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触手の擬態 ⑤

「『ハッハッ、ハァ』私は息も絶え絶えに逃げてきたが、ついに行き止まりになってしまった」


「タツキ、そこの崖なんだが、以前は吊り橋が掛かっていたんだ。徒歩の場合、それを渡らなければ外へ出入りできない。その橋が崩れて通れなくなっていた」


「崩れて? 触手の怪物のせい?」少し違和感があって尋ねた。


「当時は特に気が回ってなかったが、崖の下に何人もの村民の死体があった。死体が消化されず残っていたので、多分一度に渡っていい人数を超えてしまって、橋が崩れたのだろう。魔女も勇者も橋の補修どころじゃなかったんだ」


「『う……来るな! 近寄るな!』私は怪物に石や研究室から持ち込んだ劇薬などを投げつけたが、まるで意味がなかった。触手の怪物はだんだんと小さくなっていき、私自身の姿になった」


「まるで調査員から触手の化け物に変貌したことの逆再生だね」ボクは類似点を指摘した。


「それはいい着眼点だと思う、タツキ」ハロルドは質問に答えて、回想を再開した。「私の身体を模した怪物と退治していると、だんだん身体が痛み出して、磁石のように吸い寄せられる感覚に襲われた。私は崖の下を眺めた。『あの怪物に無惨に喰い殺されるくらいなら……』川が流れてるが、さすがにこの高さじゃあ助からないかもしれない。『でも、こいつに食い殺されるよりはよっぽどマシだ!』勇気を振り絞って崖から飛び降りた」


「20m以上の落下では、水面はコンクリートと変わらぬ硬さだからね」ボクは竜騎士として飛行をする以上、そういう知識は不可欠だ。


「私も飛び降りに躊躇したのはそれだ。何とか足先から落ちれば命は助からないだろうか? という賭けさ」


「川に打ち付けられる感覚があると思っていた。しかし、クッション性のあるものに包まれて受け止められた。『た……助かった?』」


「『おい! 大丈夫か!? 魔法大学研究生のハロルドだな』マスクを被った男が、体長5mほどの魔獣グリフォンに乗って空に向かって飛んでいた。彼が布を広げて私を受け止めたんだ」


「マスクの男が急にハロルドを助けた、と」ボクはニヤリとしてメモをしたためた。


「まあここはマスクの男として話を聞いてよ。私は彼の素性が分からなかったので、忠告をした。『……あ! 上に戻らないでください! 触手の怪物が、村民を襲って、崖の縁にいます! もう生き残りなんて……』」


「『でも、異世界からきた怪物を野放しにはできないだろ? ハロルド』やけに親しげに話して来る男の腕には『多世界転移管理局(パラレルエージェント)』と書かれた腕章をつけていた」


「『アレがなにかわかるのですか!?』私は驚いた」


「『ああ、だから判明した時点で研究室やこの村の勇者や調査団と連携して捜査しようとしてたんだが、どことも連絡取れなくて、聞くと勝手に先人切ったと言うじゃあないか。おかげで被害がこんなに大きく――』マスクの管理局員が言い終わる前に、グリフォンは私の姿を模した化け物に対峙して、怪物が襲いかかってきた」


「『村人に化けて、磁石みたいにくっついて来るんだ!』私は訴えた。管理局員である今ならともかく、当時の私は察せなかったんだ。バカにしないでくれよ。タツキ」


「『あれ、魔法大学の科目で教わらなかったかい?《ドッペルゲンガー現象》だよ』マスクの男は私に名称を教えてくれた」


 ボクは話の邪魔をしちゃまずいだろうと思ったので、『ドッペルゲンガー現象』の詳細を知っていたが、そのまま話を聞くことにした。


「マスクの男は、腰から拳銃を取り出した。『あの触手の怪物は《巨大ウニキンチャク》って、我々の団体はそう名付けていてね。取り込まれた人間全部の"死骸"を完全に機能停止にすれ勝手にば消滅するぜ』マスクの男は私、ハロルド似の化け物に標準を定め、引き金を引いた」


「『ウヴォアアアアアアアアアアア』私にそっくりな姿をして穴という穴から触手を生やした怪物は、頭部の額ど真ん中に銃撃を受けた。叫び声をあげてドロドロに溶けていった」


「『HEAD SHOT!!』マスクの男……ルージュ・フイユがゾンビを倒す時、カッコつけて言う決めゼリフだね」

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