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クラスメイトは異国の魔王 ③




   /文芸部に彫刻家が来た




 私がバグを直さなかった理由がここにある。ルカ・ドラゴネッティの存在が修正版ではまるまるなくなっているのだ。いったいなぜ?






 この後、彫刻家が文芸部にやって来て1悶着起こす事件が、文芸部に入部したルートでは必須イベントであった。


 その、はずだった。


 あるはずだった事件は、以下の通り。彫刻家は美術工房の方針を進めてると自分の目指す魔法に近づけないために、退部する。しかし、自宅に彫刻のための工房がないため、文芸部で場所を一時貸してくれないだろうか? という内容だった。

 貸すか貸さぬかというのは多数決で決められたのだが、結果は拮抗していて、部長ルカの賛成票1票の差で彫刻家に文芸部の活動場所を1時貸すことになった。

 しかし、故意か過失か、彫刻家の創作した彫像が他国の魔法使いに乗っ取られてしまい、彫像たちは学園を破壊して回るというのを主人公や恋愛候補たちが学んだ魔法でなんとか防衛する。


 この事件の裏にはフィンア帝国の魔王、――つまり、何故か今瓜二つの同姓同名の人物がクラスメイトなのだが――、バイオレット・ガーベラが絡んでいて、ガーデンに災害をもたらす……というストーリーだった。


 ここら辺から、魔王が関わってくるので、いったいクラスメイトのバイオレットがどうアクションしてくるのかソワソワしていた。





 実際、クラスメイトのバイオレットがイベントに関わってきた。彫刻家がくるタイミングの1時間前に、部長ルカ・ドラゴネッティの前に現れたのだ。


「――私としてはこれによって"回避"できるとも思わないし、順当に進めても構わないが」バイオレットがなにかルカに伝えている。


「いえ……その……実は……申し上げにくいが……」部長のルカが下手に出ていることに驚いた。ルカはお嬢様口調で、少し上からな態度がデフォルトだったのだ。まるで悪役令嬢のような。


 ほかの部員が各々作業をしている中、私はルカとバイオレットの秘密の会話をなんとか理解しようと盗み聞きしていたが、ルカからなにか小声で告げられたバイオレットは勢いよく立ち上がると、少し周りを見キョロキョロして、私のものに歩いてきた。


「……」


 無言で見つめてくる。一応、気づかないフリをしているが、向かいの椅子に座って私をじっと見つめた。


「な、なんでしょうか……」私は恐る恐る聞く。


「なんで敬語?」バイオレットは少し呆れた状況で私の顔色を確かめに覗き込んだ。


「あ、その……」


「そう……あなただったのね」


「え?」


 バイオレットの発言の意味はなんだ?『あなただったのね』……私が? 私が何をした?



 私は黙ってしまった。こんなルート知らない。せめてイベントの選択肢表示を出してくれ!


 1分間程だろうか、お互い無言で向かい合っていた。私の目は少し下を見て時折チラチラバイオレットの顔を確認した。彼女はただじっと私を見ていた。


「……いや、今じゃないか……」バイオレットは立ち上がって再び部長ルカの方に進んだ。一言「じゃあ、どうするかわかってるよね?」と言って、文芸部から退出した。



 ルカとバイオレットがなんの話をしていたかは1時間後にわかった。ルカが今までどのルートでもしてこなかった行動をした。彫刻家に場所を貸すかの多数決で「反対票」を投じたのだ。


 彫刻が起因のイベントは以後、起こらなかった。




   /歌劇




 8月上旬。


 毎年11月にある文化祭に文芸部も参加しているのだが、今年はオーケストラ部と演劇部の合同で歌劇上演をすることに決まった。文化部はその台本を作成する。


 今から台本作曲、演技練習で間に合うのか? と疑問に思ったかもしれないが、上演時間は30分前後で、音楽は十二音技法という形式と事前に決められていた。


 文芸部は十二音技法で作曲された複数の歌劇や器楽曲を確認して、部内で全員が案を期日までに作成、各台本を文芸部とオーケストラ部の合同で投票し、1位になった台本を修正してオーケストラ部に渡すことになった。


 作曲担当はバイオレットだった。




 文化部で色々思考錯誤している中、私は部長のルカとバイオレットに色々と話を聞くチャンスだと思った。

 今までゲームで通ったルートではこの歌劇にはタツキ・ドラゴネッティとルージュ・フイユが必ず関わっていた。


 というのも、劇の内容が東洋の龍、――日本と明言されていなかったが、科学世界の中国や日本の伝承にあるあの龍だと思う――、を題材に物語が進むことになるのだが、途中で伝説がろう文化……つまり、耳の生まれつき聴こえない人々の文化圏からの伝承を元ネタにしていることが分かり、あろうことが部員が臨時職員のタツキ・ドラゴネッティに助言を求めてしまったのだ。歌劇の助言を聾者の教師に求めるというのはかなり立ち回りとして下手こいたことになり、文芸部の部活指標を大幅に下げられる寸前になってしまった(来年以降の活動費や生徒査定にも影響してくるのだ)。なんとかしようと部長はタツキの友人かつ通訳のルージュに助けを仰ぎ、助言を貰った。ダンサーと歌手を2人1役とし、歌手は歌を歌いつつ、ダンサーは歌のリズムに合わせてダンスと手話詩を合わせた舞踊をすることになったのだ。


 文芸部はルージュの助言を受けながらキリキリマイで手話訳と振り付けを作成することになった。





 以上がゲームで得た今後の展開の知識である。




 ……そういえば。


 ルカ・ドラゴネッティとタツキ・ドラゴネッティは同名であるが、親族なのだろうか?


 ゲームではそこに触れられることは無かった。この演劇のイベントで2人は交流があったのに……しかも『ドラゴネッティ』はかなり珍しい姓だ。





 私は部長のルカに話しかけた。


「そういえば、部長の姓とタツキ先生の姓って同じ『ドラゴネッティ』ですよね。親族なんですか? 実は姉妹とか……」


「ハハハ、姉妹なら私が妹かしら? それでやり直せるなら、どれだけいいことでしょう」ルカは後半、私に対する発言というよりも独り言のように嘆いて、天井を仰いだ。


「部長?」


「……君、もう原稿、実はできてるんじゃない?」


「え……」


 実は、龍の伝説のストーリーは『主人公』が幼少の頃聞きかじった内容を元に書かれていたのだ。私は文芸部で出し物が決まる前から、一応用意していた。


(事前に用意されているゲームと違っていちから台本を考えるのは、ちょっと大変だった)



「はい、できてますけど……」ただ、台本を提出するのはもう少し先の予定のはずだった。


「ミカ君、それを持ってバイオレットのところにいきなさい」ルカは私から顔を逸らして、髪をしきりにいじりながら部長命令を出した。






「どうも」バイオレットはオーケストラ部の指揮者をしていた。入部4ヶ月程度で指揮者の席に着くとは、いったい何をどうしたら可能なのだろうか。


 バイオレットはそもそも、ゲーム上はこの学園の生徒として1回も出てこなかった。それどころか、文化祭当日に魔王として登場し、ルージュ・フイユを"殺す"のだ。


 その彼女が、この歌劇イベントで作曲を担当するとは。


「……五百城ミカ」台本を読みながら、バイオレットは私の名前を読んだ。


「はい……なんでしょうか」


「あれ、『ミカ・イオキ』ではなく『五百城ミカ』と呼んだことへの反応はなしかい?」


 いや、すごくびっくりしてるし、緊張している。いったい、私はどう反応すればいい?



「……このシナリオじゃあ足らないわね。竜騎士のタツキ・ドラゴネッティに助言を貰いに行こう……とか、考えてる?」


「それが、当初のシナリオでした」台本のシナリオとも、ゲーム(のシナリオ)ともとれる発言をしてみる。



「……」バイオレットはジト目で私を直視する。うう……無言は苦手だ。ゲームだと複数選択肢がポップアップで空中に出てくれるのに……。


「よし、決めた」バイオレットは立ち上がると、パーカーのインナーポケットから指揮棒を取り出した。「ミカ、この後予定ある?」



「いや……特にはない」


「そっか、付いてきてくれる? オーケストラの練習まで時間があるから、その間に話そう」

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