曲芸師の師弟 ②
「ねえタツキ」半月後、ボクは退屈な書類作業をしてるとルージュから声をかけられた。「半月前にサーカス団へ紹介した、真澄という人物を覚えているかな」
「えーっと……ああ、彼か。どうしたの?」
「彼、魔法が使えない割に曲芸、特にジャグリングを頑張っているらしくてね。今日は新人サーカス団員の『団内曲芸披露会』を行うそうだ。観に行かない?」
「……前教えてくれた『大学時代の友達』スワンに会うことが目的だろ」ボクはちょっと拗ねたフリしてルージュに言った。
「おいおい。一応、もし真澄がサーカスを退団ということになりそうになったら、俺らの管轄になるんだぜ」
若干の話のはぐらかしを感じつつ、真澄の曲芸にも興味があったので、着いていくことにした。
「一応、入って数日の真澄の様子を団員のスワンから手紙で教えて貰ってね。魔法が使えない割にボールジャグリングを習得していってるようだ」
ルージュは手紙の内容をボクに話した。
「『魔法が使えない割には頑張るじゃん?』スワンは空中にボールを5つ投げ続けるジャグリングをする真澄に関心の言葉を送った」
「『筋肉は、裏切らない……とはいえ、基本縦方向にしか飛ばないのはハンデですよね。天井からピアノ線でボールを吊るして、横方向にも飛ばしたいんですが……』真澄はよりレパートリーを増やすための仕掛けを提案した」
「『ダメ、ダメ。入って1週間の非魔術師が舞台スタッフに頼める労力じゃあないね』スワンは言った」
「真澄は『ダメか〜』と言ってまた不安定な足取りの真澄は天井を見上げながらボールを投げあげた。数が多くなる分、対空時間が必要になり、ひたすら全身の筋肉を使ってタイミングよく投げあげる」
「『なんかさー、スワンちょっと舐められてない? それかあいつ(マスミ)自体が生意気?』スワンと同級であるベンジャミンセンが失笑しながら近づいてきた。手にはカクテル作りに使うカップやボトルが握られている。彼女はフレアバーテンダーであり、劇団の傍らバーカウンターでも働いている。バーパフォーマンスも曲芸の一種だ」
「『まあ《鈍臭いガキが敬語を取り繕ってる》って感じだ。ほら見ろよあのボール捌き。ぎこちなさすぎて笑えるだろ』スワンは真澄の動きを誇張して真似た」
「『たしかになー。バーテンダーにはなって欲しくないな。けどさ、ピエロになるなら、すごくお似合いだと思わない?』」
「スワンは真澄のジャグリングを見て、ピエロに扮してジャグリングする姿を想像した。確かに悪くない。様になっている。練習を眺める2人を他所に、真澄は愚直に練習を続けた。ボールが7個に増えると、10秒に1回はボールを落としてしまうので、実際にステージに立てるような状態ではない」
「『ま、そろそろ私も練習するかな』スワンは練習用のカーゴパンツにパンクTシャツを来て、腕まくりしてウォーミングアップを始めた。彼女はブレイクダンスとボール捌きを複合した曲芸を得意としていた」
「『オレ、先輩やベンジャミンセン先輩みたいなかっこいいスタイリッシュな曲芸やりたいっす』数日後の昼食時、真澄はスワンに打ち明けた」
「『あー、うーん』スワンは快く返事することが出来なかった。真澄は割と太めの体型であり、なおかつ鈍臭く運動は苦手と言った風だった(筋肉の『量』とタイミングや身体の使い方の『腕』って、比例しないんだなー)」
「曲芸とは数多の種類がある。
①軌道を華麗に描く、理論的・数学的・幾何学的美しさをめざしたり、
②演技と合わせて文芸的舞台表現をしたり、
③道化師のような滑稽と哀愁を目指したり、
④そして、魔術と合わせてより『幻想的】に行うことも出来た」
「わざわざピエロの似合う真澄がスポーツ系に向かうことはない。そう思っていたスワンにとっては、厄介な願いだった。『(まあ、ふくよかなルックスの奴がブレイクダンスでウィンドミルやって会場が湧くなんてこともあるからなあ。否定はしないけど)』」
「『まずは基礎を磨かなきゃ意味ないだろ! 30秒間ボール7個を落とさない! そこからだよ』スワンは真澄の肩を小突いて、その日の話を終えた」
ボクは『科学世界』にいた頃のサーカス団の曲芸と、この首都グリーンリッター・サーカス団の演技を思い返し、比べながらルージュの話を聞いていた。「魔法と身体曲芸の合わさったサーカス、本当にえぐいパフォーマンスするもんなあ。縦横無尽に魔獣や道具が飛び交うしアクロバットだし。そりゃ真澄も焦るかあ」
そうしてサーカス団の演技を観に行こうとしていたのだが、管理局を出る寸前にルージュがロバート局長に呼び止められた。局長の話と曲芸視察の場合当たり前だが局長との話し合いが最優先なので、予定より1時間到着が遅れてしまうことになった。




