤罪、濡れ衣だった! 記事の冒頭を引用する。


『怪盗淑女シャルロット・クルーガー復活か? 半人半魔連盟の記念タロットの原画が盗難被害、シャルロット・クルーガー氏の声明文……』


 さらに、隣ページの1面で関連する『殺人事件』が報道された。


『タロットトーナメント勝者の妖狐ユィーリンが何者かによって殺害される。彼女の死体の傍には盗まれたタロット原画が複製されたカードが4枚添えられており、……(中略)……、市民の間ではシャルロット・クルーガーの仕業だと信ずるものと、義賊でもあった彼女が殺人という悪事に手を染めるはずは無いという擁護の声で2分している。……』




 当然、私は施設で監視されている。友人(に逮捕後なれた)タツキが騎士団として取り調べをしている時のいたたまれない表情といったら! 取り調べが終わり、私の関与が否定されたが、私の名誉は穢された。汚名撤回しない事には気が済まない。






 私はタツキ・ドラゴネッティとカエデ・フイユ※の監視の元で、事件を調査することが許された。


※この時期、ルージュ・フイユはクヴァンツ王国を離れ、無期限の休業をしていた。王国に裏切られるような事件が発生し、仕事への意欲が削がれていた期間だ。フィンア帝国敷地内のこの事件にルージュが関わるモチベーションはクヴァンツよりは多少あったが、タツキはルージュを巻き込みたくないということでルージュは休業中のままだ。騎士団経由でカエデ・フイユが出向した。

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