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触手の擬態 ③

「私が廃村前のこの村に到着した頃に場面を戻そう」ハロルドは言った。「私は国立の『各自治区監視調査団』数人に付いていって、魔女の工房跡地に到着した」


「『ここは、私が村を出て魔法大学に通う前から存在している建物です。魔女は村長になる前からここに住み、ずっと魔道具の製作や薬草の調合などをしていました』私は調査員に説明した」


「『なにか当時と違う点はあるか?と言っても、こんな廃墟みたいになっちまってると違いすぎるか』調査員は尋ねた」


「『……特に。私には、わかりません』」


「『チッ、使えねーな』調査員は私に悪態をついた」


「『うう……帰りたい。"元村民だから"って理由で私を連れて来たって、助けになんてならないよう……』なんて、当時の私は思ったね、声に出さなかったけど」


「『あ? なんか言ったか』」


「『い、いえ、別に』」


「『全く、お上から《封印されたモノの回収・研究のため研究員を連れていけ》っつう命令だけどよー、なんでこんな使えないやつがお供なんだ!?』」


「『それは、この村の出身だから……。ああ! 睨まないで下さいよ! 研究室で一番成果が遅れているのが私で、《何とか研究室のノルマを達成するために調査についていけ》と、教授に言われまして――』自分で今思い返して説明してても、情けないはなしだな」


「『は〜〜。そんなこったろうと思ったぜ』などと悪態を放って、調査員は私に荷物を押し付けた。工房に入ろうとしたところで、ある人物に声をかけられた」


「『貴様ら、魔女の手下か? 何をしている!?』声の主は勇者レイであった」


「『……国の調査団だよ。《魔女討伐しました》《はい分かりました》で話が済むわけねー』この調査員の悪態は私だけじゃなくて全方位に向いてて、そこは一周まわって関心だよな」


「勇者レイは呆れながらも返答した。

『今、民衆の生活が戻りつつあるんだ。それに満足せずマニュアル通りのお役所仕事で引っ掻き回すのは、歓迎出来ないな。まあでも、その工房は既に機能してないし、好きに調べればいい』」


「勇者レイはほかにも2、3つほど政府への不満をぶつけてその場を去った」


「『なんか、勇者レイってこの村出身って見た目をしてないんですよねえ』私は調査員に話した」


「『そんなことはもう何日も前に把握してる。《異世界転移》で勇者の素質をある人物を連れてきた可能性があるとかで、《パラレルエージェント》が介入しようとして来てるんだ。俺らの調査を邪魔しやがって』」


「『パラレル……なんです?』当時の私は知らなかったんだ」


「彼はどんどん不機嫌さを増幅させていった。際限ない。『《パラレルエージェント』! 別名《多世界転移管理局》つって、ここ2~3年で新設された新しい捜査局だ』ちょっとネタバレをすると、この調査員は事件で亡くなっている。出なきゃ、詳細を思い返して話そうなんて思わないね」


「彼は悪態をつきつつ必要なことは全部教えてくれるので、ある種のツンデレだったのかもしれない。男から男へのツンデレ。私はいらない。普通に教えて欲しいね。『管轄争いなんだよ、この事件の調査は。魔女の"封印"作業にも《転移・転生魔法》が絡んでるとかで、パラレルエージェントが捜査権を渡せと迫ってきてな。国中の村、自治区を調査する俺らの《自治区監視調査員》は管轄権争いに負けないよう、あの手この手を使っている』」


「話している内に怒りが頂点に達し、握りこぶしで私へ悪態をついた。『お上が《あの手この手》してるうちに、ミスっておハロルドみたいな使い物にならないアシスタントを雇っちまってるんだ!』」


「『そんな私本人に愚痴らないでよ』」


「『お前しかこの場にいねーからしょうがないだろ? もっと使える人間よこせよなー』」


 ボクはハロルドが自分に向けられた悪態を解説している姿を申し訳なく思った。「なんか、詳細を聞きたいっていったけど、もうちょっとそこら辺はやんわりした表現でいいぞ。すまんな」


「ありがとう、タツキ。でも、キミは私が怒りを発散させる時は劇場型ってことを知ってるだろ? 私なりのストレス発散をしているから、今は気を遣わなくていい」


「『こいつよりパラレルエージェントが来てくれた方がよっぽどマシだ!』私は喉元まで出かかった言葉を抑えた。」


「『工房を探索するから、お前は出入り口を見張ってろ』調査員は言った」


「私は言われた通り出入り口で待機することになった」




   *      *




「しばらくすると、さっきの勇者レイが、他に数人連れて魔女の工房までやってきた。『さっきの口の悪い調査員は魔女の工房に入っていったか? そこの下僕』」


「『"下僕"じゃなく魔法大学の研究者でアシスタントのハロルドです』」


「『ハロルドくん。しかし研究者が出待ち・待機しているのは、理にかなってないんじゃあないか?』」


「『私もそう思います』」


「『素直なやつだ。引き続き素直にそこに突っ立ってな』と言って、勇者一行は魔女の工房に入って行こうとした」


「『あの……さっき《魔女の工房は調べてもいいだろう》的なこと言ってましたよね。なにか事情が変わったんですか?』当然の疑問を私は投げかけた」


「『お前が知る必要はない』」


「当時口には出さなかったが、どいつもこいつも気が立ってる現場に当てられて、私も『それ以上悪態吐くと殺すぞ〜』って気分になってきて仕返しをしたくなったんだ」


「私は言った。『あなた、この村の人じゃあないですよね。私はこの村の出身です。そんな風に村民を扱うなんて、勇者としてはともかく、《統治者》としてはいかがなものかと思いますね』村人から崇拝されて天狗になってるやつには刺さるだろうね」


「『貴様――』」


「『あと、異世界から転移か転生してきたんですよね』まだ疑惑だけど、決め打ちで聞いてしまえ! という思いで、勢いでまくし立てた。『誰に呼ばれたんですか? もしかして魔女?』」


「そうそう、それでこそボクの知るハロルドさ!」ボクは大学生の頃のハロルドのズケズケした部分を気に入っていた。


「『お前、殺されたいのか?』勇者レイは言った」


「『その返答、図星ってことだよな』そう私は思って、その後の"メイン"を伝えた」


「私は勇者レイに知らないだろうことを承知で伝えた。『違います。《パラレルエージェント》って、知ってます? 知らないなら教えようと思って。異世界転生・転移を含む、パラレルワールドの事件・事故を調査する団体です。正直に言うと、さっきの調査員はパラレルエージェントとは"犬猿"みたいで、パラレルエージェントが到着するのを待たずに行動してるんですよ。勇者"様"は彼らのこと、把握してますか?』」


「『……いや、必要ないな』勇者レイはなにか焦りがあったのか、私のことなどお構い無しになってパーティメンバーとともに魔女の工房跡地に入っていった」

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