クラスメイトは異国の魔王 ①
登場人物
本編主人公:
五百城ミカ - ノベルゲームが好きな成人女性 ある出来事がきっかけでノベルゲームの主人公に転生してしまう。
レギュラー:
◇タツキ・ドラゴネッティ - 竜騎士 一人称ボクの女性 ろう者(耳の聞こえない人)。
◇ルージュ・フイユ - 魔法使い ナルシストな男性 多世界転移管理局のエージェント。
◇バイオレット・"ビオラ"・ガーベラ - フィンア帝国を支配する魔族
◇カエデ・フイユ - ルージュの妹 五百城ミカと同級生になる
私の名前は五百城ミカ、科学世界で過労死手前の生活を送っていた。
知り合いであるタツキ・ドラゴネッティに関わるエピソードを各方面から集めているという話をきいていたが、私が関わって"しまった"話は当人の視点で書いてしまうと、「あまりに事務報告のようになってしまう」と嘆いていた。当事者である私も、そう思う。私からしたらこの出来事は、あまりに奇怪な体験だったというのに。
(実は私が独断で執筆をはじめて、長編ものとして構成を練っていたのだが、タツキ側の都合で要約して欲しいというので、原稿から書き抜きして一部修正を入れることで本エピソード集の一遍とした)
* *
/五百城ミカの周回ゲームの日々
ある休日の早朝……今日は予約していた小説の販売日。休日だと言うのに疲れの抜け切らない身体で書店に行って、ライトノベル風の題名なのに内容は至極重い『ファンタジー世界にまできてやることが異常性癖研究だとしても、その道程で恋を知るよ』を受け取った。
この小説は恋愛要素ありのノベルゲーム『アートマジック・ガーデン』の前日譚である。『アートマジックガーデン』はファンタジー作品における学園ものだ。
『魔法世界に住んでる"のに"魔力が乏しい、あるいは全くのゼロで自ら魔法を生成できない人々が、学園内で如何に魔法を学んでいくか?』という過程と、その学園生活の中での恋愛を描いた作品である。
恋愛対象によるルート分岐がメインである中で、2人、恋愛要素以外の交流を描いたルートがあった。
1人は「タツキ・ドラゴネッティ」というろう者、つまり耳の聴こえない人の物語で、彼女はアート・マジックガーデンの教師だ。
作中でタツキは既にルージュ・フイユという人物に心惹かれていて、主人公との恋愛展開はない。NTR(寝盗られ・寝取り)はNGらしい。
もう1人の名前は「バイオレット・ガーベラ」で、フィンア帝国という架空の国の魔王だった。彼女が敵になるか味方になるかでルート分岐がある……はずだった。
実は『アートマジック・ガーデン』には"バグ"があるということで返品・回収・バグ修正アップデートに追われていた。ほとんどの人がその修正パッチを当てて遊んだか、返品して一時ゲームから離れていた。
私は、修正パッチを当てずにもう10周はプレイしていた。なぜなら、修正パッチには「ビオラ・ガーベラのルート分岐」だけでなく、ある人物のストーリー削除という『暴挙』がされていたからだ。
今回の小説は、その削除されたある人物と、タツキドラゴネッティの関わりも描かれているというので、ファンとして読まなくてはならないと当日購入をした次第だ。一体なぜ『暴挙』が起きたのかも判明すればいいが……。
ここまでゲームのことをずっと喋ってきて、私の自己紹介を1度もしていなかった。
私の名前は『五百城ミカ(イオキ・ミカ)』もうすぐ25歳になるOLで、仕事は……まあ、くたびれてる。
ノベルゲーム『アートマジック・ガーデン』は主人公の男女性別が選べ、さらに主人公の性別に関係なく攻略対象も男女4人の中から選べる。
私は両刀使いだ。
私は(恋愛対象ではないが)タツキ・ドラゴネッティのルートと、(恋愛対象として)カエデ・フイユのルートがお気に入りだ。
ルートは面白いことにいくつかの組み合わせで同時進行が可能なので、ハーレムエンドも楽しい。
先程「10周も遊んだ」と言ったが、各恋愛対象4人+2人のルートと、さらには複数ルートの組み合わせがあるのだ。だからまだ全ルート回収出来ていない。
せっかく小説を買ったので、とりあえず目次を読んだ。
1.タツキと足崩床
2.龍の落とし子
3.氷の国、湖の踊り娘たち
4.竜人はつくられた
5.触手の擬態
6.テーブルは三角形
7.他称魔王とルージュ・フイユ
8.サンドイッチ・リュージュ
9.曲芸師の師弟
どの項目もノベルゲーム内で言及があった。「他称魔王」がバイオレット・ガーベラのことであると予想してるが、なぜ他称なのかはわからない。
一瞬だけ話題に出てきてまだ辿りついてないルート分岐だと気づいた話がある。『タツキと足崩床』だ。
「……足崩床って『トランポリン』のことだったはず。タツキ・ドラゴネッティが『竜騎士のジャンプを擬似体験したいならトランポリンやれ』と生徒に語った場面があったっけ。ただの雑談ではなく、ルート解放アチーブメントがその場面でされたから、次の周でやろうと思ってたんだ」
私は目次で一旦本を閉じて、ゲームを起動した。
第1話から未プレイルートの話なんて! 落ち着いて読書の休日にしようて思っていたが、どうもゲーム攻力を完了させねばならぬらしい。
未だに修正パッチを当ててない脆弱なゲームを起動して、魔法学園入学初日へとやってきた。もちろん主人公の名前は『ミカ・イオキ』で……。
ゲームを起動して、名前設定をしてからの記憶がいまいち思い出せない。
私は見覚えのある制服をきて、講義室の一席で机に突っ伏して眠っていた。
「……ミカ、ミカ! 初日から惰眠を貪るなんて、随分余裕なんだね」
聞き馴染みのある声で目が覚める。
「あれ、私、自分の家でゲームをしていたんじゃ……」
「おーい、寝ぼけるなー? 戻ってこーい」私の頭をわしゃっと鷲掴みして、ニヤニヤと髪をくしゃくしゃにして遊んだ。
このイタズラ心を持つ人物を、私は知っている。
「カエデ・フイユ?」
「なんだそのハテナマークは、1番の友の名前を忘れたか? せっかくおなじ学園に入ったのだから、もっと喜べ」
「え、え……えええええええええええ????」
「ちょ、うるさ」カエデはしかめっ面で両耳を抑えて苦笑いした。
さあ、テンプレートの口上を言おう。「私、五百城ミカは……どうやら、大好きなゲームの世界に転生してしまったみたいです」