クラスメイトは異国の魔王 ②
/同級生は隣国の魔王?
恋愛攻略対象の4人が、だんだんとクラスに集まってきた。
女性2人に男性2人の計4人。
①カエデ・フイユ 女性 ガーデン生徒
②ピエレッタ・"ピエラ"・グノー 女性 ガーデン生徒
③ハロルド・バルト 男性 ガーデン教師
④結城真尋 男 虚弱なダンサー
①カエデと②ピエラの2人は、20で入学してきた。転生した(主人公としての)私より4歳年上だ。
高校の生徒と言うと、15-16から17-18のイメージが強いと思うのだが、クヴァンツ王国にあるセントラル魔法大学附属のアート・マジックガーデンは、魔法を学びたいと思った15歳以上の魔法使い見習いが通う学園である。年齢制限の上限は設けられて居ない。
(科学世界の日本でも、定時制だとか夜間学校などで全年齢に門は開かれているし、実際には全日制の普通科高校でも条件は『中学校卒場済み』なので、年齢は関係ないのだ。年齢を重ねると仕事と学業の並行になるので、全日制はどんどん難しくなるのだが)
③のハロルド・バルトは臨時講師である。普段は国の捜査機関で働いているらしいのだが、本学の常任教師が諸事情で学期初めに空席になってしまい、臨時で私のクラスの担任教師となった。……このゲーム上はアラサーと16歳の恋愛はOKなのだ。日本ではないし。
④の結城真尋は、メンズのセーラー服を着こなすダンサーだ。なんでもゲーム上の学園1日目から1年前に、ある事件に巻き込まれて体力があまりないらしい。詳しい描写はなかった。
彼のルートを選ぶと何度か特殊な施設で暮らすシャルロット・クルーガーとうい20代の女性が登場するが、彼女に向いた恋心を主人公に向けるという、恋愛のライバルがいるルートである。まあ、シャルロットは常に弟を相手にするように真尋と接するので、いわゆるNTRにはならない。
セーラー服、と真尋の項目で言及したが、このマジック・アートガーデンの制服はなかなかにフェチに刺さる。
男女ともに、軍服、セーラー服、魔術服の3つを選ぶことができた。これがいい。すごくいい。15,6の美少年がセーラー服を着込んでいる姿は、すごく私を満足させた。それが生で見れるなんて!
担任のハロルド先生が挨拶し、順に生徒たちが自己紹介をしていく。特に名前順があるわけでなく、各々座った席順だった。
私が自己紹介したあと、さっきまでパーカー姿でフードを被っていた人物の番になった。
――ゲームに、こんなキャラいたっけか?
ノベルゲームという特性上、ゲームプレイで構内山クラスを自由にうろつけるわけではないので、クラスメイト全員の描写はなかった。にしては、入学初日にフードを深々と被っている姿はキャラ立ちしすぎているし、どこかで見たことあるような。
自己紹介のために、フードの女性はパーカーを下ろして、立ち上がった。
「バイオレット・ガーベラと言います。特技はオルガン。音楽と魔法の融合を目指します」
バイオレットと名乗った彼女は、本来そこにいるはずがなかった。なぜなら、ゲームのラスボスにして、隣国の魔王なのだから。
/困惑の2日目
/一芸と魔法
/文芸部の先輩
(要約)
私は魔王のことで頭がいっぱいになっていた。入学初日から恋愛攻略のための立ち回りもしなければならない。今までどのルートでも最終回付近まで登場しなかった魔王が初回に隣に座っている。
(他愛もない会話ならしていいよな?魔王以前にクラスメイトだよな?隣の席に座ってるんだから無視する方がおかしいよな?)
一気に私はゲーム世界に転生してしまったことが怖くなってきた。基本的にバッドエンドはないゲームだが、それはルート分岐があるとはいえ各チャプターはおおよそ同一で、プレイヤーは空中に浮かぶ選択肢を押すことで話を進めるのだ。あとはオートで時間が経った。
今は、受け身でいてはならない。
「あ……こんにちは、隣の席ですね。フードはファッション?」何とかバイオレットに話しかける。
「こんにちは。ああ、このパーカーは魔術が編み込まれていてね。普段は音楽魔法を使うのだが、オルガンを持ち運ぶ訳にも行かないし、礼装から準備しようと思ってね。フードまでおおった方が魔力を扱いやすい」
「な、なるほどお」
……。
特にイベント区切りのアチーブメントなどは私の視界に表示されない。
しかしノーマル以上のコミュニケーションができたはずだ。
「あ、いつの間に2人で会話してるの?」カエデ・フイユが廊下から戻ってきた。「私はカエデ。よろしくね、バイオレット。ビオラ(バイオレットの公的愛称)と呼んでいいかな?」
「よろしく、カエデ。……うーん、オーケストラ部に入るつもりで、楽器のヴィオラと被るので、『バイオレット』か『ビビ』で呼んで欲しいね」
「じゃあバイオレットで」
カエデは、ビビというと好きな演劇の黒魔道士と被るから! という理由で本名呼びのままにした。少しバイオレットは悲しそうな表情をした。
(こうして会話していると、普通の女子高生の会話なんだよな……)
* *
驚かれるかもしれないが、夏休みに入る直前まで、魔王バイオレットとの関係に特記することは起こらなかった。魔王に似た人物と私はクラスで時折言葉を交わす程度の、まあ友人としてはそれほど距離が詰まっていないが席が隣である状況での社交性は保っている、という程度の学園生活を送った。
この魔王らしき人物が隣の席にいるという事実以外ではほんとに今までのゲームのルートと同じ内容が続くが、かいつまんで追加で登場した人物2人について話そう。
1人は「タツキ・ドラゴネッティ」という人物で、竜騎士として活躍していた。
魔法授業のうち、竜の因子と魔法の合わせ方や、魔獣と魔法使いの関わり方の指南をする役割を担っていた。
しかし、彼女は聾者であったため、通訳が必要だった……という建前をとっていた。
実際には発声の補助魔法が使えるため、タツキは口話でもある程度の意思疎通がとれるのだが、彼女は通訳者としてルージュ・フイユを任命していた。
担任教師のハロルドが臨時職員であることは以前紹介したが、学校にいてももうひとつの本業の仕事をいくつかしたいようで、タツキ、ルージュと3人で集まって話し込む場面に何度か遭遇している。
ルージュ・フイユ……そう。カエデ・フイユとは兄妹関係にある。カエデはよく校内で「おにい!」と言いながらルージュに駆け寄り、怒られていた。
ただ。ゲーム内だとブラコンのように描かれていたが、実際に生で観察してみると、『ある程度中が良さげな兄妹』の範疇の立ち振る舞いに思えた。
恋愛攻略対象としてはカエデ・フイユを中心に定めながら、サブルートのタツキとのイベントをこなして、7月中旬まで学園生活を送った。
私はサークルにはフェンシング部と文芸部に所属していた。アート・マジックガーデンにおけるサークルというのは、日本の部活動よりも学園生活で重要なウェイトを占めていた。というのも、魔法使いを目指す上で、サークル活動がものすごく重要だからだ。
ゲーム上で主人公の学園での、魔法使いとしての目的は「より上級の魔法使いになること」であり、より詳しく言えば『魔法世界に住んでる"のに"魔力が乏しい、あるいは全くのゼロで自ら魔法を生成できない人々が、学園内で如何に魔法を学んでいくか?』という題目があった。
例えば、ダンスの才能があるものは衣装で力を得たい偉大な人物の装いや特別な礼装を身にまとい、身体の動きで自らのもつ魔法の効果を高めた。全く魔力うぃ持たない人の場合は、魔力を持つ人とタッグを組み、魔法使いの相方に息を合わせて舞踊を実践するのだ。
だから、サークル活動に入るというのは……特に第1の本命サークルは、自分の魔法使いの活動に直結する。
という前提を持って、文芸部に活動をしていた。
その文芸部の"部長"が、7月に初登場する。
「どうも、家庭の事情でクヴァンツ王国を3ヶ月去る必要があり、しばらくはレポート学習でしたわ。ごきげんよう。1年生と会うのは初めてね。ルカ・ドラゴネッティよ。よろしく」
もし、本文に要約箇所があることに違和感を覚えた場合は、本章の前書き(バイオレット城騎士団の思い出 前書き、のこと)を確認してください。