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ドッペルゲンガー:異世界転移は人攫いの手段  作者: デューク・ホーク
【第1章】異世界転移の悪用:人攫い
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テーブルは三角形 ②

「一応、妹の認識が合致してるか確かめるぞ」馬車の中で、ハロルドがこれまでの経緯を語ってくれた。

(今回の馬車はペガサスではなく通常の道路を走る馬車だったので、余裕が多少ハロルドにもあった)


「ルージュ・フイユの妹カエデは、クヴァンツ王国の首都グリーンリッターの地で名を知らぬものはいないほどのトランプカードゲーム『オンブル』の名手である。貴族の社交界の間で金銭を賭け、3人で行うこの『オンブル』というトランプゲームは、専門誌で毎日選手の成績が張り出される程首都全体の流行になっており、もはや文化となりつつあった」


「実はね、そのオンブル専門誌の購読者だよ、ボクは」


 ハロルドは一瞬驚いた顔をした後、納得のいったように続きを話した。


「なるほどね。だから妹を知ってたのか、タツキ。その戦略カードゲームの名手とあれば、カエデは『首都グリーンリッターの顔』と言えるような存在だ。ルージュは私に説明してくれたよ」


「『だからこそ、唯一の親族である俺がメディアに追い回されたり、管理局の仕事に支障が出ないように兄妹であることは一切外に出さなかった』ってね」


「私はルージュと大学時代からの付き合いであったが、妹の存在を知ったのはおよそ一時間前だ。まあ、大学時代に聞けば教えてくれただろうが、機会がなかったね」


「脅迫状を持ってカエデ・フイユは大慌てでルージュの元にやってきた。文章はこうだ」


 ハロルドは脅迫状の写しをボクに手渡した。この記事冒頭に掲載したが、再度ここに記す。


『拝啓、カエデ様。この度、ギルマン家の邸宅にて催される『娯楽殺人集会』に参加して頂きたく、筆を執らせて頂きました。"オンブル"の名手である貴方は当然参加していただけると存じます。日時はXX月YY日ZZ時。くれぐれも時間厳守でお願い致します』


「カエデ・フイユは写真も一緒に持ってきた。写真の写しはここにないが」


 彼は紙切れに簡易的に描いてくれた。彼は絵心があるので、状況は容易に想像出来た。


「友人の両足切断か。むごい……」


「焦燥した様子のカエデを管理局の応接間に通して、話を聞くことになった。カエデは写真を見つめて語った。

『写真に写っているのは、同じオンブル仲間の『ピエレッタ・グノー』です。プライベートではなく、公共の場の交友関係では一番関わりの大きい人です』」


「『プライベートではなく?』」ボクは気になった箇所を反復した。


「私もカエデの言い回しに"含み"を感じたが、一旦話の続きを聞くことに集中した。カエデは言った。『グノーはフェンシングの大会でも名を馳せている人物で、"文武両道"という言葉が似合っています。そんなグノーが、あ、足を切断されて。むごい……。それにしても、差出人の意図が分からないのです』」


「『《意図が分からない》とは?』私は言った。ルージュの方を見てみるとは何やら察している様子だったが、カエデに説明を促した」


「カエデは脅迫状を手に取って話した。『《オンブルの名手である貴方は当然》というような書き方がされてくるのですが、なんというか"当然"と言われてもピンと来ないというか。グノーがされたことはほんとにむごいことですけど、そこまでグノーと私の仲は良くないです。ああいや、仲が悪いという意味ではないですけど。何かこう、《親友や親族》を脅して身代金や快楽殺人やデスゲームを興じるような雰囲気で、実際には《そこまで仲が深くない人物》をターゲットにして、本来の向こうが考えてそうな目的が見えないというか……"娯楽殺人"と"オンブル"も結びつかないし』」


「私は何と形容していいやらで、黙ってしまい、カエデ・フイユもバツが悪くなって口を噤んだが、代わりに今まで静かに話を聞いていたルージュが説明をはじめた。手にはトランプを持っていた」


「『ハロルドは首都グリーンリッター出身ではないし、"オンブル"を知らないだろう。逆にカエデはオンブルを知り尽くしてるが故に『ライト層』がオンブルにどういう印象を抱いているか、に考えが及んでいない』ルージュは手にしていたトランプを適当にルージュ自身、私、カエデの前に手札を配った」


「『オンブルは3人で競技する卓上競技だが"チームゲーム"だ。この意味がわかるか? ハロルド』」


「『えっと、そうだな。各ラウンド毎に個人軍とチームに分かれて、最終的にはラウンドポイントの合計値で個人点を算出する。みたいな感じ?』」


「『正解。臨時でパートナーシップが求められるため、社交の場で人気が出たと言ってもいい。では次、単独プレイヤーと複数プレイヤーに別れると単独プレイヤーが不利に思えるが、このゲームのバランスは競技として優れている。どうやってバランスを保っている?』」


「『単独プレイヤーの点数を倍にする?』」


「『残念不正解。それだと手札を適当に配ったことのランダム性で理不尽な試合が沢山起こる』」


 ボクはオンブルの派生ゲームで、『点数2倍を採用する代わりに他の箇所でバランス調整しているゲーム』も知っているけど、話を折りたくないので黙っていた。


「ルージュはオンブルの大事なルールを教えてくれた。『正解は、《オークションで勝利ポイントを釣り上げる》だ。手札の強さを各プレイヤーは推察して、持ち点をベットする。1番得点を釣り上げた人物がソロプレイヤーとなり、残り2人はタッグを組んで対抗する。誰もソロプレイヤーになりたがらなかった場合、そのラウンドは"流れ,パス"になって、参加料は次のラウンドに持ち越される』」


「ここでルージュは『週間オンブル』という雑誌を取り出した。選手成績ページを開いた。『ここにカエデの戦歴が書いてある。ピエレッタ・グノー氏と同卓だった直近20試合の記録を確認したまえ。7割は第3のプレイヤーが『単独宣言』をしており、グノーとカエデで3割を分け合っている』」


「カエデはまだ首を傾げたが、まさにルージュに教わっていた私は合点がいった。『グノーとカエデの2人が"チーミング"してるみたいに見える!』」

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