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【他称魔王とルージュ】彫像に近づくな ①

登場人物


レギュラー:

◇タツキ・ドラゴネッティ - 竜騎士 一人称ボクの女性 語り手 ろう者(耳の聞こえない人)。

◇ルージュ・フイユ - 魔法使い ナルシストな男性 多世界転移管理局のエージェント。

New!◇バイオレット・"ビオラ"・ガーベラ - フィンア帝国を支配する魔族


本話ゲスト:

◇美術工房の主 - 彫刻祭を教えてくれる

◇ロビンソン - 多世界転移管理局の局員

◇アーロン - 多世界転移管理局の局員




   /彫像に近づくな




 ボクはこの頃国内のクヴァンツ王国だけでなく、隣国のフィンア帝国からも依頼を受けることがあった。


 フィンア帝国と言えば、昨年に『魔王』による前政府関係者の9割、及び一般人数百人が虐殺される大事変があった。それ以来、フィンア帝国は魔王「ビオラ・ガーベラ」という魔族によって支配されている。


「やっぱり、フィンア帝国には行かない方がいいんじゃないの?」ルージュ・フイユの妹のカエデ・フイユに国境付近で見送られていた。


「それは魔王が理由?」ボクは聞いた。


「うん……」


「尚更、ボクはフィンアの国民のために行くべきだ」


 魔王が統治をはじめても、思ったほど国内の政治に変化はないらしい。というのも、内政を政府の生き残り、残り一割に丸投げしているのだ。しかし、上官などはみな殺され、残ったのは下級管のみ、手の回らない、運用の分からぬ内容も多く、国内は結局てんやわんやだ。


「魔族や魔獣の破壊活動も活発化してるっていうし」


「だからこそだよ。魔族は(吸血鬼やゾンビなど)……ともかくとして、魔獣の対処はボクの専売特許だ。フィンア帝国住民の生活のために、微力ながらも魔獣退治という形で貢献したい」


「……わかった」カエデは鞄からある封筒を取り出した。「ルージュ兄が預けてきたんだ。『どうしてもタツキはフィンア帝国に行くと言うだろうから、その時はこれを渡しなさい』ってね」


「ルージュが!」


 ボクは封筒を受け取って、中身を開けた。カエデも文を共に読んだ。



『題:彫像に近づくな

 彫像に関係する、《ドッペルゲンガー現象》が複数件報告されている。フィンア帝国政府はこの事実を隠蔽。昨今の情勢も相まって非常に危険。彫像に近づいてはならない』



 簡素にこう記されていた。


「カエデ、他になにか言伝られてないか?」


「ただ、渡すように言われただけで、文意は私にもさっぱり……」


「そうか。…大丈夫。ルージュの言うことだ、絶対に重要さ。ここに書かれた内容は守る」


 ボクはカエデとハグをして、手を振る彼女を背にフェンア帝国へとワイバーンに乗って飛び立った。




   *      *




 フィンア帝国で特に飛行中気をつけるように言われるレッドスポットは、国のおおよそ中央にそびえる黒い山『バーデン・ルコピック山』と、そこの斜面に建設された魔王城である。


 大虐殺の行われた数日後に、壮大なオルガン曲がバーデン・ルコピック山とその周辺で鳴り響き、一夜にしてこの城が建てられたのだ。

 音楽というのは時に大魔法の道具に使われるが、魔王がいかに強大な力を持っているのかを虐殺以外で知らしめたもうひとつの事例である。


「……この城の周り、近寄っては観察出来ないんだけど、どうにも巨大な魔獣が2、3頭大人しくしているだけで、あとは魔族なんかも見えないんだよな」


 10mはありそうな魔獣が城の隣にいるが、あれが下山したという話は聞いたことがない。ただし、時折山の中で叫び声が聞こえるそうだ。






「ありがとうございます! 竜騎士のお方!」


「いえいえ、これで安全に農作業できますね!」


 依頼を受けた件数は5件、ずっと周囲を警戒しながら魔獣退治を行っていたが、4件は驚くほどあっさり終わった。農家の土地に住み着いてしまった邪蛇を退治して、残るは1件、美術家の工房だった。


「う……」今までの4件は"たまたま"特に問題がなかったのだろうか。5件目の工房は、彫刻が至る所にあった。


「おや、竜騎士さん、彫刻祭を知らないのかい?」


「はい……クヴァンツ王国にはない風習でして」


 依頼主は工房の長のようで、分かりやすく『彫刻家』というような出で立ちをしていた。

 これは後日知ることになるのだが、クヴァンツ王国では『美術家』とは絵画専門の人を指す呼び名で、フィンア帝国では音楽を分けた『絵画、彫刻、陶器具』などを広く指す言葉だったのだ。


『彫像に近づくな』


 ルージュの声(ボクは聾者なので、口パクだが)がこだまする……。


「竜騎士さん、おつかれかい?」依頼主に顔を覗かれた。


「あ。いえ……スー、はい」ボクは彫像のことはともかく、ほかの理由を取り繕って発言すべきと判断した。「ボクの声は魔道具で生成されるものですが、ちょっと今日は慣れない土地で働きすぎて魔力消費が激しいですかね」


 ボクは自分の発言の遂行をする余裕なく、如何に彫像に近づかないようにするかをぐるぐる考えていた。


「それじゃあ、工房の中でしばらく休憩するといい」


「あ、その!」ボクは失礼を承知でわがままを言わなくてはならなくなった。「実は、彫刻、苦手でして、その、仕事を引き受けたのに、美術家の工房と聞いて、絵画しか印象になく……その、すみません!」


 ここまでしどろもどろになる経験は"この世界"に召喚された時以来だ。(実はボクは転移者であるという事実を、読者は覚えているだろうか?……今記録しているこの事件とは関係ないのだが)


「ああ……それはそれは。うむ、それなら彫刻のない部屋にお招きしよう」


「あ、ありがとうございます!」


 ここまで来たら、『彫像に近づくな』の真意を何がなんでもルージュ・フイユから聞き出さなければならない。

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