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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第1章】異世界転移の悪用:人攫い
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サンドイッチ・リュージュ ①

登場人物


レギュラー:

◇タツキ・ドラゴネッティ - 竜騎士 一人称ボクの女性 語り手 ろう者(耳の聞こえない人)。

◇ルージュ・フイユ - 魔法使い ナルシストな男性 多世界転移管理局のエージェント。


本話ゲスト:

◇オーガスタス - リュージュ(ソリ競技)の選手

◇カミーユ - リュージュ(ソリ競技)の選手

◇メルビン - ソリ場の管理人

 ボクが多世界転移管理局に正式な入局を果してから、ひと月ほど経った頃、『リュージュ』というソリ競技の選手が起こした事件を捜査することになった。


 "事件"と言うと、実際に異常な犯罪が行われたニュアンスがある。しかし実際には、事件のあと特に変わったところはない。ソリ競技の選手はつい最近まで活動を続けていた。

(過去形なのは今回の事件とは無関係で、後で理由はわかる)


 しかし、選手を取り巻く人々にとってはあまりに恐怖を感じる事件であり、世間を多いにざわつかせた。


 ボクがこの物語の執筆に取り掛かった時、友人たちからはいくつか心配の声が届いた。なぜなら、ソリ競技の人物へは『障害者への中傷である』『不快な思いをした』という意見が出てきたし、そういった意味ではボクも当事者ではないかとハロルドに言われた。


 しかし、ソリ選手の「自らの黒い欲求を解消する手段」として、今回の出来事という形に落とし込んだ――もしくは"昇華"した――ことは、むしろボクは敬意を表したい気持ちであった。

 前回掲載した『龍の落とし子』事件に類似する状況がありながら、ソリ選手はルカ・ドラゴネッティのようにはならなかったのだ。


 ボクは進んで「筆をとらせてくれ」と頼んだ。そんな、ソリ選手2人の物語である。




   *      *




 ボクは管理局に入局したため、特に竜騎士として別途の仕事の入っていない平日は「勤務」することになった。


 書類が2,3置いてあるデスクをどのように自分にとって効率的で心地よい作業スペースに作り替えようかと試行錯誤している時、ルージュ・フイユから1束の書類を追加された。


「異世界転移で人権が奪われている疑惑の浮上している事件が発覚した。調査に出よう」


「お、常駐後初の現場仕事だね」


 こうしてすっかり馴染みになった馬車の移動中の事件確認からはじまった。


「タツキ、『リュージュ』というソリ競技を知ってるかい?」


「『ソリ』はわかるけど詳しい分類はてんで分からないな。ルージュ、君みたいな名前の競技があるんだ?」


 なお、ルージュから説明されるソリ競技の種目や試合は、ボクの生まれの科学世界で、特にスポーツの祭典と言われるオリンピックでも採用されている競技だと後にわかった。

 なので、読者諸君もイメージしやすいだろう。


「遊戯としてのソリは、いわゆるゲレンデを板に乗って滑るレクリエーションをイメージするだろう。しかし、競技としてのソリはチューブ状の細長く曲がりくねった滑走レーンを、超高速で滑り抜けて行くスポーツだ。柔らかい雪というより固められた氷の上を、スキー板とスケートブレードの中間形態の接地面でレーンを駆け抜ける。120から140kmくらいのスピードかな」


「……それ、随分命懸けのスポーツだね」


「ああ。ソリ競技の種類は大きく3つあって、①リュージュ、②ボブスレー、③スケルトン、の3種目だ。まあ今回はリュージュだけ説明しよう」


 ルージュは①リュージュしかここでは話さなかったし、実際今回の事件に関わりがあるのは①だけだが、こうやって項目立てられれば、「②と③も教えてくれ」と思う人がいると思うので、以下に記す。


 リュージュ単体の情報で結構な方は、次のルージュ・フイユの発言まで進んでくれ。


②ボブスレー

 ボブスレーはいわば氷上のスポーツカーで、鋼鉄に覆われたソリの中に複数人で乗る。初速はソリ自体を2~4人で押して推進させ、ソリを走らせながら乗り込む。ハンドル操縦やブレーキ、また複数人の体重移動などでスピードを競う。


③スケルトン

 スケルトンは1人乗りのシンプルな板の上にうつ伏せになって滑る。

 スタートは立位でソリを推して推進をつける。


 そしてリュージュは……、


「リュージュは板の上に仰向けで寝姿勢になって、進行方向に足を向けて滑走する。初動からソリに座っていて、手で氷上を漕いで加速をつける」


「うん、だいたいイメージがついてきた」ボクはウィンタースポーツ自体は好みに近いので、それが観られそうなのは喜ばしい。「しかし、それが多世界転移とどう影響してくるんだ?」


「それを説明するには、もう少しリュージュについて自体を語る必要がある。リュージュは1人競技と2人ペアの競技がある。ペア競技の場合、1人乗りサイズのリュージュソリに、まず1人目が仰向けになって乗り、"その上"にもう1人が頭ひとつ分前方にズレて仰向けに寝そべって乗るんだ。2人目はソリの上というより、1人目の上に乗るんだ(※)」


※ 実際には2人目用の腰掛けが備えられた専用ソリを使うが、観戦者からは1人目の体に乗っているように見える。


「それ、ソリ遊びでテンション上がったアッパー系の人達がハイになってはじめた遊びみたい」ボクは絵図を想像した……シュールだ。


「シュールだよな」ルージュはボクの考えてることを見透かした。「まあ……それでも2人連携による重心移動や足先によるソリ操作、高速のスリリングさの一蓮托生の要素もあって人気なんだ」


「なるほどねー。今回問題なのは、その『ペア・ルージュ』ってこと?」


「その通り。該当者の名前は『オーガスタ』と『カミーユ』という2人組だ。2人は私生活でもカップルだ」


「『2人は』って言ってるけど、競技の特性上、割とカップルは多そうだけどね」


「うーん。実情は分からないな。一応この競技、同性同士のペアがオーソドックスで、オーガスタスとカミーユはどちらも男性だよ」


「なるほど」


「まあ、カミーユは女性とよく間違われるほどの中性的美人なんだけどね。そして隻眼の手話利用者、そして車椅子ユーザー」


「……リュージュなんてやってる場合じゃないんじゃないか」


「まあ、時折死亡事故が発生するレベルの危険な競技だ。でも、それでも彼らやみつきになってやめられないらしい。ソリに直接寝そべる下側はオーガスタ、上に乗るのは、身体が思うように動かなくても身体をパートナーに預けて滑るカミーユ」


「……確かに、障害と向き合いながらスリリングを楽しむのはペア競技の利点か」


「利点と言ってもカミーユくらいしか障害者の立場でソリ競技をやってる人はいないよ。……やっと、やっと本題だ」


 ルージュは手を合わせて身体を前のめりにした。


「そのカミーユとオーガスタスが1ヶ月前、ペア・リュージュ中二事故を起こし、カミーユは身体が"切断"されるほどの事故を負った。誰の目に見ても、カミーユが死亡したのは明らかだった。しかしどうしたことだろう。なんと現場に自警団が到着する前にオーガスタスはカミーユの身体を持ち去ってどこかに行ってしまった。3日前、カミーユは"元の姿"でまたリュージュ場に現れたんだ」

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