表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第1章】異世界転移の悪用:人攫い
24/74

【他称魔王と…】廃墟の冒険 ③

「俺たちは魔王ビオラの歩む方向についていった」


「アーロンは『マジかよ』と項垂れたが、ほかの案がアーロン自身から思いつくわけでもなく、覚悟を決めて俺と共に魔王のあとに着いていった」


「隠し扉を経て、1階の廊下に出た時、アーロンは廊下の壁に掛けられた鏡に気づいた。『こんな鏡、来た時に置いてあったであろうか。鏡全体がくすんでいて、灰色に見える……』」


「『おい、アーロン!』俺は杖を取り出しアーロンに魔法をかけた。アーロンは後方に吹っ飛んでいった」


「鏡からは触手が出ていた。俺は調べようと鏡に向かうと、魔王は俺を抑えて止めた。『あれは人間を石化させる触手。まだ生きたいと思っている人は触ってはいけない』」


「『さっき通った時はあんなのなかったぞ!』俺は言った」


「『分からない、なんで――』魔王が言い終える前に、アーロンが吹き飛ばされた方向から、足音が近づいてきた」


「しかし、音の主はアーロンではなかった。アーロンが異型の触手まみれの生物に取り込まれだんだんと石化していった。『な……あれは、なんだ? 魔獣?』俺には分からなかった」


「『私は、人間だよ』異型の怪物は口を開いた」


「『旧政府の人間どもに石化魔法の技術を教えてやったんだ。あいつらは人間を売買して金銭を儲けたり奴隷を増やしたり、性奴隷で欲を満たすことに苦心していたからな』怪物は得意げに"功績"を語った」


「俺は魔王をちらと見たが、その表情は嫌悪に包まれていた」


「怪物の自白は止まらない。『そこのホムンクルスは、苦しむ人間の人格をどんどん混ぜていったらどうなるか知りたかった研究者が御しきれなくなって暴走した怪物だ。こいつのせいで石化されて苦しみ絶望する人間がとんと見てなくなったのは残念だ』」


「『お前の方がよっぽど人間の原型留めてねーっつーの』……と俺は直接言ってやりたかったが、思うだけに留めた」


「怪物は当時を回想した。『私はそのホムンクルス――今や世間に"魔王"と呼ばれているが――の暴走で逃げ惑ったが、あの《壁面》に触れて開発者である私自身が取り込まれてしまった。しかし開発者として仕組みは知っている。石化される額縁の世界で生きていける"魔獣"へと自分の身体を改造したのだ……おかげで《壁の中》から時折生きて取り込まれ石化していく人間を感じられて絶頂ものだったぞ』」


「魔王は異型の怪物に嫌悪の眼差しで睨んでいたが、だんだんと絶望の色が混ざってきた。『弔った人間は……』」


「『ああ……表面が石化した後中身は美味しく頂いたよ。この魔獣の身体になってから、人肉が美味しく感じるなあ〜。さっきの"アーロン"っていったか、彼もちょうど今食べ終わったところだ』」


「化け物の側面に取り込まれたアーロン姿の"石"が、異型の触手で叩かれ崩れた。中身は空洞であり、いくらかの肉片がくっついていた」


「怪物は忙しなく、恍惚の表情を浮かべたかと思うと俺たちに怒りの表情を見せた。『そのまま続けば良かったのに、そこの管理局だかなんだか知らない奴らが調査して石化魔法を食い止めるだって? 絶対絶対ぜったいぜったいゼッタイゼッタイゼッタイにそんなことはさせん!!』」


「異型の怪物が魔王ビオラ目掛けて攻撃してきた。しかし、臨戦体制の魔王の目の前で直角に触手が曲がり、標的を瞬時に変えて俺に突っ込んできた」


「『まずい!』魔王が触手を引きちぎると、両手がどんどん石化していった。『あ、あああ』」


「俺は魔王に呪文をかけた。『στάση(止まれ)!』これは状態変化などを一時的に停止させる呪文だ。魔王を抱えあげて廃墟入口まで一目散に駆け抜けた」


「出口が見え、全速力で逃げるが触手がどんどん近づいてくる。触れそうになる瞬間、空から巨大なドラゴンがある女性を載せて廃墟に突撃してきた」


「そこからは、ボクが見た光景通りか」


 ルージュの冒険を一通り聞いたあと、ボクがカエデに『彫像に近づくな』と題された紙切れを渡されてからの経緯をルージュにきかせた。多分魔王も聞いていただろう(手話、わかるのか?)。


「もう少し詳細のわかる文面であって欲しかったよ」少し柔らかくルージュに提案した。


「……管理局の極秘調査だったから、どこまで伝えていいか迷ったんだ。それに、君に『絶対フィンア帝国には行くな』と伝えることも逆効果に感じたから……でも。結果的にフィンアに来てくれていて大いに助かった。本当に危機一髪だった」


「ルージュ、改めて決意した。ボクは正式に多世界転移管理局に入局するからな」




   *      *




「……その化け物、どうするんだ。野放しで良い訳ないだろ?」ボクはまだあの怪物が廃墟の中を蠢いていると思うと、一刻も早く退治すべきだろうと思った。


 ルージュは返答せず、思案して部屋の中を歩き回った。魔法大学の時代から、時折ルージュはこうやって考え事をする。止めずに見守るのが良いと眺めていたが、代わりにビオラ・ガーベラが起き上がったことで"歩き回り"は終わった。


「もう、大丈夫なのか」ルージュはビオラに言った。


「ああ。それに、悠長にしてられる状況でもないだろ?」


 そうしてビオラは手を握ったり開いたりすると、手の平野石化した部分がポロポロと剥がれ、ほとんど肌が露出していた。


「多分、あいつが強力過ぎるのは」ビオラがボクたちに考察を伝える。「別の世界から、魔力と養分を無尽蔵に吸い取ってるからだと思う」


「……確かに、そもそもの『石像の事件』はパラレルワールドから連れて来られた人間で石像が量産されてることが発端だ。どこかの並行世界を植民地みたいにしてるのか」ルージュはさらっととんでもないことを言った。この推察は事実だ。


「石像とは別ルートで作られたホムンクルスが私だから、よくわかる」


 ビオラの発言にボクとルージュは押し黙るしかなかった。


「『向こうの世界にいって、反対側から"パス"を切る』とか?」ルージュは独り言のように考えを語った。


「ルージュ、できるの? そんなこと」ボクは言った。


「……できるな。2人とも、多世界転移管理局に来てくれ」




   *      *




 ボクは何度か管理局の来客室には入ったことがあったが、建物中央に位置する『儀式場』に足を踏み入れるのははじめてだった。


「う……自分がこの世界に召喚された時を思い出すね」ボクは数年前、初めてこの世界に転移した時のことを思い出した。


「大丈夫?」ビオラはボクに聞いた。


「まあ、召喚した張本人とはその後も会話したからね。ここ一年くらい会ってないけど」


 少しの間儀式場で待っていると、管理局局長がボクら3人の前に現れた。


「ルージュ、調査・報告ご苦労であった。そしてパラレルワールドへの転移の許可が出たぞ」


「そこで許可が出ないと、この管理局の意義が薄れますよ」


「タツキくん、久しぶりだね」


「ご無沙汰してます、ロバート局長」


「魔王ビオラ・ガーベラくん、はじめまして」局長はビオラにも挨拶した。


 彼女はボソッと「くんって呼ばれた……」と言った。「あの化け物を倒せる?」


「できるできないではなくやるしかないだろう。フィンア帝国に出現した石化の怪物は放っておけばいずれ世界に災害をもたらす。一刻も早く討伐せねば」


 ロバート局長は儀式場の床一面に描かれた魔法陣中央に3人を立たせて、詠唱をはじめた。



 

「Τώρα ο μάγος δανείζεται τη δύναμη του δράκου και το μεγαλείο του Φοίνικα......(今、魔法使いは龍の力と不死鳥の威光を借り……)」


 詠唱後、ロバート教授は魔法陣に色とりどりの宝石を散りばめた。


 宝石と魔法陣が触れた瞬間、魔法陣の周りに霧が発生し、中央の3人、ルージュ、ビオラ、そしてボクを覆った。






 数十秒後、霧は晴れていった。儀式場の光景はなく、辺り一面が雪に覆われた極寒の地の森の中にいた。


「寒! 雪化粧か」ルージュは辺りを見回した。「雪国で建物が近くにないと、世界が変わっても視覚変化を感じずらいんだよな」


「でも、あそこに生えた電柱……鉄骨の柱とそこに貼られた電線は科学世界って感じするでしょ」ボクは6年振りの科学世界を懐かしんだ。


〈それじゃあ、お互い手筈はいいな?〉ルージュはコートの中に手を入れて、わざと"見えずらく"手話でボクとビオラに合図を送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ