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触手の擬態 ⑥

「鳥に騎乗したマスクの男は私を後ろに載せて、村全体を俯瞰した。『あーあー、これじゃハロルド以外全滅か』」


「村から離れた岩山の開けた箇所に着地して、2人で息を吐いた。『さて、一応こちらが把握している展開と合致してるか、君の言葉で確認したいな』マスクの男は言った」


「『その前に、マスク取ってよ、その口まで覆った仮面、声も篭って判断出来ないよ。――ルージュ・フイユ?』私は先程の怪物討伐からだんだんとマスクの人物が誰か合点が定まってきたが、ここに来てやっと確認できるタイミングになったんだ」


「『失敬、失敬。久しぶり、ハロルド。魔法大学の学部以来だな。5年振り?』ルージュはにこやかに言った。私とルージュは、昨年こういった経緯で再会したんだ」


「『やっぱりルージュ、君か!卒業したあと世界を冒険すると言っていたが、『多世界転移管理局(パラレルエージェント)』に入局していたのか!』」


「『まあね』と言ってルージュは手を差し出した。5年振りの再会に2人で握手をした」




   *      *



 

「『あの巨鳥は15分しか人を乗せれる体力がない……瞬間速度は最速だから重宝されるんだけどね』ルージュは騎乗してきたグリフォンを身軽にして空に離し、私に事情を説明しながら山を下りた」


「ルージュもボクみたいにワイバーンに乗れるけど、昔からグリフォンの方が趣味だったからね。瞬間の速さをよく追い求めていたね」魔法大学でのルージュを思い返した。


「ルージュはそんなグリフォン好きだから、途中で降りて徒歩になってもへっちゃらなやつなんだ。私は息も絶え絶えだったけど。『ハァ、ハァ。それより、あの怪物は?』下山に集中したかったがどうにも気になったので、質問した」


「『アレは"外来種"だ』ルージュは答えた」


「『それは"パラレルワールドの"って意味?』」


「『ご名答』ルージュは続けて触手の化け物についての調査書を私に投げ渡して解説を続けた。『この世界には本来《存在しない》はずだったが、ここ3年で数体確認されている。どれも《パラレルワールド》の転移絡みの事件で現れるな。半世紀前に"この世界"の有史でも《異世界転移・転生》の魔法が発明された。しかも、ある程度上級の魔法使いであれば再現性が高い魔法であった。四半世紀前くらいに規制する法律ができたが、守らないやつは中々減らないし、時折甚大な被害を出して既存の政府機関では間に合わなくなってね』」


「『それで、数年前から多世界転移管理局/パラレルエージェントができたということか』私は言った」


「『実は創設メンバーだぜ、俺』」


「『ほんとに!?』」


「『まあ、稼働数年は色々政治絡みや悪徳魔法使いの目を鑑みて所属を非公開にしてたんだけどな。だから君にも教えていなかった』ルージュは本気で申し訳ないといった表情で手を合わせた」


「『知っていたら、事件に巻き込まれた段階で連絡を入れたのに!』私は嘆いた」


「『ほんと、調査団のメンバーの1人にアシスタントとしてハロルドの名前を見た時は頭を抱えたよ』ルージュは私を助けるためにも急いでグリフォンを使って助けに来てくれたんだ。下山の疲労に文句など言ってられないね」


「私は調査書に目を移した。『村長であった魔女は火遊びしてしまったのかな』」


「『偽勇者に討伐されてしまった今ではなんとも言えないな。事故か事件か、過失か故意か。ただ、最期まで封印しようと頑張っていたのは事実だ』」


「『あの、触手で人間に擬態するのも怪物の能力?』ああ、やっと私は勘違いが正される」


「『能力って言えば能力だけど、ちょっと想像してるニュアンスと違うな。パラレルワールドの《君たち村民》があの怪物に捕まって、その後こちらの世界に《捕まった村民》ごと怪物が転移されてしまったのだろう』」


「『……じゃあ、最期怪物倒した時に撃たれたのは、どっかの世界線の私自身?』私はどんよりした顔で尋ねた」


「『残念ながらね。既に取り込まれた《パラレルの村民たち》はとっくに"死んで"いて、ゾンビ状態にされていたから、どの道助かる道はなかった。触手の怪物は一気に食べ物を消化せず、触手を巻き付けてジリジリ養分を吸い取るんだ』」


「『2つの身体がくっついてバラバラドロドロになったのは――』私はだんだんと"現象"について思い出してきた」


「『あれは"自然の摂理"だよ、ハロルド。並行世界から転移して、同一魂・同一肉体が急接近すると起きる現象だ。《ドッペルゲンガー現象》と命名されている。あの触手の怪物は、その自然の摂理を利用するんだ』」


「『今になってやっと、魔法大学で教わったことをしっかり思い出したよ』私は合点がいったので、それで話を切り上げて下山に集中しようとした」


「『下山に集中しようとした』けど?」ボクは筆を止めて質問した。


「ああ、いや、なにか事件が追加で起きたわけじゃないよ、タツキ。ただ、私の"去就"の問題でね」


「『お疲れのとこ悪いけどさ、君、帰ったらどうするつもりだい? 今後』ルージュは真剣な声色で聞いた」


「私は足を止めた。『……考えないようにしてたが、やっぱまずい状況だよね』」


「『村民も調査団も魔女も君以外全滅だろう? おまけに怪物も捕えることはできず完全に殺しきったおかげで消滅さ。責任転嫁でお偉いさんは君に責任を擦り付けそうだね』」


「『うう、研究職は続けられないな』」


「『それどころか刑罰もあるかも』ルージュはわざと声の緊張感を誇張させた」


「『散々だ!』」


「『そこでだ』ルージュは人差し指を立てて提案する。『ハロルド、《多世界転移管理局/パラレルエージェント》へ入局しないか?』」


「『いいのか!?』」


「『今回君は巻き込まれた側だし、どこか機関に所属して後ろ盾があった方がいいだろう。まずは研修生となって、現役局員に仕事を教わることになるが……話の流れ的に、俺が教官役だろうな』」


「『恩に着る』」


「『これからよろしく、ハロルド』」


「こうして私は現在、ルージュと共にパラレルエージェントに務めていて、時折竜騎士である君とも仕事をするようになった」

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