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テーブルは三角形 ④

 脅迫状に記された日付当日。


 ボクは手筈通りカエデ・フイユに変装して、ギルマン邸に馬車で到着した。


 上空ではハロルドが魔法大学で飼育していたヒッポグリフにカエデと共に乗馬(乗鳥)している。


 ルージュは、裏手から館に忍び寄った。






「こんにちは、小賢しい"名手"のカエデ」


 コルサコフには事前に手紙で声が出せぬ状態と伝え、伝達魔法による機械音声か"筆記"かを選ばせた。


 当然、"筆記"が選択された。魔法を使われるわけにはいかないのだろう。


 ギルマン邸に入ると、廊下には地下へ続く隠し扉があった。


(ルージュ、ちゃんとこの扉を見つけてくれるだろうか)ボクはそんなことを考えながら、おそるおそるコルサコフについていき階段を降りた。






 地下の一室、鎖に繋がれてうなだれているグノーの姿があった。


 部屋の線対称の反対側には、鏡写しのようにもう1人の(おそらくパラレルワールドから無理やり連れてこられたであろう)グノーがうなだれていた。


 写真では足が"崩れた直後"のようであったが、今は左腕も崩れかかっている。


(数時間、同室に「ドッペルゲンガー」が一緒にいては、心身ともにどんどん壊れていってしまう)まだ機は訪れていないが、ボクの心は焦っていた。





 オンブルを行うための専用テーブルには、既に1人、怯えた表情で座る髭面の男がいた。


 本来の家主、ギルマンである。


「オンブルを行うならこの三角形のテーブルで行うのが"志向"、3人がそれぞれ一辺に隣接して座るのだ」


 コルサコフは『知ったか』をして机をコンコンと指先で叩く。本気で志向と思っている人間ならばグノーに逆恨みなどしない。


〈これを用いるということは、3人で行いグノーは参加しないと言うことか〉ボクはスケッチブックに記した。あえてだ。


「"一緒に手を組めるか"気になっているのか? 強かなやつだな。ここに吊るした魔道具を見よ!」


 天井には、多きな天秤が吊るされていた。


「豪邸ひとつ立つような値段だ……しかし既にお前らのせいで破産した身、外法を重ねてやっと入手したわい!この天秤の下でイカサマをしたものは内蔵が順番に潰れていき、苦しみ悶えてじわじわと死んでいくのだ! その姿を見せてくれるならどうぞイカサマをすればいい! おいグノー、手はまだ動くだろう、席につけ!」


 グノーは無理やり引っ張られて席に座らされた。


(ごめん、グノー。もう少しの辛抱だ)ボクは思った。


「ギルマンはカエデ・フイユとグノーの間に立っておれ! 1ラウンド事に1人席を立つことになる」


◇席順

南:コルサコフ

西:ピエレッタ:グノー

北:ギルマン(休み)

東:タツキ(カエデ)


 コルサコフは鼻息を荒くしカエデ(に扮するボク)にガン飛ばしながらカードえおシャッフルした。


(この男に天井の天秤を"自分にだけ効果が出ないように"改造するだけの脳があるだろうか?)ボクは注意深くシャッフルしているのを見て、イカサマはされていないと判断した。






◇第1ラウンド

単独プレイヤー→コルサコフ

勝者:コルサコフ


「ふん、愚か者が。やはりイカサマなしでは"手も足も"でぬか」


 ボクはグノーの方を見た。普段なら間違えないカードリード(場に札を出すこと)にミスが目立った。こんな状態で「ベストなプレイをしろ」など無理な話だ。






◇第2ラウンド:

南:コルサコフ

西:グノー

北:ギルマン

東:タツキ(休み)


 ボクは席を立ちギルマンに譲る。


 ギルマンはコルサコフに恨まれた過去の試合の皮肉を浴びせられた。体をさらに縮こめたが、グノーのことは無視できなかったようだ。


「彼女、手札を持つのもやっとのようだ。手札を持たずに保持する台を用意してあげたらどうだ」


「つべこべ言わずに単独かチームかの入札をしろ! お前が手札も持てなくなるぞ」


「ひっ」


 そうしてオークションが始まると、グノーが今までの弱った顔から、覚悟を決めた、まっすぐな顔になった。


「ソロ・オール。手札全て余すことなく全勝する。1枚も取られない」


 グノーのこの発言にはコルサコフもギルマンも、ボクでさえ驚愕した。成功すれば以降のラウンドに負けても釣りが来るほどの一番勝負。負ければ破産真っ只中。


「は。ははは、こりゃいい、ついに自暴自棄になったか、あの天下のグノーが堕ちていく様をみるのは最高に気分がいい!」


 絶頂でも迎えたように気持ち悪く恍惚になっているコルサコフが仰いだ隙に、グノーはボクを――グノーにとってのカエデを――凝視した。


「彼女を、助けて、逃げろ」アイコンタクトと口パクでボクに伝える。一瞬移した視線の先には、もう1人のグノーが壁に体を預けていた。


 ボクは瞬く間に走り出した。しかし、壁際のグノーにではない。


(もともと、ルージュとの相談でこうする手筈だった)


『4人ゲームでは1人休みになる可能性が高い。試合展開をみて、自分の手番が休みの時に試合が動いたら、そのタイミングでコルサコフを仕留めるんだ』こうルージュに依頼された。


「な!」


 ボクはコルサコフに飛びかかった。竜騎士の腕であれば、素手でも成人男性1人を仕留められる。




 しかし――、


「かかったなアホが!」


 オンブルの卓に座るギルマン氏が、手錠を取り出しボクの手首にかけたのだ。


「貴様! コルサコフとグルか!」


「気づいてももう遅い!」


 ギルマンはポケットに忍ばせたボタンを押した。壁に立っていた書棚がスライドし、隠し扉が開いた。


「ドッペルゲンガーがグノーだけかと思ったか!?」


 嘲笑うように宣言し、扉からある人物がボク目掛けて吹き飛ばされてきた。


 カエデだ。パラレルワールドの。


 そうして、ボクと衝突して、『ドッペルゲンガー現象』で、穴ぼこチーズのように体が崩れて……行かなかった。当然だ。


「な、なぜ」ギルマンはわけが分からないと言った様子で狼狽えていた。


 ボクは手錠のかかってない方の手で被っていたウィッグを剥ぎ取り、カラーコンタクトを外した。「別人……それだけ」


 男2人が呆気に囚われている間に、地下入口の扉が蹴破れた。


 ルージュとハロルドがコルサコフとギルマンを取り押さえた。ヒッポグリフも入ってきて、グノーを1人抱えた。


 ルージュはボクに言った。「カエデはここに来れない。ヒッポグリフにグノー1人乗せるから、パラレルのカエデとグノー、2人を任せられるか? タツキ」


「当然」


 こうして、被害者全員を救出し、犯人を捕らえて館から脱出した。




   *      *




「しかし、ギルマンが共犯者だったとは。しかもルージュ、君は気づいていたようじゃないか」帰り道の馬車で、ボクは疲労でぐったりしながらルージュに聞いた。


「気づいたのは直前だったさ。ギルマン邸に亡き奥さんの映った写真があった。奥さん、両手両足が無かったんだ」


「……まて、先は聞きたくない。またか。また(※)異常性癖の犯罪か」


※第1話『竜人は作られた』のこと


「グノーには話さないように、コルサコフの建前の動機だって悲惨なんだ。彼女の今後の人生は大変なのは目に見えているが……。精神の負荷をこれ以上かけたくない」






 こうして、三角形のテーブルで繰り広げられた駆け引きと醜悪は幕を閉じる。


 パラレルワールドから連れてこられた、足を失ってしまった哀れなピエレッタ・グノーは、おそらく交通事故という体になって元の世界に戻されるだろう。彼女の話を聞いたところ、「科学世界」から連れて来られた人間だったからだ。


 もし機会があれば、彼女の今後のことを別途記せるだろう。

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