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ヤンキー女騎士とナルシスト魔術師の魔法事件簿  作者: デューク・ホーク
「不良騎士」と「ナルシスト魔術師」の名が轟いた出来事 (第1話にしておまけ。とばしてもよい)
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ナルシスト魔術師はTS趣味、攻め派

登場人物


レギュラー:

タツキ・ドラゴネッティ - ボクっ娘の竜騎士 語り手

ルージュ・フイユ - 自分好きなナルシスト魔術師


ゲスト:

ブリザード - 風紀委員系の堅物女騎士 黒髪パッツン

教官 - 学生騎士団の指導教官 セクハラ上司

 ボクの活動を綴る上で、全年齢対象に努めようとしたが、一話目から不穏な空気漂うタイトルになってしまった。

 しかし、『月間魔導書』編集部が本のタイトルを『ヤンキー女騎士はナルシスト魔術師を観察する』というタイトルに決めたので、その流れに沿うストーリーが第一話にある方がいいだろう。


 これはボクが魔法大学の学生の時の話。




   /不良騎士, タツキ・ドラゴネッティ




 ブリザードという女騎士がいた。堅物でいかにもな「騎士道精神」をモットーに生きてる人間だ。

 実際には、まだ騎士は正式な肩書きではない魔法大学の学生なんだけどね。


「キミといるといつも疲れるんだよ。付きまとわないでくれ! 不良学生の幼なじみに付きまとう黒髪パッツン風紀委員のつもりかい!?」ボクは彼女に悪態をついた。


「……何を分けの分からないことを」ブリザードは実際にパッツンの前髪を一瞬触ったあとその手を下ろした。着ているのは学生服ではなくガシャンガシャンうるさそうな鎧、おろした手の先にはサーベルが携えられていた。「いい加減そのふざけた態度を改めろ! 不良騎士タツキ・ドラゴネッティ!」


 ブリザードに呼ばれた通り、ボクの名前はタツキ・ドラゴネッティ。彼女が大学内の道中で「不良騎士」と喚き立てるため、すっかりあだ名として定着してしまった。


「何をそんなに怒ってるのさぁ」ボクはやれやれといった感じで肩を竦めてため息をついた。「ツンケンな幼なじみに恋心を抱かれる展開なら確かに面白いけど、それにしたって剣先を向けるのは物騒すぎだね」


「時折騙るその恋愛設定はなんだ。第1私は女でお前も女だ、タツキ。私はレズじゃない」


「ああ、ブリザード。恥ずかしがらなくたっていいんだよ。キミの愛を受け止めてあげ……うわ! 危な!」ボクの演説が終わる前にブリザードは剣を前に向けて突進してきた。


「お前がエスケープするせいで、同班の私たちにまで迷惑がかかってるの分からない!? もう我慢できない、決闘よ!」


 彼女はボクに白手袋を投げつけた。そして槍しか持ってないボクにサーベルも投げつけた。


 ボクは受け取らずサッと避けた。


「あ!?」


「やだね。剣は苦手なんだ。どうにもスタイルが合わないんだよね」


 ブリザードはこめかみに血管が浮き出てるのがわかるくらいにわなわなと震えた。なにか罵声を飛ばそうとしていたようだが、ボクと彼女の間に教官が割って入ったことでこれ以上事態が悪化することはなかった。


「風紀を取り締まることを任命したが、そこまでことを荒立ててては騎士道から外れてしまいます」教官はまずブリザードを窘めた。


「そしてドラゴネッティ」ボクに向き直って教官は言った。「君は竜騎士として類まれなる才能があるから我ら騎士団に招いたというのに、どうしてこうも不真面目なのかね?」


「不真面目、と言われましても。ボクが必要な最低限の活動は行っています。ブリザード先輩が招集した内容はボクにとって義務ではありません。竜騎士のジョブを習得するために仕方なく騎士団に入っている身であるボクに時間外活動をさせる方が良くないですね」


 教官は明らかに怪訝な表情でボクを睨んだが、ため息をついてブリザードとその場を後にした。


 教官がブリザードの肩に手を当てて優しい言葉をかけて、彼女が一瞬だけ不快な顔をし、騎士道のために耐えてまた毅然をした一連の流れをボクは見逃さなかった。




   /ナルシスト魔術師ルージュ・フイユ




 ボクとブリザードの一悶着が魔法大学キャンパスの中心地の噴水で行われたため、瞬く間に騎士団や魔法学生の間で噂が広まった。


 ボクの数少ない友人、ルージュ・フイユにも。


 彼は過去の偉人を演じて力を分けて貰ったり、ダンスを舞って魔術の力を増幅させるアクターのジョブについていた。


 彼の評価は二分していた。いちいち所作が「鼻につく」と言ってくさす人と、彼をアイドルかのように認識して追っかけ、推し活をやってる人の2種類だ。


 フラットにこのナルシスト魔術師ルージュ・フイユを評価できたのは、ボク含めごく少数の友人のみ。「憧れは理解からもっとも遠い」とは、ある漫画のキャラの言葉だったか。



「普段は噴水前は俺のパフォーマンス上だと言うのに、今日は随分キミが名を売ったね」ルージュはペン回しをしてダラケていたボクの隣に座ってわざとらしく笑った。


「ブリザード、彼女ははしつこいからね。それにあの教官……嫌いなら従わなければいいのに」


「色々ブリザードに文句言ってたが、結局のところあの"すけべ教官"が近くにいるのが嫌なんだろ?」ルージュは手鏡を出して髪型をいじりながら話題を続けた。


「『……文句を言ったが?』」ボクはルージュの手鏡をひったくって顔を自分に向けさせた。「何を噂で聞いた風な態度で話してんだよ。見てたのかよ。見せもんじゃあないぞ」


 まあまあ、とルージュは言って手鏡をひったくり返した。


「俺は俺であの教官に目をつけられてるからさ。その場で俺まで登場したら収集つかなくなるだろ?」


「……ボクは『不良騎士』として有名になっちゃったからアレだけど、なんで優等生のキミが目をつけられるのさ」


「優等生、って評価の仕方は表向きだね。結構俺を妬む奴らも多くてさ。そいつらからしたら『ナルシスト』なわけよ。アクター兼ダンサーってジョブなんだから理解示してよって感じなのになー。やっぱモテちゃうからね」


「あー、ブリザードはキミのこと好意の眼差しで見てたからな。あの教官からしたら面白くないか」


「まあ、もちろん事実で、それが前提の話ではあるんだが……」ルージュは続きを言っていいか悩んで口を噤んだ。


「そこまで来たら聞かせろよな」


「……あの教官、ムカつく男子がイケメンだったらその男子を飼い慣らしたいタイプだろうね。つまり……メスぉ」


 ルージュが言い終わる前にボクらのいる空き教室に例の教官がやってきた。


「ルージュ・フイユ。話があるので来なさい」


「……もし俺が何も言わず帰りが遅くなってたら、キミも何も言わず肩をさすってくれ」ルージュは真顔で(おそらく冗談を含ませて)ボクに言って教官について行った。


 正直不安感が取れず、ルージュの置いていった手鏡を握ってずうっと手遊びしていた。




   /鏡の向こうは成人向けにつき




 前章で思わせぶりな〆を書いたが、実際にはさっさとルージュは空き教室に戻ってきた。

相手を蔑んだ表情と、何やら悪巧みしている表情の2つが混ざったような素振りを見せた。


「教官はキミになんて言ったんだ?」ボクはルージュに尋ねた。「もしくは、君は何を企んでいるんだ?」



「……あの教官、どうやら"スマホ"という魔道具を持っていてね」ルージュは呆れたように言った。「俺は"科学世界"から来たキミに事前に聞いていたから、そのスマホの画面の目玉のデザインが意味するところがわかったよ。予想大当たり。いや、女性ホルモンの多くなった俺も趣きはあると思うけどね?」


「めちゃくちゃ危機一髪じゃあないか!」ボクは焦って立ち上がった。「早く魔法省の取り締まり局につき出そう。あんなのが学生騎士団の教官? 腐ってるな」


「いやーまあそうと言えばそうなんだけど」ルージュは相変わらずもったいぶった言い方をした。


「まだなにかあるのか?」


「……スマホをかざしてきた時に『鏡返し』で逆に教官に跳ね返るようにしたらね、――俺は手鏡を2つ持ち歩いてるんだ――、教官、俺にかけようとした催眠がそのまま跳ね返ってしまったみたいで、なんか急にここじゃ言葉に出すのがはばかられるような仕草をした後、鏡に入って行っちゃって」


「『鏡に入っていった?』」ボクはほぼそのまま復唱した。


「そ、俺が持ってるこの手鏡の中にね。言ったでしょ? 『俺が女だったとしてもイケてるだろうな?』って。この鏡は、実際にそうであった並行世界を観るためのものなんだが、それで俺が女だった世界線を覗いていたんだ。向こうの俺も俺が覗いたことに気づいていたかな? 教官が催眠をかけようとしてきたから、咄嗟に鏡返しの術を使ったけど……うん。向こうの世界に飛んでいっちゃったみたい」


 ルージュはてへ☆っとわざとらしい女子がやるような愛嬌で自分の頭を叩いた。


「キミって、ボクに負けず劣らずのトラブルメーカーだよ」


「いやいや、一緒にしてもらっちゃ困る。まあ、女子の俺、ルージュちゃんはあの教官のことどうするんだろうなー。ちゃんとこっちの世界に返してくれるといいが。そしたら何が起きたかわかるよ」


 この話の冒頭で断った通り、全年齢に向けてボクは筆を走らせている。だからここから先はざっくり、大雑把にぼかしながら記述しよう。




 教官がルージュの手鏡から出てくるのに1ヶ月もかかった。しかも教官の身体つきは男性のものから離れていた。送り返された時の姿はここに記述できないような格好で、鏡の向こうで女体化したルージュがあざとく笑った。


 教官が失踪してしばらくはルージュは事情聴取で取り調べを受けたが、手鏡を取り調べ人と一緒に覗き込む姿はある意味男子の青春のようだったと話していた。


 教官の悪評は元々噂されていたが、確実なものとなって瞬く間に広がり、学生騎士団は当面の間活動休止となった。

 風紀委員系騎士ブリザードはルージュに気があったが、女体化したルージュが手鏡越しに悪い顔をしていたのを見て気持ちが萎えたようだった。学生騎士団の活動も止まり、気がつけば魔法大学にも来ていなかった。今は他国で騎士団の活動を続けているらしい。教官のセクハラ事件のせいでブリザードの風紀取り締まり欲はますます助長されたようで、彼女の活躍をよく噂で耳にする。




 ルージュは手鏡を一度没収された。並行世界を覗ける鏡など一介の学生が持てる代物ではないからだ。鏡は彼の自作物だったが、彼がこの魔道具を作った理由はのちのち語られるだろう。




 ボクとルージュは2人組として「不良騎士とナルシスト魔術師」と呼ばれて学園トップクラスのトラブルメーカーとして有名になったとさ。

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