竜騎士 対 人工竜人 ①
登場人物
レギュラー:
◇タツキ・ドラゴネッティ - 竜騎士 一人称ボクの女性 語り手。
◇ルージュ・フイユ - 魔法使い ナルシストな男性 多世界転移管理局のエージェント。
本話ゲスト:
◇ドム・レオン - 狩人
◇ユリア・レオン - ドムの妻
ボクは【不良騎士】だ。
ボクの名前はタツキ・ドラゴネッティ。女性。竜の因子を持つ竜騎士であり、クヴァンツ王国のとある王立組織に併設された騎士団に所属している。とある組織、ともったいぶったが、別に隠すような団体ではない。ボクは王立の魔法大学出身なのだが、大学がひとつの都市を形成しているほどの規模なので、いわばそこの守護や防衛、風紀取り締まりを担っていた。また有事の際はほかの王立組織の騎士団と手を組み、武力行使する。
しかし、騎士が規範とすべき精神性の『騎士道精神』というやつを、ボクは持ち合わせていなかった。
魔法大学に在学中、いわば騎士候補生として団員に所属していたが、ほとんどなし崩し的な理由での在籍だった。「竜の因子を持つのなら、当然騎士になるのだろう?」というような、ある種の固定概念がこの国にはあった。別世界線からの転移者であり、元々魔法やファンタジーとは縁のなかった(日本出身の)よそ者のボクにとって、この固定概念は心底どうでもいいものだった。
どうでもいい、と言いつつ、脱退するかどうかは自由である。実際、大学在学中に騎士団の空気が合わず脱退する学生は4割ほどいた。強制では無いことは念頭に置いて欲しい。
その上でなぜボクがまだ籍を置いているかというと、大きく2つ理由があった。
まずは、異世界転移者でありよそ者である以上、何かしらの王立団体に所属していることは身元の社会性に大いに役立つ、ということ。
もう1つは、騎士という立場はこの国における「戦士・冒険者・ハンター」を内包した肩書きであり、ボクは副次的なこちらの活動に関心があったことが理由だ。
なので、下町で「竜騎士」として売り込みながら、フリーランスのハンター活動をすることがボクのライフワークとなっていた。
正式な騎士団員からすればさぞかし不良に映っただろう。
騎士団の(正規でない)準団員でも、いわゆる団体行動の定期訓練というのがあるのだが、ボクは身体的特徴の"ある理由"によって免除されていた。これも不良性を助長した大きな要因だ。
そんなこんなで適当に騎士団に所属していた大学時代、そして卒業して数年。当然と言えば当然なのだが、騎士団内では浮いていて、仲間や友人はひとりもいなかった。
むしろ、騎士団を脱退した人達との交流の方が多かった。
ルージュ・フイユという魔法使いも、元騎士団員にして、ボクが語りたい、とても興味深い友人だ。
* *
ルージュ・フイユという男の友人は、端的に言えばナルシストな芸術家だった。身体表現の伴う演劇やダンスを、魔法の儀式に流用して魔法の威力を高めるタイプの魔法使いであり、大学生時代はその優秀さで注目を浴びていた。
「彼は魔法界のレオナルド・ダ・ヴィンチだ」と言われるほどの万能人であり、そうあるよう努めた人間でもあった。
ボクは彼と大学生活を歩んでいたが、時折、「ルージュの万能人生活を終わらせたのはあのタツキ・ドラゴネッティだ」と言われることがある。
ここから語弊を恐れない物言いを次段落でするが、この物語を最後まで読むことで、今から言うことの印象はガラリと変わると思う。だから読者は、「うわ、タツキってこういうやつなんだ」と短絡的に判断せず、留保して欲しい。
――ボクは、ルージュがメインで活動していた音楽活動に露ほどの興味すらわかなかった。
ルージュは魔法そのものよりタレント的、芸術の人として世に出ていくと誰もが思っていたが、ボクと交友を持ってからどんどんその活動は鳴りを潜めた。
ああ、ルージュの去就の変更というのもまた、ボクを不良騎士たらしめるエピソードなのかもしれない。
ナルシストでそれに伴う実力を持ち、格好よく、異性からモテたりもしたルージュ・フイユは、表向きには卒業後のらりくらりと生きていた。時折芸術界で名前が上がりプロジェクトに参加したりするが、世間からは「早すぎた隠居生活」なんて揶揄された。
この物語は、そんな世間の色眼鏡からしたら衝撃の事件だろう。
ルージュ・フイユは、この世界の安全を守る「エージェント」として活躍していた。
そして、竜騎士の力を借りたいと、不良騎士であり唯一無二の友人であるボクをバディとしてスカウトしたのである。