【他称魔王と…】廃墟の冒険 ①
/廃墟の冒険
ルージュは、多世界転移管理局の任務で。フィンア帝国には極秘である調査をしに来ていた。
「俺は昨日、フィンア帝国東部の宿舎で調査書を読んだ。内容は以下の通りだ」
『先月から、制作された彫像が"自分と瓜二つ"なことに不信感を持った市民がより近づいて確認しようとして、身体が突如四散したという事件が複数発生。管理局が把握しているだけで10件にのぼる。フィンア帝国はこの事実を隠蔽。多世界転移管理局はフィンア帝国と協定を結べておらず公式の介入はできない』
「異世界転移で、別世界からこの世界に連れてきた人間を"石化"させて彫像を大量生産していると俺は考えた。金儲けのためか、異状な性的欲求か。調査書の続きには、今回の任務のノルマが書かれていた」
『今回の遠征は1週間、とにかく情報を集め持ち帰ること。自力で解決出来そうな場合連絡を局に送ってから行動に移すこと』
「ハロルドは新米すぎて携われない、タツキ、君は……流石に極秘任務には巻き込めないと思った」
「……何時でも呼べ。ボクはこの事件が解決したら管理局に正式に入局してやる」
ルージュはただ申し訳なさそうに視線を落として、続きを語った。
「今回は事件解決よりも情報収集がメインだったので(解決できるならしたいが)、俺と、ほかに同じ等級の管理局員2人と調査に乗り出した。2人の名前は『アーロン』と『ロビンソン』。……2人ともこの後の調査で死んだ」
「今朝、ほかの管理局員が街中で情報収集をしている間、俺は『バーデン・ルコピック山』の麓にいた。『そもそも、現魔王が前政府を虐殺してから、事業引き継ぎとかを全くしてないことが原因なんだよなあ』なんてボヤキながら辺りを散策していた」
「『君、魔王討伐に挑戦するのか?』魔王城を見上げて眺めていると、鎧姿の冒険者のグループが話しかけてきた」
「『いえ、自分は建築家で、城の構造に感心していたのです。城の主に感心できるかは別問題として』管理局員と名乗っていいか悩んだ俺は、大学で学んだ科目の一つを咄嗟に語った」
「『ああ、あの魔王は前政府の要人を虐殺し、一般市民も数百という命が犠牲になった単独クーデターの張本人。何故か政府の生き残りに実務を丸投げして社会の仕組みはそれほど変わってないが、国内の犯罪件数は全体的に増して、魔法犯罪の歯止めもきかなくなっている。我々が魔王を打ち倒しフィンア帝国を取り戻す。巻き込まれないよう今のうちに逃げるんだな』そう言って森の中へ入っていった」
「多分あの力量じゃ返り討ちにされるだろうなと思って、森に背を向けて立ち去ろうとした。すると、空から一羽の八咫烏が俺目掛けて突っ込んできた」
「『うわ! ……このカラスは、ロビンソン(今回の管理局の調査員の1人)が手懐けていたペットだ』俺は言った。足に紙が折られて結ばれている。ロビンソンが伝書鳩のようになにかを伝えにきたのだろう」
「俺は文書に書かれた内容を読んで、息を飲んだ」
「『XX番地の旧政府管轄の研究施設廃墟、要調査。人を石化させる"壁"に注意。私はもう助からない』ロビンソンより」