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【他称魔王と…】廃墟の冒険 ②

「俺は急いでもう1人の局員アーロンと合流し、廃墟に忍び込んだ」


「『なあルージュ、ほんとに大丈夫なのか? この文書自体が偽造で、罠に誘い込まれてるんじゃあないだろうな』アーロンは怯えた様子だ」


「『筆跡は本人のものだ。魔法で細工された痕跡もない。ただ本人が脅されたか操られて書かれた場合はやばいな』」


「『う……書いてある内容通りと信じるしかないか。壁に気をつけていれば避けられる程度であると。アイツ (ロビンソン)が助からないことも、同時に認めることになっちまうが』」


「しばらく、建物の階段を登っていく。最上階である3階を探索すると、資料室の棚裏に隠し扉を見つけた。『ここに扉に鍵が壊され捨てられている。ロビンソンなら魔法で解除しそうだ。廃墟だから、ほかのやつが冒険心で入ったか?』俺は当てずっぽうで推察を語ったが、実際には魔王……あちらのビオラ・ガーベラが開けた物だとわかった」


 ボクとルージュはビオラ・ガーベラなる魔王らしき女性とは少し距離をとって話し込んでいた。ビオラを別室に控えさせるのは気が引けたが、かと言ってビオラを休憩させるために目の前ですることも避けたかった。なので、こういう距離感になった。


「奥に付き進むと、テニスコート分はありそうな広間に繋がっていた。前方の壁一面に、何体もの彫像が"レリーフ"の状態で埋め尽くされていた。『今まで犯罪捜査でいくつか悪趣味なものを見てきたが、もしかしたらこれがワースト1位かもしれない』アーロンは言った」


「俺は魔王のことを思い出した。『もしやこれも魔王の仕業か?』とも思った。しかし、部屋の残りの三面に目を移した瞬間、その考えは覆された」


「『――ホルマリン漬けされた魔王の身体が、10、20……30体は横ならびに配置されている』俺はアーロンに気づかせるため状況を伝えた」


「『なんだこれ。魔王の身体の、スペア? 石化魔法や彫像とどう関係があるんだ?』アーロンは言った」


「『おいアーロン、彫像だけじゃなくてそっちのカプセルにもむやみに近づくなよ。一旦この部屋を出よう。魔王がやばいと思っていたが、旧政府自体がめちゃくちゃきな臭い気がしてるぞ。俺は』そうして隠し扉に向かった時、ふたりは絶対絶命のピンチを感じた」


「『あ、生きた人間がここにいる』ビオラが入口付近に立っていた。羊を思わせる角を生やし、竜のような尻尾を引きずって入ってきた。手には、先程魔王城に向かった冒険者の首を持っていた」


「『魔王、本人か――』俺は、死を覚悟した。アーロンも同じだったろう。2人とも杖と魔道書を取り出した。ただ、俺はあることに気が付き一旦構えた杖をすぐに下ろした」


「『な、ルージュ、なぜ!』」


「『……魔王は俺たちを見ても敵意を示さなかった』最初は感情の読み取れなさが不気味だったが。『俺たちが交戦体制になった時、悲しそうな顔で魔王も構えをとったのを、見逃さなかった』俺はアーロンと魔王らしきビオラ、2人に伝えた」


「俺はアーロンから魔王にしっかり視線を移して続けた。『あなたは、私たちに戦う意思がなければ攻撃してこない。違いますか?』」


「魔王は目の前に突き出した手を下ろし、冒険者の生首を彫像の前に置いた。『私が攻撃をするのは《正当防衛》の時だけ。力加減が分からないから、ほとんどの場合相手が死んでしまう』淡々と答えた」


「『この彫像はあなたが?』俺は言った」


「『これは私が生まれた時から存在した。《死んだら身体は美しい石像とする》と研究員が語ってた。相手から攻撃を仕掛けて来ても、やっぱり弔ってあげるべきかなと思って、この墓に入れてあげてる』」


「『ぜ、善意だって……』アーロンは混乱して、思ったことを声に出していた」


「『? 弔いは悪意でするものではないでしょう』ビオラは不思議そうに返答した」


「『アーロン、横槍を入れるな』俺は一旦ビオラともっと落ち着いたやり取りが必要と考えた。『《生まれた時から》と言っていたが、どこで、いつ頃生まれたんだ?』」


「『この施設で生まれた。そこのガラスが割れて中身の入ってないカプセルから。いつからかは分からない。気づいたらカプセルの水の中で研究員が色々と私に実験をしていた。やめて欲しかった』」


「『カプセルから出た理由は?』」


「『生まれた人間に《どうして生まれたの?》と聞いているような質問だと思う。上手く答えられない。ただ、私は異世界から何人もの人間の魂……それも恨みを持って死んでいく直前の魂をごちゃ混ぜにして作られた。カプセルから出てしばらくは理性などなかったかもしれない。思い返して見ればただ怒りを全方向にぶつけていた。気がつけばここで働く研究員全員の身体がバラバラになっていた』」


「俺とアーロンは情報の多さや、あまりの想定外の自体に混乱していた」


「何とか俺は声を絞り出した。『今、色々と困っているのだが……俺は人間が不審死した出来事を調査する専門職の人間だ。あなたが話した内容が事実かを、周りの資料などを用いて調査したい。しても構わないか?』」


「『私自体に危害を加えようとしたり、命を弄ぶようなことをしなければいいよ。あと、拘束されるのは絶対に拒否する』ビオラは言った」


「『そうか……その、こっちにいるアーロンを一旦帰国させて、俺の活動国クヴァンツから仲間の調査員や必要な道具を色々持ってきたいんだが、いいかな?』」


「『それは嫌、そこまであなたを許してないし、"ここ"の研究員のようなクズでないという保証がない』」


「『そうだよな、そうだよな』俺は悩んだ。おそらく、魔王と対峙した時ただ『逃げさせてくれ』と言えば逃げられただろう。しかし、今はもうそういう空気じゃなくなってしまった。ここで帰らせてくれと言っても不信感が募るだろう」


「俺は素直な心が一番だと考えた。『今から魔王城に招いてくれないか? そこで色々語り合いたい』」


「魔王は少し目を見開いたあと、また元の無表情に戻った。『いいよ、着いてきて』」

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