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女帝と受容の庭

少女は扉の前に立ち、その向こうに広がる世界をじっと見つめていた。

扉の鍵穴にそっと手を添えると、温かな光が広がり、柔らかな風が吹き抜ける。


扉の向こうに広がっていたのは、豊かな緑に満ちた庭園だった。

色とりどりの花々が咲き誇り、果樹はたわわに実り、川のせせらぎが心を落ち着かせる。

空は穏やかに輝き、陽だまりの中では動物たちが静かに憩っていた。

そこには、まるで世界そのものが少女を迎え入れるかのような温かさがあった。


中央には、美しい装飾が施された玉座があり、そこに一人の女性が座っていた。

ふんわりとした衣をまとい、優雅な仕草で少女を迎える。

彼女は微笑み、ゆっくりと立ち上がると、手を広げて言った。


「ようこそ、私の庭へ。」


「あなたは……?」


「私は『女帝』。この世界では、すべてが受け入れられるの。」


少女は戸惑った。

これまでの旅では、「答えを見つけなければ」と焦り続けていた。

だが、この世界はまるで「ただ存在するだけでいい」と囁いているようだった。


「……私が何もしなくても、受け入れてもらえるのですか?」


その問いに、女帝は静かに頷いた。


「あなたは、あなたのままでいいのよ。」


少女は言葉を失った。

受け入れられるために何かをしなければならないと思っていた。

何かを証明しなければならないと思っていた。

でも、この場所は、ただここにいるだけで、すべてを肯定してくれる。


「でも……私はまだ何もできません。」


少女は自分の手を見つめた。

力も知識もない。ただ、ここにいるだけの存在。


「それでも、私はここにいてもいいの?」


女帝は、そっと少女の手を取った。


「大地が花を咲かせるように、木々が実を結ぶように、あなたもまた、ありのままで美しい。」


「何かを成し遂げなくても、価値があるの?」


「もちろん。あなたが生きていること、それだけで、すでにこの世界の一部なのよ。」


少女は胸がいっぱいになった。

この旅の中で、ずっと「自分は何者なのか」「何をすべきなのか」と考えていた。

でも、ここではただ「今の自分」でいることが許される。


彼女はそっと目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んだ。

心の奥底にあった不安が、少しずつほどけていく。


——私は、私でいてもいい。


ふと、女帝が少女の手に何かを握らせた。

それは小さな種だった。


「この種を持っていきなさい。」


「これは……?」


「あなたの内側には、無限の可能性が眠っている。この種が芽吹くように、あなたもまた、自分の内側から何かを生み出せるはずよ。」


「でも、私にできるでしょうか?」


「できるわ。でも急がなくていい。芽吹く時を待ち、育てる時間を楽しみなさい。」


少女は種を両手で包み込んだ。

それは、小さくても確かな温もりを持っていた。


この旅の中で、彼女は何かを「探す」ことばかりしていた。

でも、今は「待つこと」も大切なのだと、初めて気づいた。


「ありがとう、女帝様。」


女帝は微笑みながら、少女を優しく見送った。

やがて、庭の光が少女を包み込み、新たな扉が現れる。


少女はゆっくりと歩き出した。

手の中には、未来への可能性を秘めた小さな種があった。


——次なる世界へ。新たな気づきを胸に。


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