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【他称魔王と…】車椅子の騎士 ①




   /車椅子の騎士




「足欠損の人が、車椅子を使って戦ってるところを想像しなよ」


 車椅子に乗り剣を持った女性は、床に這い蹲る男を見下ろした。


「私がいる世界ではさ〜、パラスポーツって言って、『障害者スポーツ』なんて言うわけだけどさ」


(――――!!)


 男の声は女性に届かない。


 "鏡の向こう"の女性が、話を繋げる。

「『私の国』である"フィンア帝国"では居酒屋前の街中で民衆が野次馬になって決闘を眺めるんだよ。まんま『見世物小屋』じゃあないか。随分違う歴史の変遷だと思わないか?」


(――――!!)


 男がまた何か叫んでいる。命乞いかもしれない。


「ダメだダメだ。化け物は生きてきゃあいけない。見た目じゃないよ。中身が化け物なんだ。化け物のお前の言葉に意味はひとつもない」


 足のない女騎士は、2本の『レイピア(片手剣)』で男を突き刺した。




   *      *




 いきなりクライマックスの場面を描いてから物語冒頭に戻って綴るということをやってみたかったのだ。

 車椅子の女性は誰だろうか? 前回までの彫像の事件とどう関係があるのか?


 話は数時間前からはじまる。






「……ここがビオラがいた世界か」

 ボクは人生で2度目の異世界転移を経験した。


「正確には『素材になった魂たち』だね。この世界は魔力が乏しい」ビオラは少し訂正した。


「雪国かと思ったら、少し移動してみれば随分街並みの印象が違うな。機械化? がすごいのは、魔力がない分別のエネルギーで補っているからなのか。電力とか?」

 ボクはキョロキョロとあたりを見回した。近くには風車があった。


「あの風車、結構距離あるのにすごい音だ。あれだけ大掛かりなものを機械仕掛けで作るのか」

 ルージュは関心そうに風車を眺めたが、ビオラが手招きしたためそちらに移った。




 ボクは「科学世界」出身だが、辿りついた先は出身世界線よりも「機械の発展」が進んでいるようだった。


「この画面に近頃の"ニュース"が流れるんだ。いっぱい並んでるのはこの画面が"商品"で陳列されてるから」ビオラは『テレビって言っても伝わら無さそう』と思ったそうだ。


 ボクはTVを知っているが、下手に言及して"分からない"ものが出てきた時面倒なので、ルージュと一緒に話を聞いた。


 "ニュース"が流しっぱなしにされていた。


『――やはりですね、VRを規制すべきですよ。こんな酷い事件が多発しているんじゃ』


『いやいや何言ってるんですか。VRが原因で"バラバラ死体"になる訳ないじゃあないですか。本質を見失ってTVゲームを批判すしてるようなものです――』



「バラバラ死体……」ルージュは気になった単語を抜き出した。「こっちでも話題になっているようだね? でも原因が『ドッペルゲンガー現象』とは気づかれていなさそうだ」ルージュは直接画面に映ったモザイク画像をつついた。


「画面に触るべきじゃあないんだけど、まあいっか……。ルージュ、タツキ。VRっての、説明した方がいい?」


 ボクとルージュは頷いた。「頼む」






 ビオラはTVが並んでいるコーナーから、ゲーム売り場に移った。


「こういう、ごついゴーグルを被ると、さっきのニュースが流れた画面と同じ原理が両目のレンズで起こっていて、実際に自分が立ってるこの空間と"別"の空間を体感出来る装置なんだ。実質的現実(Virtual Reality)の頭文字でVR」


 ボクはビオラに渡されたゴーグルを被ってみた。


「――まるで、魔法を使わない異世界転生だね」


 ビオラはボクからゴーグルを返してもらい、ルージュに差し出した。「ほら、ルージュも見なよ。……そのゲーム宣伝ポスター、気になる?」


 ルージュが見ていたポスターのゲームは『パラスポーツがVRで出来る!』と書かれたものであった。車椅子に乗った人物が、片手剣を持って構えている。


「偶然だと思う? タツキ」ルージュはポスターの騎士を指差した。


「……まさか。どこかしらに"因果"がないと、ここで彼女には出会わないでしょ」


 ポスターには、『オンブル(カードゲーム)復讐事件(※)』で被害にあった、ピエレッタ・グノーが写っていた。


※『テーブルは三角形』




   *      *



 

「この世界における『パラレルワールド』へのダイブ装置と――」ルージュがでかいゴーグルを観察した。


「VRね」とビオラが補足する。


 ルージュは訂正を受け取って続きを言った。


「――VRと、以前無理やり俺らの世界に転移させられたグノーが一緒に写っている……これは調べないといけない。VRを使えばすぐ会えるのか?」


「VRは、視覚情報と音声情報だけの共有装置で、当人がそこにいる訳じゃないから、何かあった時に直接対処ができない。めっちゃすごい機械仕掛けだけど、基本は『手紙』の延長線上の代物だ」


「しかし、バラバラ死体がみんなVRを使っていたということは、本来リンクしないはずの"何か"がリンクしてしまったということなんだろうな?」


「だろうね」


「……とにかく、グノーに会おう。ここまで宣伝ポスターに写ってるってことは、居場所も突き止めやすいはずだ」






 ボクたちは居場所をすぐに突き止めたが、グノー本人が出会って"どう思うか"を考慮していなかった。


「お、おおおおおお前ら!! 足がちぎれてしまった事件の当事者野郎ども! あれでどれだけ大変なリハビリ生活が待っていたことか!」


 グノーは片手剣をルージュに突き立て威嚇した。


「落ち着いてくれ! 俺たちは敵じゃあない。ただ、また悪いやつがこの世界の人間に危害を加えようとしている。それを阻止したいんだ」


「……わかってるさ、お前らが、特にそこの槍を携えた女性が私を助けてくれたってな。でも、この世界は魔法とか超常現象は信じられてないんだぜ? 一体どれほど私が電波と思われて周りの人間から辛い対応をとられたか」


「人間を基本恨むスタンス、わかるぞ」ビオラは隣にいたボクが辛うじて"読める"唇の動きで賛同した。発声はしなかったようだ。話が拗れる。


「……いいよ、理屈ではわかってる。ただ、モヤモヤを実際にぶつけて晴らしたいんだ。剣戟で」


 グノーは剣先をルージュから竜騎士ドラゴネッティであるボクに替えた。


「……いいでしょう。竜騎士として真摯に受けて立ちます」

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